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前世で失くした愛を、今世で探し求める旅人  作者: ふたりぼっち
飼い主とペット、奪還の旅へ出掛ける
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緊急クエスト

 








 砂漠地帯を越えた所にある港町から海岸線を徒歩で北上すること二日。別の港町へ僕達は辿り着いていた。


「あそこが冒険者ギルドみたいだぜ」

「へえ。やっぱりどこにでもあるんだね」


 大陸中に存在するギルド。その中でも何でも屋を生業としている冒険者ギルドへ僕らは向かっていた。


「やはりお金を稼ぐには割りがいいんだね」

「そうだな。俺たちレベルの強い者なら、割りがいいんじゃないか?」


 弱ければ命懸けとなるから、割は悪くなる。

 強ければ強いほどそのリスクは少なくなり、僕達レベルの強者だとリスクなく高給取りになれる、と。


「そうなんだね。だからあの短い期間で、金貨を山ほども稼げたんだ」

「山程は言い過ぎだな。だが、良い依頼があればそれも可能なのが冒険者であることに違いはないぜ」


 僕は冒険者に興味がなかったから、その辺の知識が皆無なんだよね。


 ジークリンドがそれに詳しくなったのは、セフィリアの影響だろう。

 彼女は幼少期の頃から、騎士や冒険者の話が大好きだったから。


「良い依頼があるといいね」

「そうだな。まあ、その分困っている人が多いことにはなるが」


 それはそう。

 法外な報酬を用意しているのは、その困っている人達なのだからね。


 カランカランッ

 と、軽い音を鳴らしながら、例によって女性陣を宿へ残し、僕達二人は冒険者ギルドへと吸い込まれていった。





「上級冒険者って、結構な高給取りなんだね」


 ジークリンドが持っている冒険者用の身分証。

 それには上級と書いてあった。


「リアのお陰だな。彼女が上級だったから、依頼についていった俺もすぐに上級へ上がれたんだ」

「へえ。でも、それだとレベリングみたいに…っていっもわかんないよね……」


 どう説明すれば良いのだろうか?


「それはあれか?強い奴についていって、実力に不相応なランクを取得するって話か?」

「そうそう。取る意味は単なる見栄でしかないんだけどね」


 そんな人がいるのだろうか?

 いや、いるだろうね……


「それは大丈夫じゃねえか?ランクを上げるには試験があるからな」

「そうなんだ!因みに。ジークはどんな試験を受けたのかな?」


 単純なものなのだろうか?


「試験官と戦うだけだ。馬鹿でも上級にはなれるから、強さだけ示せばいいんだろうな」

「なるほどね。じゃあ、お父さんにあっという間に追いつけたんだね。

 カーバインも天国から喜んでいると思うよ」


 カーバインも上級だった。

 でも、そこへ辿り着くことは容易ではなかったはず。

 彼の剣技は自己流のものだったから、冒険者になってから血の滲む努力を積み重ねたのだろう。

 おじいさんは厳しい人だったみたいだし、剣を持たせてはくれなかっただろうしね。


「父上か…そうだな。奇しくも、同じパーティメンバーもいるしな」

「はは…レイチェルは…どうかな?カーバイン達との冒険では力を隠していたみたいだし、僕達との旅では他人任せだしね…」


 そこは一概に同じとは言えないだろう。

 レイチェルが力を隠していたことを、あの世から怒っているかもね。

『お前が人族じゃなくても、なんにも変わらねーよ!』のような具合に。


「お待たせしました」


 談笑していた僕達の元へ、カウンター越しに受付の人が声をかけてきた。

 彼女には報酬が一番高い依頼を持ってきてもらえるように頼んでいたんだ。


 受付の女性が僕らに説明しようと身を乗り出した次の瞬間。


「大変だっ!湾内に海竜が出たぞ!」


 ギルドに飛び込んできた冒険者らしき男性。

 その人は汗を拭うこともせず、口早く状況を大声で告げた。


「海竜?湾内?どういう話かな?」


 湾内とは、港近海という意味なのだろうか?

 よくわからないので、僕は受付の女性へ問いかけた。


「は、はい。港に巨大な魔獣が迷い込んでしまったようです。恐らく緊急クエストとして、上級冒険者以上の方にギルドから依頼が出るかと」

「そう。ありがとう。話の腰を折ってしまったね。君が持ってきてくれた依頼の説明を聞こうか」


 海竜が何なのかはわからないけど、僕達には関係のない話だ。

 これで面白そうだと首を突っ込んでいたら、ラヴに何も言えなくなってしまうからね。


「スルーかよ…」


 ジークリンドが何事か呟いているけれど、僕の知ったことではない。

 困っていたとしても、死人が出ないのなら手を出すこともない。


 困るのは生きているからだ。

 そして富を手放せないからだ。

 命以外の全てを捨てれば、大抵の困難からは逃れられる。

 海竜という生き物が船を壊し、港を使い物にならなくさせたとしてもね。


「依頼は…アスティカ山脈に棲まう一角獣の角になります……」


 アスティカ山脈?

