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剣の道

 





「来たぞ!右の奴はジンに任せる!いいか!?」


 良いも何も…僕が倒さないとアイン死んじゃうよね?


「はーい」

「っ!!?気の抜けた返事はやめいっ!」


 だって、向かってきているのは……


 ピョンッ


「ウサギなんだもん…」


 飛び掛かってきた兎の()を掴んで止める。


 サイズは普通のウサギより心なしか大きくて、その額にはオーラ核と呼ばれるすべての生物が持つオーラの源が肥大化した角が飛び出ている。


「大きくてもウサギだね」


 捕まえたそれをまじまじと見るけど、野生のそれとはツノ以外での判別は難しい。

 通常目に見えないオーラをテリトリーで確認すればわかるけどね。


「何やってんだよ…捨ててきなさい」

「子猫じゃないんだから…殺すよ」


 身動きの取れない空中へ兎を放ると、剣を一閃した。


 バサッボタッ


 胴体と首が離れて、この子の生は終わりを迎えた。


 可愛くても魔獣だからね。

 魔獣は増やしても人にとっての害にしかならず、襲ってきたなら処分すると決めている。


 襲ってこなければ無駄に殺傷するつもりもないけど、本能だったとしても命を狙ったんだ。

 狩られても仕方ないよね。


「おい。どうする気だ?」

「僕が仕留めたコイツは内臓も傷つけてないから肉にするよ」


 アインが仕留めた方は……お腹が潰れてるね。

 あれは斬ったというより叩き潰したという表現の方が合ってると思う。


「馬鹿野郎!血が出てるってことは、他の魔獣がその臭いを辿って寄って来ちまうってことだ!」

「ああ。それで斬らずに叩き殺したんだ」


 成程。そういう理由だったのか。


「もし来たら狩ればいいよ。それより、ウサギは美味しいんだよ?」

「知ってるわっ!まあ…早くしろよ?」


 なんだ。アインも食べたいんじゃないか。

 そうと決まれば、さっと解体してしまおう。


 無駄が多くなるけど、手足は関節部分で落として、胴体部分は内臓を掻き出して、もも肉と胴体部分の骨つき肉にする。


「おい!まだか!?」


 アインは急かすけど、ナイフ一本での解体は初めてだから時間が掛かってしまう。

 前世の田舎暮らしでは鋏とかも使ってたから細かい部分も簡単だったのに……


「大丈夫。他の魔獣は近くにいないよ」

「お前のそれ、アテになってんのか!?」


 失敬な。

 僕の剣捌きはまだまだだけど、オーラの操作性は中々のものなんだよ?


