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前世で失くした愛を、今世で探し求める旅人  作者: ふたりぼっち
飼い主とペット、奪還の旅へ出掛ける
109/149

ラヴ達が辿った道

 







「へえ。じゃあ、あの時の剣聖は無事に釈放されたんだね」


 馬車に揺られること三日。次の街までは後少しの距離。

 そこで話題に上がったのは、ロックヤードバニアで僕が戦った剣聖レイモンド侯爵の処遇。


 取り調べでは、最初は剣聖のいうことを真に受けず、女性を追いかけ回し、それを止めに入った青年へ剣を抜いて脅したという民衆からの情報だけを鵜呑みにし、罪を決めようとしていた。


 しかし、調べても調べても、男の身元は不明なままだった。


 その異変に気付いた取り調べ官は男の言葉を調べることに。


 調べれば調べるほど、男が嘘をついていないことが判明していく。

 しかしその中身は遠い他国のお家騒動。

 介入するわけにもいかず、かといって他国の上級貴族を拘留しておくわけにもいかず、結論として国境で無罪放免とすることになったのだとか。


「次に争いが起きれば、私達も追い出すなんて言っていたわ。上台地に住んでいると伝えたら平身低頭な態度に変わったけれどね」

「ははっ。あの街にはヒューリーの武勇伝が至る所に転がっているからね」


 誰も登れないはずのあの絶壁を、何百年も登り降りしている姿を街の人々に目撃されてきたのだ。

 畏れられていても不思議ではない。

 実際、僕が上に行っていることを目撃もされているからね。

 だから僕もあの街ではちょっとした有名人だったわけで。


「レイモンド侯爵が私を追えたのは、スザクがいたかららしいわ。

 訪れる町々で、巨大な白狼を連れた人がいないか聞き込んでいたようね」

「なるほどね。聞くだけで執念が伝わってくるようだよ」


 アテもなくこの広大な大陸を探し歩いていたのだ。

 スザクという手掛かりを得た時は、どれほどの興奮がその身を襲ったことか。


 ただ……


「戻れば死罪だと言っていたね」

「大丈夫よ。お父様…皇帝は私と皇后に弱いけれど、そんな真似はしないわ。

 だってそれは帝国にとって損失でしかないもの」


 じゃあ、脅しか。

 しかし脅しは諸刃の剣。

 一度脅しに屈してしまうと、次からの要求はエスカレートしていく。

 それを脅された方が理解してしまうと、手痛いしっぺ返しを受けることは儘あるのだ。


 捨て身で来られると、人間何をするかわからないからね。


「帝国に強い人は他にいないのかな?」

「オーラマスターも何人かいるけど、近接戦ではどうかしらね?