 ここから近ければいいけれど。


「その山は何処にあるのかな?後、その一角獣の姿絵でもあれば助かるかな」


 ジークリンドをチラ見しても、首を振るだけ。

 レイチェルなら知っていそうだけど、ついてこない可能性が高い。

 それなら姿絵を見せてもらった方が確実だね。


「…あのっ!海竜討伐…いえ、追い払うのを手伝ってくれませんか!?」


 何故か俯いていた受付の人は意を決したのか、僕らへ向けて慟哭に似た何かをぶつけてきた。


「それは街の人達でどうにかするんじゃないのかな?僕らが手を出しても、役に立てるかわからないしね」


 だって、海竜が何かすら知らないのだもの。

 知っていても手を出す気はないだろうけど。


「強い人は一人でも多く必要なのです!お願いします」

「ジン。こう言っていることだし、手伝っても問題ないだろう?」


 ジークリンドがバツが悪そうに伝えてきた。

 周囲の視線がここに集まっているからね。

『何だあいつら?街の危機だっていうのに、何もしない気かよ?』

 そんな声すら上がっている。


「はあ……いくらなんだい?」


 僕達の目的はこの街を救うことじゃない。

 前の街の宿に掛けた迷惑料を稼ぐことなんだ。


 目の前で人が死にそうで尚且つこちらに被害が及びそうでなければ当たり前に助けるけれど、()竜なんでしょ?陸の奥地へ街の人たちが協力して逃げれば死人は出ないと思う。

 それ以上の理由があるのなら話を聞くくらいはするけれども。


 街の命運を背負う気は今の所ないね。


「えっと…緊急クエスト…で、尚且つ聖級対象の魔獣が相手ですので……」


 受付の女性が言い淀む。決定権がないのだろう。

 僕が断りの言葉を発しようとしたその時、またも騒がしい足音を立てながら、誰かがギルドの中へ入ってきた。

 といっても、今度は上の階からだけれども。


「皆さん、聞きましたか?海竜が五十年ぶりに現れてしまいました。

 上級冒険者の方々に緊急クエストを発行します。成果は海竜討伐。対価は一人当たり金貨五枚から十枚です。

 成果が撃退の場合は、対価は一律金貨二枚とします!街の為、よろしくお願いします!」


 潔癖そうなメガネを掛けた中年男性。

 誰だろう?


「誰なのかな?」


 しまった。つい、疑問が口をついて出てしまった。


組合長(ギルドマスター)です。対価は先程ギルドマスターが仰られた通りです。お願いします!」


 その言葉を聞き、僕は頭の中で電卓を叩いた。


「丁重にお断りするよ」

「何でですかっ!?」


 そんなに大きな声を出さないでくれないかな……


「対価だよ。一角獣の素材を納品すれば、金貨三十枚が確約されているんだ。

 だからだね」

「そんな…」


 ほら。君が大声をあげるから、ギルドマスターとかいう人が近付いてきたじゃないか。


「どうしましたか?」

「ギルドマスター…実は…」


 受付の女性が勝手に事情を説明し出した。

 流石異世界。プライバシーもあったものではないね。


「…そこまで金を無心するのですね」

「酷い言われようだけど、だったらそっちはなんで海竜討伐を無心するのかな?

 逃げれば誰も死なないんじゃない?それとも海竜は陸でも人が逃げる間もないほどに速いのかな?」


 単純な疑問。

 逃げれない理由があるなら教えて欲しい。

 それ如何ではいくらでも手伝おうと思う。命までは賭けられないけれど。

 何せ僕は冒険者じゃないからね。


「…街がなくなるからですよ。何を当たり前な…」

「その程度なら手を貸す理由にはならないね。街はまた再建すれば良い。

 それに其方に理由があるように、こちらにはこちらの理由があるんだよ。

 君はここの長なのだろう?

 そこまで戦力が欲しいなら、相手を煽るよりもっとやれることがあるんじゃないかな?

 説得するとか。

 もしさっきのが説得なら、ギルドマスターとは簡単な仕事なんだねと、僕は思っちゃうね」


 冒険者は野蛮で嫌いだ。

 それは今も変わらない。


「個人の理由よりもっ!『ギルドマスター』…何でしょう?今はこの人と話しているのですが」


 ギルドマスターが激昂したタイミングでジークリンドが口を挟んだ。


「コイツは馬鹿強いぜ。それこそ聖級以上だと保証する。

 それと、アンタが今やらなければならないことはコイツと言い争うことか?違うだろう?

 頭を下げてみんなに頼み込むとか、コイツを説得することだ。

 よく考えて喋るんだな」

「…ジーク。君って時々驚くほど優しいよね」


 僕の好感度が下がった以上に君の好感度は上がったんじゃなかろうか?


「っ!そ、そうですね。貴方達はいくら払えば動いてくれるのですか?」


 やっと交渉か……この人、本当に冒険者ギルドの長なの?


「貴方は先程、一律金貨五枚から十枚だと言っていたよね?」

「ええ。それが当ギルドの精一杯なのです」

「それは何人を対象として?というか、予算はいくらなのかな?」


 この街の人たちよりも遥かに大切な仲間の時間を奪っているんだ。

 守銭奴と言われようが、早く稼げるならそれでいい。


「予算は機密なので……上級冒険者五人以上、半値ですが中級冒険者十人以上を想定しています」

「そ。じゃあ対価の予算は金貨百枚から百五十枚くらいかな?」

「凡そ…ですが、大きくは間違っていません」


 ジークリンドはここを尋ねた時に身分証を初めに見せている。

 その上級冒険者が聖級?以上の強さを保証したんだ。

 それは予想外だったけど、活用出来るならしないとね。


「他の冒険者は必要ないよ。僕達だけで討伐しよう。その代わり、対価として金貨百枚を要求する。どうかな?」


 これを飲まないなら本当に勝手にしてくれと思う。


 冒険者のモットーは『自己責任』。


 使う側にとって、とても都合の良い言葉があるくらいだからね。


 だから、僕は冒険者が嫌いなのだけど。

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