目的地まであと少し
「女神様方のお連れ様ですよね!?」
既にルーティン化されている通り女性陣を宿へ残し、僕とジークリンドは買い出しと情報収集の為に街中へと出かけている。
そんな雑用担当無名人である僕達へ、誰かしらが話しかけてきた。
「どうだろうね?僕の知り合いには神様なんていないからわからないよ」
「金と銀と赤の髪を持つ女神様方のことですよ!朝ご一緒していたではないですかっ!?」
はぐらかす僕に対して、かなり積極的なこの紳士。
いや、していることは紳士的ではないね。
見た目だけってやつさ。
「だとしたらなんだ?俺の連れに何か用があるのか?」
あぁん?
まさに田舎ヤンキーそのモノの態度で高圧的に威嚇するジークリンド。
恋人を守るためとはいえ、若いっていいね。
「っ…。私はオメガ伯爵家の次男。姉が賊に襲われていたところを女神様方に助けてもらい、そのお礼を伝えるためにこうして旅をしているのです」
「だったらどうした?礼なら伝えといてやる。帰りな」
僕とジークリンドの体格は似たり寄ったり。
この青年よりも幾分か背の高い二人組。
それでも顔付きが温和そうな僕を選んで話しかけてきたのは、そういうことなのだろう。
トラブルになっても、暴力に訴えそうにない方。
この世界で前世の常識は通用しない。
殴る蹴るの喧嘩くらいなら、毎日のように街中でも起こるのだ。
そのトラブルを回避したのは良いけれど、ジークリンドに尻込みしている程度なら身を引いた方がいいね。
多少やんちゃそうでも彼も綺麗な顔をしているから、その辺の冒険者に声を掛けるより難易度は遥かに低いだろうし。
「ぶ、無礼な!」
「言うに事欠いて、それか?」
聞いてきたのは彼の方。
それに、ジークリンドに身分は通用しない。
国を捨てた身としては、身分関係に失うものなんてないからね。
そしてその我を通せるくらいには、彼は強い。
「こちらは誠意を持って接しているんだ!会わせるのが筋だろう!?」
「それはお前が勝手にしていることだ。俺には関係ないな」
理屈でも負けていたら、君はジークリンドに一体何で勝てるのかな?
「どうしてもかっ!?」
何かするのかな?やめておいた方がいいけど、止めるのも無粋だ。
「どこの世界に、自分の女を見知らぬ野郎に紹介する阿呆がいるんだ?」
「なっ……君の…おんな…?」
おいおい…感謝を伝える為だったんじゃないのかい?
そこが崩れたら君の攻撃手段もなくなるよ?
「そうだ」
ジークリンドは自信満々。どこか嬉しそうでもある。
後でセフィリアに教えてあげよう。
きっとセフィリアも大喜びするに違いないから。
「ど、どの子?金?赤?まさか…銀?」
色で識別してあげないで……
全く関係ないけど、ジークリンドは銀髪だから、レイチェルと兄妹でも通じるかも?
でも顔が全く似てないんだよねぇ。何処かでその設定が使えるかと思ったけど、残念。
「全部だ」
「はい?」
あっ。ごめん。つい、びっくりしちゃって。
思わず声が出てしまい、ジークリンドに睨まれてしまった。
任せたのだから最後まで任せないとね。
「ふざけるなっ!君みたい……男なら、一人を選べ!」
君みたいな男にって言おうとしたけど、ジークリンドの見た目はかっこいいもんね。
自分を褒めているみたいで、あまり言いたくはないけれども……
「悪いな。モテて仕方ないんだ。用が済んだなら俺たちは行く。次に止めたら貴族だろうが何だろうがぶん殴るから、そのつもりでいろ」
「うっ…」
凄い。暴力に頼らずに完封してしまったね。
最後のは脅しだけど、ジークリンドの気配から事実でもあるみたいだから仕方ない。
当の貴族青年は苦虫を噛み潰した表情のまま踵を返して消えていった。
「凄いね。僕はあんな風には出来ないよ」
「…あのなぁ?ジンなら別の方法でやり過ごせることくらい、俺ももうわかっているんだ。
無理に褒めなくていい」
あらら…拗ねちゃったかな?
