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縁に恵まれる

 





「この度、新たに弟子を二人取った。皆にとっては苦楽を共にする仲間であり、ライバルが増えることにもなる。

 これまで通り、新入りに教えてやってくれ。そうだな…ギルテン、お主を弟弟子達の世話係とする」


 山の中腹にある剣の里。

 そこでは日夜、剣聖候補達が汗を流している。

 ここにいるのは全員が剣の頂を目指す者たち。

 即ち、お手伝いさんもいないわけで、炊事洗濯なども当番制で行なっているとか。


 今話している紫髪の大男は、この剣の里を預かる剣王グレナード・グレード。

 カーバインよりも歳がいっており、今年で50歳だと聞いた。


 ただ筋骨隆々であり、初老と舐められる風貌じゃないんだよね。

 前世の言葉を借りるなら、ロン毛が似合うイケおじって感じかな?

 アメリカとかでハーレーとか乗り回してそう。


「ギルテンだ。歳は17だが、剣の里では年齢は関係ない。ジンにアインだったな。

 先ずはここのやり方を教えてやる。ついてこい」

「おう」

「うん」


 剣王から指導係に指名されたギルテンと名乗る青年が話しかけてきた。

 身長は剣王と同じくらいで、僕より2センチほど高いから180cmくらいだろう。

 そんなギルテンは無愛想な口調とは裏腹に、親しみやすい顔つきで僕らを迎え入れてくれた。


 ギルテンの髪色は珍しい青で、綺麗に短髪に刈り込んでいる。






「以上が俺達の生活圏だ。質問には答えない。それがここのルールだからな。

 わからないことは剣でも何でも自分で答えを見つけるんだ。

 いいな?」


 施設…といっても、家屋が数軒程の小さな村のようなもの。

 案内は直ぐに終わり、ここでのルールも一通り聞けた。


「うん」

「おう!」


 アインはやる気に満ちている。

 早く剣が振りたくて仕方ない様子だね。

 気持ちはわかるよ。

 態度には表していないけど僕も同じだから。


「修行だが。ここでは全て自発的に行う。

 剣王様から指導されるかは、運次第のところもある。

 先ずは剣を振るなり、模擬戦相手を捕まえてアピールすることだ。

 因みに俺は認めた奴じゃないと模擬戦を受けないから、誘っても無駄だ」

「わかったよ。ありがとうね、ギルテン」

「よっしゃっ!いっちょやったりますか!」


 そういうと、アインは元気よく駆け出して行った。

 早速剣王の前で素振りでもするのだろうね。


「ん?どうしたのかな?」


 ギルテンの仕事は終わったはず。

 それなのに僕から視線を外すことなく立ち尽くしていた。


「…二人の動きを見て感じたことだ。悪く思わないで欲しい」

「いいよ?何かな?」


 どうやら、言いたいことがあるらしい。


「二人には、剣の里(ここ)はまだ早いと感じた。特にジン。お前はまだ成長期だろう?体幹がブレている」

「もう少しで16だけど、まだ15だからね」


 学院に入学して間も無く動乱に巻き込まれた。

 そこから今に至るまでまだ一年も経過していないからね。

 成長期真っ只中だけど、このまま行くと僕は大男になっちゃうんだろうか?

 今でも178cmもあるから、前世感覚だと大きいんだけど……


「アインは年齢的なこともあるが、ジンはまず身体を作れ。じゃないと強くなるどころか身体を壊してしまう」

「ありがとう。元よりそのつもりだよ」

「…わかっているならいい」


 ぶっきらぼうだけど、良い人だね。

 今世の僕は本当に人に恵まれている。


 それに対して嬉しい気持ちと同じくらい、この人達に見られても恥ずかしくない生き方をしたいと強く願ってしまう。


 おっと。

 ここには強くなる為に来たんだった。


「じゃあ、僕も行くよ」

「ああ。頑張れ」


 次こそ見送ってくれるギルテンへ手を振り、その場から離れる。


「先ずは基礎からだね!」


 体作りと並行して、基礎をみっちりと鍛え直す。

 色々とプランを建てながら、頭も身体も存分に動かすのだった。







 〜〜〜〜〜〜







「ジンは相変わらず下手くそね」


 剣の里へ来てから二月(ふたつき)が経過していた。

 兄弟弟子達とは仲良くなり、剣王からも度々教えてもらっているけど……


「ベル。君も僕なんかに構ってなくて自主練でもしたら良いんじゃないかな?」

「心眼が下手くそな弟弟子の為に居てあげてるのに、酷い言い草ね?」

「いや…アドバイスなんて貰ったことないんだけど?」


 ここは剣の里にある林の中。

 木々にぶら下がる板を、目隠しをした状態で潜り抜ける鍛錬の最中。


 100m程の林の中を反対側まで駆け抜けているんだけど、どうしてもいくつかの板に接触してしまう。


 そんな僕を見て馬鹿にした笑い声をあげるのは一つ年上の姉弟子。

 金髪のショートが良く似合う活発な少女ベルだ。

 女性としては少し背が高めの170cmほど。


 その金髪も何も、目隠しをしている僕からは見えないけど、この二ヶ月の生活のお陰で声を聞けば人のいる位置もその声の主が誰なのかもわかるようにはなっていた。

 ま。里にいる女性はベルだけだから当たり前なんだけどね。


「心眼は剣聖になる為には必須よ?もっと死に物狂いになりなさい」

「いやぁ…特に称号は要らないかなぁ」

「はあ…ジンは身体も大きいし、そのナヨナヨした性格を直したらもっと強くなれるのに勿体無いわ」


 ナヨナヨって…してるのかな?