「出来たよ」


 不恰好だけど何とかバラすことが出来た。

 あ…手が血まみれだ……


「ほら。手を出しな」

「え。うん」


 布でも貸してくれるのかと手を差し出すと、アインは鉄の筒を取り出してそれを僕の掌の上で逆さまにした。


「あれ?何も出てこないね?」

「待て待て。よし」


 テリトリーで感知しているアインのオーラが動いた。


 チョロロロ……


「おお!水が出るオーラツールだったんだね!」

「…何でこんなもので大袈裟なリアクションが出来んだよ。お前の家にも似たようなのが一個くらいあっただろ?」


 凄い。

 その凄さはテリトリーで見て初めてわかるものだ。


 アインの心臓の横あたりにある大きなオーラの塊。

 恐らくそれがアインのオーラ核。


 そこから気道を通って、筒を握る掌からオーラが伝わっている。

 そのオーラを筒の中にあるオーラ核が吸収し、水に変換して放出している様子が見えた。


「僕はオーラツールの一切が使えないからね。アインは水に適性があるんだね」

「一切って、全部か?そんなの聞いたことねーぞ?」

「じゃあ僕がアインにとっての初めての存在だね」


 初めても何もないと思うけれど。


「…兎に角、血は洗い落とせたな?」

「うん。ありがとう」

「いいって。じゃあ、先へ進むぞ」


 アインは普通に良い人だった。


 実は少し疑っていたんだよね。


 背は高いけど、足手纏いにしか見えないだろう成人したての子供。

 その面倒を態々見ようなんて人は恐らくここまで来ていない。


 だって、ここは自分の足で立って、自分の腕を磨く為の山なのだから。


 それなのにアインは手を差し伸べた。


 僕から見たら二択。

 アインは面倒見の良い良い人。

 もしくは、人のいない場所で身ぐるみ剥いで殺してしまおうと考えている悪人。


 結果、前者だった。


 恐らくこれまでに話してくれたことにも嘘はない。

 それ即ち、アインは本当に四回もここに通っている……


 こういう人には、諦めなければいつか叶うを体現して欲しいと素直に願える。


「何してんだ?置いてくぞ!」

「今行く!」


 アインの背中をボーッと眺めながらそんな風に考えていたら、そのアインから見捨てる宣告をされた。


 特に困らないけどこれもコミュニケーションだと思い、出来の悪い弟を演じる。


 前世も今世も僕に兄はいない。

 もし、いたなら。


 アインのように弱きを助ける優しい人がいいね。











「凄いね。ドンドンと敵が強くなってる」


 普通こんなことはなかなかない。

 ゲームのように弱い敵から徐々になんて、この世界はそれほど生優しくないからね。


「ああ。もう少し行ったら、罠も同時に出てきやがる。ホントに、剣の道って名前は伊達じゃねーぜ」

「剣の道?」

「…ジン。お前、ホントに何も知らねーんだな?」


 アインは目を細めて馬鹿にしてくるけど、知らないものは知らないんだ。

 知ったかぶりをするほど僕の精神年齢は低くもないし、堂々と知らないことを伝える。


「紹介状を持たない俺達が通っているこの道の名前だ。

 剣の里へ通じる道だから、剣の道。

 正規ルートと呼ばれているあの階段は、剣聖への階段。

 それとこれはあるのかどうか定かじゃねーが、剣の里の更に上、そこが剣の頂って言われてんぜ」

「頂ね。何があるんだろうか」

「さてな?伝説の剣神がいるって噂もありゃ、そもそも剣の頂なんて場所がないってこともある」


 剣神……それは実在するのだろうか?


「剣聖の上が剣王だったよね?その上ってこと?」

「そうだ。剣神っていうのは、お伽話で有名な四聖獣を単独で討伐したあの剣神だ」


 その話は僕でも知っている。男爵家の書庫にあったからね。

 恐らく大陸中に広く知られているのだろう。


 てっきり、フィクションだと思っていたよ。


「その人はとっくに死んでるよね?」


 剣神がお伽話の中で倒した四聖獣。

 それはドラゴン・麒麟・白色の獣(お伽話では白虎)・ギガントタートル(万年を生きる巨亀)のこと。

 それがお伽話(フィクション)なのか現実(ノン・フィクション)なのか。どちらにしても大昔の話だね。


「いや。それはそうだと言い切れねぇ」

「何故?」

「俺達人族なら死んでるが、その剣神が他の長命種なら話は別だろう?」


 確かに。

 けど、それだと人族でこの話が広まったのは不思議だね。

 長命種のその殆どは人族と仲良くないから。


「とっ。その前に、剣の里まで死なないことだな!」


 お喋りに夢中だったけど、アインは迫り来る魔獣を察知して逆に迎撃する。


 流石、四回挑戦して生きて帰っているだけはあるね。

 逆に四回も挫折してるとも言えるけど。


「この先に大きな魔獣が二体いるよ」

「…やっぱそうか」


 やっぱりとは?


「これまでは一体だったの?」

「お前、時々鋭いのやめろよ…」


 僕はいつだって真面目さ。


「ああ、そうだ。これまでの三回は一体ずつが相手だった。

 今回は勝算があったんだけどな」

「それは、僕がいるからだね?」


 アインの勝算。

 それはこれまでと比べて自身のレベルが上がっているということじゃないんだろう。


 アインは確かにまだ若いけど、極端に強くなれるかどうかと聞かれると難しい年齢に思う。

 剣を取ったのが最近であれば話は別だけど。染み付いている身のこなしから、そうとは思えないし。


「ああ。二対一なら勝てた。奴は俺よりも少しだけ強いからな」


 僕が二体見つけた魔獣のオーラとアインのオーラには大きな差がある。

 その差をこれまでに積み重ねた剣技と経験で埋めることが出来たのだろうね。

 それでもフィジカルの勝る相手に勝つことは難しかったと。


 アインの予定では、僕が隙を作ってアインがトドメを刺す。つもりだったのかな?

 聞いていないから憶測でしかないけど、大きくは違っていないだろうね。


「奴らは人数に対して一匹ずつ相手をするように調教されているんだろうな」

調教師(テイマー)ってやつだね」


 強い魔獣を飼っている人がいることは知っている。

 冒険者でも稀にいるみたいだし、大きな街には普通に何人かテイマーがいるみたいだしね。


「ああ。だが…わかったところで、ここで引き返すのは一緒だがな」


 一体で手を引いていたのに、それが二体。

 こっちも二人がかりとはいえ、向こうが一人ずつ潰す戦法を取らないとも限らない。

 アインはそれを危惧し、また僕の身を案じて引き返すことを口にしたんだろう。


 でも、ごめんね?

 僕は最強でも英雄でもないけど、そこそこ腕に覚えがあるんだよ。


「アインは後ろをついてきて」

「おい。話は終わった。殴ってでも引き返すぞ」


 やっぱり優しいし、剣を極めようとこれまで積んできた経験から、引き際もしっかりしている。

 僕がアインとパーティーを組んでいる冒険者であれば、これほど心強いリーダーはいないと思うだろう。


 でもね。僕も冗談でここまで来たわけじゃないんだ。


 この世界を本気で楽しもうと、命懸けの遊びでここまでやって来たんだよ。


「アイン。確かに君は僕よりも剣の技術は上だよ」

「褒めても何もやらねーし、譲らねーぞ?」


 どんどん進んでいく僕の前に、アインは躍り出る。

 本当に殴ってでも止める気だ。


「でも、ことオーラで比べると、大人と赤子くらい差があるんだよ」

「はい?」


 そう。僕の強みは、カッコよくて主人公属性の高い剣ではない。

 オタクっぽい、オーラなんだよね……

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