いや、顔は笑っている。
照れたんだね。
いやぁ。ジークリンドの知らない一面も見えて、思わぬ収穫だったよ。
「船はあったけど、乗れなかったってことね」
集めた情報を伝えると、セフィリアが簡潔に纏めてくれた。
今は四人部屋で机を囲んでいる。
僕とラヴは同じベッドへ腰掛け、セフィリアとジークリンドは椅子に座り、レイチェルは両開きのそこそこ大きな窓からこっそり入れた床に寝転がるスザクの上で寝そべっている。
「そうなるね。つまり、これからは海岸線を北上することになる。良いかな?」
「良いかなって…ジンがそう決めたなら、反対するのはいつもレイチェルだけだ。いいぜ」
レイチェルは反対しているわけじゃなく、どうにかおやつを貰おうと画策しているだけなのだけどね。
これだけの面々が揃っているのに、決めるのはいつも僕。
何故か誰も率先して意見を言わないのだよね。不思議だ。
「じゃあ、明日からは交代でスザクの上と走る組に分かれて北上しよう。
レイチェルを除いてね」
「了解」「わかったわ」「ん」「ええ」
みんながいつもの返事をして、そこでお開きになる予定だった。
バタバタバタバタッ・・・
「嫌な気配だね」
「アンタ達、何かしたでしょ?」
「セフィリア。これには海よりも深い理由があるんだよ」
そういえば、伝えていなかったね。
ジークリンドの武勇伝を。
「お前たちか?伯爵家の縁者に無礼を働いたという馬鹿は」
僕らが泊まる宿へ雪崩れ込んできたのは、この街の衛兵だった。
彼等に従ってついて行くと、そこは牢獄。
僕らは何らかの罪に問われているのだろう。
「貴方は?」
質問に質問で返してみた。
何せ、馬鹿なものですので。
鉄格子の前にいるのは綺麗な服を着たおじさん。
多分40歳くらいかな?
その両隣にはフルプレートアーマーを装備した騎士が二人いる。
「この街の騎士長バルトレーン。お前の名は?」
「僕はジンだよ。もう一人はジーク。それで何の罪なんだい?」
荒事にしても良かったけど、昨日は徹夜だったから皆んなあまり寝れていないんだ。
オーラを回復させたいから、早く帰ってベッドで休みたいのだけども。
「貴族に暴言を吐いた罪だ。あと、詐称罪にも問われている」
「暴言?心当たりないなぁ。それに詐称?嘘をつく程にも仲良くない相手に?
意味がわからないよ」
これは一応取り調べなのだろうね。
恐らく格好だけの。
「おい。もう一人の男。お前はどうなんだ?」
僕には聞きたいことは聞けたみたいだね。
完全に無視をされてしまったよ……
僕の後ろで寝転がっているジークリンドへ向けて、騎士長が問い掛けた。
「アンタ。悪いことは言わねえから、ジンには逆らわない方がいい。
コイツは仲間の俺でも何をするか見当もつかんからな」
「……わかった。よし。お前達二人は労働刑三年だ」
ジークリンド…やめてよね。
矛先を此方に向けさせるのは。
僕は君に任せたかったのに。
ま。どっちでも結果は一緒だろうけど。
真面目に取り調べる気は元々無かったよね。何を言っても有罪。
暴れたりしたらさらに量刑が増すだけ。
騎士長とお付きの人たちは、何を思うでもなく去っていった。
ご苦労様です。
彼等の苦労は想像できるからね。
「それで?どうすんだ?」
「寝るよ。朝までとは言わないけど、夜明け前くらいまではね」
そう伝えると、ジークリンドは反対側を向いて寝てしまった。
することもないし、起きた後にすることも決まっているし、僕も寝よっと。
ベッドはないけれど、ひんやりした床の石が案外気持ちよかったりもしたよ。




