道の終わり
「アイン。ここからは僕が助ける番だよ」
アインは僕を殴ってでも止めるつもりだった。
僕も黙って殴られたくはないから、力を証明して見せた。
それが左手方向の森林破壊の跡。
「何だよ、それ?バトルツールでも見たことがねぇ威力だぞ?というか、ジンはオーラツールが使えないって言ってたじゃねーか!
嘘か!?ああんっ!?俺を馬鹿にしたのか!?」
違う方で話が拗れてしまったね……
「いや、使えないし使ってないよ?僕は純粋なオーラを飛ばすことが出来るんだよ。
あ、これは秘密だからね?」
これは悠久の時を生きる吸血種から教わった技だからね。
人の世界には浸透していなくてもおかしくない。
現に、王城でも学院でも使える人はいなかったしね。
使う必要がないのだろう。
そんな修練を積まなくても、自分に合ったバトルツールを使えば、何かしらは出来るのだから。
ま、これは唯一誇れる自慢だけど、僕のオーラショットより破壊力のあるバトルツールを見たことがない。
利便性は間違いなく劣るけれども……
「変な奴だとは思っていたが…やっぱり変な奴だったわ」
「四回も諦めないアインにだけは言われたくなかったよ……」
お互い様ってことで、いいよね?
「よし。行くか。五回目は流石に諦めるわ」
「それは責任重大だね」
「かといって、危なければ引くぞ」
うん。それでこそ頼れるリーダーだよ。
僕は一度死んでいるから、死に対しての危機感が普通の人よりも薄いと思う。
その辺りを補ってくれるアインは、本当に頼りになるね。
「いた。向こうも気付いてるよ」
木々の隙間から見えるのは二体の大型爬虫類。
この世界では恐竜が絶滅していないのだろう。彼らの大きさはティーレックスとラプトルの中間サイズ程。
そういえば、この山は登るほどに木々の間隔が広がっている。
出会う魔物も大きくなっていっているから生息しやすい環境のようだ。
どちらが先でどちらが後かはわからないけれど。
「じゃあ、作戦通り行くぜ」
「うん。タイミングを見誤らないでね」
そういうと、アインは森を迂回して奴らの元へと向かう。
僕はこのままゆっくりと、そして真っ直ぐ近づいていく。
『ギャォオッ』
某パークの映画で慣れていると思っていたけど、実際に聞く雄叫びは想像以上に腹の底を震わせてくれた。
その雄叫びを上げた一体が僕の方へと突進してくる。
もう一体はアインを探しているようで、その場でキョロキョロとしている。
狙い通り、好機を作れたよ。
「どりゃぁあっ!」
ザシュッ
気合い一閃。
僕目掛けて突進してきていたその魔獣へ向けて、木の上から飛び掛かったアインの一撃は見事魔獣の首の皮を斬った。
「チッ!やっぱ硬ぇぜ!」
この魔獣達は恐らくアインの予想通り、一人に対して一体がついてくる。
そして僕達とはかなり離れていたのに二体が離れずこうして待っていたところを見ると、恐らく鼻がとんでもなく良いのだろう。
だから消臭の為に草を布で包んで濾した液体をアインの身体へ散布しておいた。
これが僕達が事前に用意してきた全て。
それにより、一体はアインを探し、もう一体が隙だらけで僕へ向かうように。
『ギュゴアアッ』
「ケッ。ザマァみやがれ!」
「アイン!早く!」
流石にもう一体もアインに気付いた。
怪我を負った魔獣も、その奥で佇んでいた魔獣も、その両方が一直線になり、アインを追いかけて僕に向かって突進してくる。
まだ離れているのに、正面から迫り来る圧迫感は大したものだ。
その一歩前を進んでいるアインは無傷なのに死にそうな顔をしている。
ダメだ…笑ったら失礼だぞ……
僕は顔がニヤけてしまうのを表情筋で誤魔化し、三割のオーラを両手へと集約させる。
「今だっ!」
掛け声と共に、間近へと迫ってきた魔獣へ向けて、そのオーラを射出する。
出来るだけ速く。
そうイメージして。
「ここが…剣の里」
僕には何の感慨もないけれど、即席の相棒にとっては数年間追い求め続けた景色。
森を抜けた先には広々とした空き地があり、山の斜面の近くには家屋が数軒建っていることがここからでも窺えた。
「良かったよ。アイツらよりも強い魔獣がいたら引き返すところだったからね」
「ちげぇねぇ。確か、あっちに入場門があるはずだ。行くぞ」
「うん」
アインもここへ来るのは初めて。
だけど下から仕入れられる情報は持っているようだね。
良かった。
僕だけだと、あの建物を一軒一軒回る所だったよ。
人の気配はないから行っても無駄だろうしね。
「…お前達、剣の道からやって来たのか?」
