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前世で失くした愛を、今世で探し求める旅人  作者: ふたりぼっち
飼い主とペット、奪還の旅へ出掛ける
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結局、力技

 








「よし。行こうか」


 翌朝。と言っても、外はまだまだ真っ暗なのだけれども。

 それでも起きたからにはやることもない為、脱獄するための行動を開始する。


 ここは地下牢ではなく、衛兵詰所にある簡単な牢屋。

 全て石造りで、鉄格子は普通の鉄。

 そう。僕からしたら、それは紙と何ら変わらない。


 鉄格子を掴むと、それを左右に力任せに引っ張る。


「よっ…と」


 バキンッ


「外れたよ」

「何だよ…それ…」


 その光景を目の当たりにして、ジークリンドがドン引きしている。


「便利な身体になったものだよね?」

「間違って、俺を殺すなよ?」


 失敬な。

 きめ細かな手加減も出来る素晴らしい身体なのだよ?


「おっ。この扉の先に、二人いるね」

「そうだな」


 ジークリンドも僕も、心眼が使える。

 勿論、テリトリーもね。

 つまり、壁なんて僕達には意味がないんだよね。


「僕が左をやるから、ジークには右を任せるね」

「…殺すなよ?」

「大丈夫だってば…」


 疑い深いなぁ。

 これまでも大丈夫だったのだから、今回も大丈夫だって。


 こうして、僕達は堂々と脱獄したのであった。









「折角、穏便にことを済ませてきたのに…」


 情けない。

 ううん。違うんだ。

 君達を見誤った僕達に責任があるね。


「どうするんだ…?」


 ほら。ジークリンドがまたドン引きしているよ。

 その対象は僕から彼女達へ変わっているけれど。


「…テリトリーで接触する。ラヴ達が気付いたら街の外へ走るよ」

「了解」


 その方法ならばここにいる兵士達がこちらに気付くことなく、ラヴ達だけに伝えられる。


 そんな僕達は今、宿を遠目に見守っている。

 その宿の周りには五十人くらいの兵士達。

 深夜なのに、街は騒然としていた。


 テリトリーを広げ、ラヴのテリトリーへの接触を試みる。


 あった。気付いてくれ。


「反応があったよ。行こう」

「おう」


 暗闇の中、僕とジークリンドは街を駆けていく。


「ラヴ達が動き出した。スザクに乗っているみたいだ。すぐ追いつかれるよ」

「壁だ!どうする!?」


 目の前には城壁が迫っていた。


「こうするんだよ!」


 テリトリーを解除して、身体強化にオーラの全てを使う。

 隣を駆けるジークリンドを担ぐと、壁に向かって跳躍した。


「うおおおおっ!」


 一人なら素の身体能力で超えられる程度の壁。

 その高さは8mくらいか。

 だけど、人二人分の重さは少し不安だった。


 だから、全力で()()()()()()()