 まあ、ここにいる兄弟弟子達と比べたら、確かにガツガツした気持ちが弱いことは認めざるを得ないよね。


「でも、これは身に付けたい」

「じゃあ、頑張りなさい」


 心眼。

 それは視覚を削ることにより他の五感を鍛え、視覚に変わる感覚の覚醒を指している。


 僕の知っている剣聖アルバートも得意としている技の一つ。


 これは目が見えない状況でも戦える為の技術ではなく、目の届かないものを見る為の心眼…と、聞いている。


 簡単に言えば、これを習得してしまえば背後からの攻撃にも対応出来るけど、目的は別にある。

 それは、一閃確殺する為。


 これが出来ないと、確実に殺し得る一閃の太刀筋に迷いが出るとか。

 相手の隙。

 防具の隙間。

 視覚の隙。

 さらには心の隙間。

 それらを一瞬の内に見極めるにはこの心眼が必要で、それが出来なければ一閃確殺は叶わないんだって。


 確かに…『お前はもう斬っている』とか『一太刀で十分だ』とか、言ってみたいけど。

 でも、僕の真の強みはオーラにある。

 それを活かす為にも、この心眼は身に付けたい。


 本音は…『心眼使いと敵対した時に生き残る為』なんだけどね。


「アインはどうなのかな?最近見てないけど」


 そういえば、アインとはここ二週間ほど顔を合わせていなかったね。


「彼はもう習得したわよ。流石に極めてはいないけど」

「えっ!?もうっ!?」


 剣技ではまだまだ太刀打ち出来ないって思っていたけれど、そもそも感覚的に僕より優れていたんだね……


「そうよ。でも、テリトリーはまだよ」

「そっか。頑張っているんだね。僕も負けないように頑張らないとね」


 アインはテリトリーの存在自体知らない様子だったからね。

 流石に早々には習得出来ないだろう。

 でも、心眼は早かった。

 僕なんてまだ、目隠しをして日常生活を送るのがやっとなのに。


 そういえば、もう二週間か。

 太陽も夜空も見なくなって。









 〜〜〜〜〜〜








 ゴキッ


「ぐっ…」


 鈍い音の後、脇腹に激痛が走る。


「痛みに負けるな!隙だらけだ!」

「くあぁぁっ!」


 ギルテンの言葉に従い、痛む腹部に力を入れて木剣を構え直す。


「よし。良いだろう。治療しろ」

「あ、ありがとう…ございました…」


 心眼を習得してからは、模擬戦の日々が続いている。

 最低限、心眼を習得していないと相手にすらならない。だからギルテンは最初に模擬戦はしないと言っていたんだ。


 でも、習得したら話は別。

 ここには戦闘狂しか居らず、少しでも暇してる空気を出すと直ぐ模擬戦に誘われるんだ。


 だから僕は毎日ボロボロ……


 今日は肋骨が折れただけだから大分マシだけどね。

 昨日なんて、指の骨が2本折れたのに模擬戦をやめてくれず、頭部を守る為に差し出した右腕が折れるまで続いたんだよ……




「またなの?」


 怪我の治療の為訪れた家屋は、剣の里唯一の診療所。

 といっても、医者はいないから療養所といっても問題ないだろうけど。


 そんな診療所にはベルがいた。

 彼女がほぼ毎日ここにいるのは、ここの資材の管理を剣王から任されているからだね。


「今日は肋骨…頼める?」

「…はあ。仕方ないわね。他の人にはしないんだからね?ジンは弟弟子だから、面倒見てあげるけど」

「ありがとう…でも、優しく…ね?」


 ベルが資料片手に腰を掛けていたベッドから立ち上がる。

 僕は上半身裸になり、ベルの前に立つ。


「打撲と骨折ね」


 ここでの怪我のほとんどがそれだ。

 偶に骨が皮膚を突き破って飛び出す程の大怪我を負うこともあるようだけど、その時は医者に連れて行くことになっている。

 つまり、それ以外は自分達で治療するということだね。


 ベルは慣れた手つきで棚に並ぶ瓶を選ぶと、そこから軟膏のようなものを手に取り、そして患部へと遠慮なく叩きつける。


「ぐうっ!?」

「これくらいでだらしない声を出さないの。はい。明日までそこで寝てていいわよ」

「あ、ありがと」


 この軟膏みたいなものは、治癒能力を高めるオーラが込められている薬。

 つまり、オーラツールなんだ。

 何が言いたいかというと、僕には使えないということ。だから怪我をする度に誰かに頼まないといけなくて、そしてここにいる兄弟弟子は漏れなくみんなガサツなんだよね。

 効果を高める為に患部に強く押し当てる必要がある薬だから、怪我よりも治すときの方が怖かったりもする。


「全く…テリトリーを使えば怪我することもないのに。…馬鹿なんだから」


 ベルはそう言い残して診療所を後にした。


 なんだかんだ言いながら、弟子の中で末っ子の僕をみんなは心配してくれる。

 全く。ここの皆は良い人達ばかりで困るよ。

 つい、甘えちゃうからね。


「テリトリーを使えばギルテンにも勝てるかもしれないけど、勝つ為にここに来たんじゃないからね」


 僕の目的は強くなる為。

 それもオーラではなく、剣を鍛える。


 その為に普段頼りっぱなしになっているオーラの使用を極力減らそうと考えたんだ。

 心眼のトレーニングと同じ発想だね。


 使わなければ、伸びるナニカがあるかもしれない。


 剣で無双する未来を夢見て、今日も一日が終わっていく。

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