海竜戦
「というわけで、ジークが海竜の討伐依頼を受けてきたよ」
宿に戻るとお騒がせ三人組へ説明をした。
「おいおい…俺の名前で依頼は受けたけどよ…話を纏めたのはジンだろうが」
「そうだっけ?」
ギルドでは大人な対応でカッコつけられたからね。
少しくらいの意地悪は許して欲しいな。
「それで街が騒がしいのね」
「海は濡れるから嫌」
セフィリアは淡々と述べ、レイチェルにはそもそもやる気がない。
「じゃあレイチェルとスザクは留守番として、セフィリアとラヴはどうする?」
「そんな面白そうな敵、行くに決まってるわよ!」
「元々は私が宿を壊したせいなの。行くわ」
セフィリア…君はいつもその調子で人助けをしていたのだろうね。
レイチェルの心労が偲ばれるよ。
「じゃあ行こうか」
相手は待ってくれない。
説明は手短に済ませ、僕達四人は港へと向かうことに。
「下がれぇ!巻き込まれるぞ!」
想定よりも港は人でごった返していた。
入江になっているここは岩に囲まれた砂浜。
前世だとリゾート地として有り難がられていただろうけれど、ここではそれを楽しむ人はいない。
入江を囲んでいる岩場の上には多くの冒険者。その下には大小様々な船が入江内で停泊している。
それを壊されないように必死に戦っているみたいだけど、その攻撃方法は主に二つ。
弓矢や投石、そしてバトルツールを使ったものだ。
まあ、当然か。
相手は海の上。容易に近づけないし、攻撃が効くかもわからないのだから。
「来ましたね!あれ…あなた方は…」
「彼女達も僕の仲間だよ。君達には紅のヴァルキュリアと慈愛の女神と紹介した方が早そうだね」
入江はかなり広く、砂浜部分で500mくらいはありそうに見える。
沖合に出るための入り口部分は、一番狭くて200mほど。
その砂浜の中央に立っていた人物は、冒険者ギルドのギルドマスターだった。
「彼等には悪いけど、攻撃をやめるように指示を出してくれないかな?」
邪魔だと言った方が早かったかな?
「わかりました。ですが…必ず、海竜を仕留めてください」
「善処するよ」
善処では困ると顔に書いてあるけれど、何を言われようとこんなものに命を賭けるつもりがないからね。
使いやすい『自己責任』を冒険者へ求めるんだ。
それなら善処で十分だね。
「ほら。早くやめさせないと、また船が沈むよ?」
「あ…」
海竜は入江の真ん中付近にいる。
胴体の大きさは視認出来ないけど、テリトリーでしっかり把握している。
凡そ40mくらいだね。
海面には長い首と頭が出ている。所謂ネッシーそのものだ。
ただ、その顔は凶悪。
目がどこについているのかわからないくらいに、顔の大部分が口になっている。
その歯は数え切れないほど。
そして海竜の攻撃手段だけど、長い首をしならせながら振り回し、硬い頭で攻撃するという物理方法。
威力は…あ。
ガシャーーンッ
崖の上を攻撃されてしまい、衝撃で崖が崩れ何人かの冒険者が海へ放り出されてしまう。
「中止っ!攻撃を中止せよっ!撤退だ!」
拡声のオーラツールにより、ギルドマスターの声が入江へ響き渡る。
「よし。あの小舟に二手に別れて乗る。僕とセフィリア、それとラヴとジークのペアだ。
ラヴはテリトリーと攻撃担当。セフィリアも物理攻撃担当。ジークは船の操縦。僕は二人の援護と船の操縦だ。
いくぞ!」
「おうっ!」「わかったわ!」「ええ」
三人の返事を聞き、僕達は小舟へと急いだ。
「ジークはオーラツールで動かすけど、僕はオールを使う。あまり機敏な動きは出来ないから、それを頭に入れて戦ってね」
「わかったわ!」
ジークリンド組は出航したみたいだね。
うわ…はやっ。
前世のボートレースくらいの速度が出ているのではないかな?