 騎士団の練度は大陸一を謳っているけれど、あくまでも個々の平均値と集団行動に長けているだけだと私は分析しているわ」


 数の暴力。それも、訓練されたものか。

 この身体はとんでもなく強いけど、かといって敵対したくはないね。

 人は集まって本領を発揮する生き物だから。

 僕でも足元を掬われる可能性は十分にある。


「ジンみたいな化け物はいない。それが分かれば十分」

「いや、レイチェル。君もその化け物の一人なんだよ?」


 現在の馭者はセフィリアとジークリンドの二人。

 大変仲睦まじい様子ばかりを見せられて、僕は口から砂糖を吐いてしまいそうだよ。


「私はオーラマスター。ジークはジェネラリストだったけど、ジンはスペシャリストでもジェネラリストでもある。

 反則」

「まあ…否定はしないよ」


 身体から僕が出て行ったことにより、ジークリンドはオーラツールを扱えられるようになった。

 それも火と水という、使い勝手の良い二種類だ。

 それをたったの四日で使いこなせるようになってしまい、レイチェルの機嫌が損なわれてしまった。


 そして僕。

 簡単に説明すると、この身体の身体能力がクソ高い。

 身体強化なしで垂直跳びは10mを軽く越え、握力は岩をも砕いてしまう。

 セフィリアとの模擬戦では、オーラを使うまでもなく圧倒してしまった。


 それを見たジークリンドは、僕との模擬戦を拒否した。

 わかるよ。好きな女の子の前では、カッコ悪いところを見せられないもんね。


 プライド?そんなものはジークリンドだった時にもなかったよ。


 勝てば官軍。試合に負けても勝負に勝てば良い。この二つがジークリンドの考え方だから。


「レイチェルの言う通りね。ジンが言っていた通りに、私がお父様達と仲違いしたとしても何の問題もないわ」


 それは帝国とことを構えるという意味。

 いやぁ…嫌だよ。普通に。

 今はジークリンドとセフィリアの為に時間を使いたいけど、それが終わったらのんびり旅をして、そしていつか何処か風光明媚な場所に居を構えて静かに暮らしたいんだもの。


「例えそうだとしても、ラヴ。ちゃんとやるんだよ?」

「わかっているわ。貴方は争いを好まない。私もよ」


 ラヴの本質は怖がりで寂しがり。

 僕を探す為、今日までその恐怖に蓋をしていただけ。

 大胆さもなく、ただ遊びたがりで食欲旺盛。

 それが僕の知っているラヴなんだ。


「おーい。街が見えたぜ。降りる用意をしといてくれよ」


 側から見れば両手に花の談笑。

 僕から見ればその花は牡丹でも芍薬でもなく、向日葵とたんぽぽだ。


「わかったよ」


 ジークリンドの言葉に応え、少ない荷物の点検を始めた。











「いやぁ。凄かったね」


 久方振りの街へ入ると歓迎の嵐。

 外から見えるのは馭者席の二人だけだから、観衆のお目当てはセフィリアだったのだろう。


 今は街一番の豪華な宿の一室。

 若い二人は別の部屋を取り、ここにはラヴとレイチェルだけがいる。


「セフィリアは困っている人を放っておけないのよ。それが私達とっての困り事だったわ」

「よくいう。ラヴも同じくらいトラブルを持ち込んでた」


 セフィリアは相変わらず模範的な王族なんだね。

 ラヴは何となくそうだと思っていたよ。

 他の犬が他の飼い主に怒られていても、さも自分も怒られているって顔をしていたからね。


 辛さを共感してしまうのだろう。

 損な性格だけれど、僕は好ましく思っていたし、今もそう思っている。


「じゃあ、これから辿る街では、ラヴも人気なのかな?」


 飼い主としては興味しかない。

 本人に聞いても教えてくれないかもしれないので、レイチェルへ聞いた。


「この街でも二人は大人気。だから私はいつも損な役回り。

 子供の世話って大変」

「そ、そうだったんだね」


 ラヴの冷たい視線に気付いていない…わけないよね?

 向けられていない僕ですら気付いているのだから。


「兎に角。分かったことがあるね。この街もこれから訪れる街でも、自由に動けるのが僕とジークだけだということがね」

「買い出しは任せた。甘いものがあれば尚よし」


 君も十分子供だよ。

 中身は200歳越えのお婆さんなのに……











「後は何が必要なんだ?」


 翌朝。

 旅の汚れを流し疲れも取れたので、僕とジークリンドの二人で次の街までの物資を購入する為に街中へとお出かけ中。

 食料と何かとよく使う布切れも買ったので、後は何もなさそうだけれど。


「女性陣へ甘味を買って帰ってあげようかと思っているんだけど、どうかな?」

「リアも好きだって言ってたからな。否はないぜ」


 ラヴは相変わらず食いしん坊みたいだから、何でも喜びそう。

 レイチェルは甘いもの全般が好きだと言っていたし、買って帰るのは間違いじゃなさそうだね。


 ちなみにリアとは、セフィリアの愛称。

 これは二人だけの特別な呼び方みたいだから、僕達は普通にセフィリアと呼んでいる。


「あそこの商店に行ってみようか」

「任せる。都会には慣れてないからな」


 ジークリンド……この世界の記憶は殆ど共有しているのだから、そこは僕も同じだよ?

 王都に住んでいた時も、街には殆ど出なかったからね。


「いらっしゃい。何をお探しかな?」


 僕ら二人の見た目は、どう見ても良いところのお坊ちゃん。

 動きやすい服装に剣を下げているから冒険者と間違われても不思議ではないけれど、粗野な冒険者とは服の上等さが違って見えるのだろうね。


 店主らしき女性が、ニコニコと愛想を振り撒きながら近づいてきた。


「甘味は置いてあるかな?もしあれば、この街の特産だと尚良いね」

「ありますとも!」


 僕の要望を聞いて姿を消した店主は、両手が塞がる格好ですぐに戻ってきた。


「どれにしましょう?」

「全部くれ」

「へ?」


 選ぶのが面倒だと思ったのだろう。

 ジークリンドがすぐにそう答えた。


「い、今!包みます!」

「ごゆっくり〜」


 焦る店主が可哀想なので、僕は優しくそう伝えた。

 聞こえていない可能性は高そうだったけれど。


「ちょっと見ても良いかな?」

「ん?ああ、どうせ待ち時間だ。俺はここで待っているから好きにしてくれ」


 店内は綺麗に整頓されている。

 五メートル四方はある店内だけど、商品棚が所狭しと並んでいる。

 僕はそれに興味を惹かれ、ジークリンドに断ってから物色を始めた。





「お待たせしました!」


 焼き菓子を綺麗な包み紙で包み、店主が戻ってきた。


「この壺も売ってくれないかな?」

「それは…ああ!わかりました!包みますか?」

「このままでいいよ。しっかり蓋もされているからね」


 僕の左手に収まる程度の壺。

 勿論中身が重要なのだけれど、それはまたのお楽しみに。


 買い出しを終えた僕達は、女性陣の喜ぶ姿を想像しつつ、宿への帰路に就くのであった。

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