入場門と言っていたけど、そんなものはなくて代わりに大きな鳥居らしきものがあった。
その下で鳥居を背に座っていたこの男性に声を掛けると、訝しそうな視線を隠すことなく質問してきたところ。
「そうだぜ。さあ、稽古をつけてくれよ」
「あそこを突破したのか……いや、待て。俺は弟子の一人でしかない。
師匠に聞いてくるからここで待っていろ」
待てと言われたら待つしかないよね。
それに、景色を眺めたかったし。
「見てよ、アレン。この階段って、あの階段だよね?」
「ああ、そうだろうな。次からはここを通って来れるようになる…はずだ」
この階段が剣聖への階段なんだね。
下を見ようと頑張ってみたけど、階段はほぼ一直線に続いているのに先が見えなかった。
「綺麗だね」
「そうだな」
階段の方向。
そこは木々が間引かれており、視線の彼方まで真っ直ぐに続いている。
大自然の景色もそうだけど、こうした人工的な風景も捨てがたいよね。
「先程の爆発はお主達か?」
景色を眺めていると、背後から声を掛けられた。
振り返ると先程の男性がいて、その前に紫の長い髪を後ろ手に縛った大きな男の人がいた。
声はその大きな男性のものだろう。
「俺じゃねえ。こっちの坊主だ」
アレンは立てた親指を少しだけ後方にいた僕へ向ける。
「えっと…ダメでした?」
ここは剣の里。
オーラに頼った攻撃でここへ辿り着いたけど、それが無効だと言われても何ら不思議ではない。
かといって、アレと正面から戦う気はないんだけどね。
「バトルツール…ではないな?」
「わかるんですか?そうです。アレは僕が身体から放ったものですよ」
男性の見た目は五十歳程。
前世の僕であっても敬語を使うレベルの年上だ。
前世と今世の年齢を合計したら同じくらいだけれど。
「ふむ。剣の師匠は?」
「剣聖アルバートです」
「何だと?」
その言葉はアレンから。
そういえば言ってなかったね。
普段隠しているからつい癖で話さなかったのだろう。
「ほう。そっちは?」
「俺の師匠は剣聖でもましてや一閃確殺流でもない」
「それはどうでも良い」
この人が知りたいのは、何を習ったかではなく、どれだけの実力があるのかなんだろうね。
現にテリトリーで包まれてるもん。
アインは気付いていないけど。
「あまり気持ちの良いことではないので、やめてもらえますか?」
僕にとって、隠さなければならないことはまだある。
こんな所まで誰かが追いかけてくるとは考えられないから、アルバート王国出身のジークリンドであるとバレても構わないけど、前世に関しては隠し通したい。
テリトリーは人によって得られる情報が違うみたいだし、早くやめてくれないかな……
「アルバートの奴は領域展開まで教えておるようだな」
「そうです。六年近く前に教えてもらいました」
「そうか。では、習得したのは最近か」
こっちの情報ばかりやけに聞くね……
近所のお年寄りかな?
「いえ?五年前には使えるようになりましたよ」
「ほう…では、貴様が剣神の再来か…」
「……いえ、違います」
僕には前世の記憶があるので、ハッキリ違うと答えられる。
そんな人なら、オーラじゃなくて剣でここまで辿り着けてるよ……
「アルバート師匠が何を言ったのか知りませんが、僕は至って普通の子供…いえ、今は大人です。兎に角、この気持ち悪いオーラを接触させないでください」
僕の身体に纏わりついてくるこのオーラは、この人のテリトリーだ。
オーラには個人差があるけど、この人みたいにネッチョリしてるオーラは初めてだよ……
僕のは水みたいにサラサラなのに。
不健康なのかな?
「オーラに対しての感覚は優れておるようだな。そこまで気になるなら払い除けてみよ」
アルバートも僕のことをオーラの感受性が高いって言ってたね。
自分しか知らないから感受性どうこうはわからないけど、払い除けていいならそうさせてもらおうか。
僕の全身を覆い隠すように展開しているこの人のテリトリーを、体内から伸ばしたテリトリーで弾き飛ばす。
オーラは光と同じように質量を持たないけどエネルギーがあるという不思議な性質を持っている。
同じオーラであればじっとしているものより、速いオーラの方が強いよね。
「なん…だと…?」
「師匠、どうされましたか?」
ふう。漸く気味の悪い感覚から解放されたよ。
「オーラが弾き飛ばされた」
「何ですって!?」
何を驚いているんだか。
僕の方がオーラ量も多いことはさっきのテリトリーでわかっていたよね?
剣では勝てないんだから、それくらいは譲って欲しいものだよ。