こっちは無理。
僕がえっちらおっちら船を漕いでも、スピードに乗るまでにどうしても時間が掛かってしまう。
フルパワーで漕いだらオールが折れちゃうからね…気を遣いながら慎重に海竜の元へ向かう。
ガキィィンッ
硬質な何かと何かがぶつかる音が頭上から聞こえてくる。
漕ぐのに必死で見ていないけれど、テリトリーで把握しているから何の問題もない。
海竜の首目掛けて飛んだラヴの先制攻撃が、海竜の硬い頭に阻まれた音だね。
「頭は斬れそうにないね。何とかして、首を狙ってみて」
「ええ。任せなさいっ!」
バッ
漸くスピードに乗った小舟。
その船底を蹴り上げ、セフィリアが跳んだ。
そのセフィリアを海竜は何らかの方法で察知したようで、首を反対方向へしならせて迎撃体制を取る。
「獲った!」
セフィリアは囮。
頭の後方から飛んだラヴが、海竜の首元へ迫る。
しかし、海竜も強い。
それを何らか……いや、テリトリーだね。分かっていたけれど、言葉にしたくなかったんだ。
あの巨体なのに、器用さまで併せ持っていることを認めたくなくてね……
ラヴの攻撃は下からやって来た海竜の尾により迎撃される。
「くっ!」
「はあああっ!」
ラヴは尾の攻撃をしっかりガードするも、あまりにも質量が違う。そのまま弾き飛ばされてしまった。
そして続け様にセフィリアの斬撃。
キィィィンッ
無理矢理尻尾を使ったせいか、セフィリアへの迎撃はその巨大で硬い頭を合わせるだけに留まる。
「良かった。ラヴみたいに弾き飛ばされたら、あっちみたいに追いつけないからね」
トンッ
空から降って来たとは思えないほど、セフィリアは静かに着地した。
ラヴもジークリンドに上手く拾ってもらえたみたいだ。
「どう?やれそう?」
僕は笑顔で聞く。
普通に挑発だ。
「…少し、手伝って。首にさえ届けば斬り落としてみせるから!」
「いいよ。ラヴ達が戻ってくる前に終わらせようか」
海竜討伐に手を挙げた二人。
一年ほど共に旅をして来ただけのことはあり、阿吽の呼吸を見せてくれた。
が、やはり届かないみたいだ。
仕方ないね。
この海竜は冒険者ランクでいうところの聖級を要求される強敵なのだから。
しかしこの2人の凄いところは、それを聞いても引くどころか私達に任せて欲しいと頼み込んで来たところにある。
じゃあやらせてみようとなったのだが、これは遊びでも訓練でもない。
通用しないことがわかったのなら、別の手段に移行するのみ。
それは僕の参戦。
それでも、セフィリアは自分がやると聞かなかったけれど。
「君はただ真っ直ぐ斬りに行くんだ。他は何も考えなくていい」
「わかったわ!行くわよ!」
海竜は少し様子見といった感じ。
これまで自身へ集っていた蝿とは違い、僕らの攻撃は自分に届き得る。
敏感にもそう感じとり、冷静に戦況を見つめていたのだろうけど…それは悪手だったね。
海竜。君がやらなければならなかったのは、戦力の分析でも、ましてや僕らの動向を見定めることでもない。
後ろを振り返ることなく、ただがむしゃらに大海原へ逃げるべきだったんだ。
「はああああぁっ!」
ドンッ
今度の跳躍は後先を考えていない、今出せる全力のもの。
小舟はあわや転覆しそうになるものの、何とか持ち堪えた。
ふぅ。危ない危ない。
「きいやあぁっ!」
セフィリアは気合いを入れ、剣を振りかぶる。
もう後には引き返せない。
それを見た海竜は、単騎ならどうとでもなるとばかりに、後方へと頭を逸らして迎撃の体勢をとった。
まるでゴムが引っ張られ、それが解放されるが如く。
ビューンッと音が聞こえて来そうなほどに、海竜の頭が無防備な姿を晒すセフィリアへと信じられない速度で突っ込んでいく。
「『氣弾』」
これまでの最大値を超えるサイズのオーラの塊。
それを海竜の頭が通過するであろう軌道へと射出した。
本気のオーラショットの半分。
威力も速さもタイミングも、コントロールさえも完璧だ。
ドゴォォンッ
生物に当たったとは到底思えない音を残し、オーラは霧散した。
そこには頭蓋骨が陥没し、変形した頭部をふらつかせる海竜の姿があった。
「はあっ!」
気合い一閃。
ドボンッ
セフィリアはそのまま海へ落ち、続けて海竜の首も海へと落ちるのであった。