「うおおおおっ!?」


 僕の掛け声とは毛色の違った声が、すぐ側から聞こえてきた。













「馬鹿野郎!死ぬほど怖かったぞ!」


 壁は越えられた。

 壁を二つ縦に重ねても悠々と越えられたくらいには跳べた。


「ごめんって…僕も本気で跳んだのは初めてだったから、加減がわからなくってね」

「…ふぅ。というか、あれくらいの壁なら、一人で飛び越えられたんだぞ?何で担いだんだよ…」


 あ、そうか。

 どうするって聞いたのは、壁が越えられないと思ったからじゃなかったんだね。

 そういえば、ジークリンドだった時でも越えられたかもしれない。今となってはその感覚が記憶にないから分からなかったんだ。


「ごめん。普通に声を掛ければよかったよ…」

「ああ。次からは頼むぜ?…次はない方が良いけどな」

「それは彼女達次第だね。さ。言い訳を聞こうか」


 僕らの話が終わると同時、目の前に巨大な白狼が現れた。


「そのまま走るよ。僕らの武器は持ってきてくれたんだろう?」

「ええ。勿論よ」


 馬上ならぬ狼上のラヴが答えてくれた。


「走りながら報告し合おう」

「…全部、ラヴが悪い」


 レイチェル。誰かの所為とか、どうでもいいんだ。次に同じことが起こらないようにする。その為の情報交換だよ。


 走りながら、各々の言い分を聞いてみた。






「なるほど。僕が連れ去られて帰ってこないから、ラヴが怒ってしまったと」


 このメンバーで30分も走れば追っ手もついて来れないだろう。

 今は歩きながら、先程聞いた説明を確認しているところ。


「セフィリアは止めなかったのかな?」

「向こうが悪いのよ?ラヴが怒らなかったら私が怒っていたわ!」


 うん。そうだった。君はそういう人だね。


「でも、宿の人は困っているよ?」

「え……う、うん」


 宿は半壊まではいかなくても、そこそこ壊れていた。

 ラヴがひと暴れしたんだ。全壊していなかっただけ儲けものと言えるかもしれない。


 セフィリアは僕の言葉を聞いて、語気を弱めていく。


「確かに僕達は理不尽な扱いを受けていたね。でも、それって気にするようなことかな?

 勿論、普通の人であれば死活問題レベルの騒ぎだったけど、僕達だよ?」


 そう。普通の庶民であれば、三年間の懲役刑が確定してしまうほどの大事件。

 もし小さな子供でもいたら、それはやりきれないだろう。


 でも、捕まったのは僕らだ。


「ラヴ。君は普通の人じゃない。小さな町一つくらいなら一人で制圧出来るほどの強者だ」


 ラヴは怒られて小さく項垂れたまま。

 前世の姿とダブって見えて笑っちゃいそうになるけれど、今はまだダメだ…我慢我慢。


「それは僕達全員がそう。あの程度であれば、誰が同じ状況になっても心配はしないし、実際その必要もない。

 そして、セフィリアとジークとも違うんだ。

 わかるだろう?」


 レイチェル含め、僕達三人には時間の制約がない。


 一日二日会えなくても、後でいくらでも取り返せる。

 それが三年の懲役刑でも同じ。


 普通の人の生活圏で過ごすなら、それにある程度合わせなくちゃならない。

 じゃないと、これから行く予定の先々の街がこの大陸から消えてなくなっちゃうから……


 ただ、譲れないものは誰にでもある。そこまで譲る必要はない。


 しかも僕達は強いのだ。強者には日常で我慢が要求されるけど、その力の行使を止められないから強者足り得るのだ。


 だから僕達が我慢しなくなれば、世界は混沌とする。

 そんな世界は誰も望まない。

 力だけが正義みたいな世の中はね。


 ヒューリーがそうしているように、考えなくちゃ。

 どんな経過を辿ったとしても、僕達は考えることをやめちゃだめなのだ。


「ラヴ。次の街に着いたら、謝罪の手紙と、宿の修理費を壊した宿へ送るんだ。

 いいね?」

「うん…ごめんなさい」

「僕に謝っても仕方ないよ。僕もお金稼ぎは手伝うから、みんなに待ってもらえるように頼むんだよ?」


 これは僕とラヴの問題だ。


 元々僕はこんな考え方の人間じゃなかった。

 転生する前は、ラヴと生きていけるなら他はどうでも良いとすら考えていた。

 別にこちらから態々迷惑をかけるつもりもなかったし、深く誰かと関わる気もなかった。


 だって、僕達にはたった八十年くらいの時間しかないと思っていたから。

 だから『ラヴと楽しく暮らす』ことしか考えなくて済んでいた。


 でも、実際は違った。


 遠く離れた地へ転生し、別々に大切な人達を得てしまった。

 限りある人生では取捨選択しないと何も得られない。

 それなのに、沢山の縁を得てしまったのだ。


 再びラヴだけのことを考えれるようになったのは、その縁が全て消えてしまったから。


 そう考えていたのに、今では全く違う考え方に。


 何せ、時間が増えたのだから。それも天文学的な数で。


 自分たちのことはどうしても後回しにしてしまう。これはヒューリーにも危惧された現象。


 でも今のところそれに逆らう気もない。


 だって、みんな大切な人なのだから。


 だから、今は良くしてくれた宿の人へ何か出来ないか考えている。

 捕まってそこから脱獄したことは不可抗力だったけれど、暴れたのは違うからね。


「かまわねえよ。俺があの貴族を上手くあしらえなかったことが元々の原因だしな。手伝うぜ」

「私も。ラヴを止めなかったのだから、同罪よ。レイチェルもね」

「なぜっ!?」


 いや、レイチェル。君は良いよ。どうせ邪魔しかしないだろうから……

 稼いだ分だけオヤツを買いそうだし…見ていると胃もたれするんだよ。

 不思議だね。僕には胃が無いのにね。

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