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前世で失くした愛を、今世で探し求める旅人  作者: ふたりぼっち
飼い主とペット、奪還の旅へ出掛ける
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新しい旅の始まり

 








「出来たのじゃ」


 いつもの夕食時。

 普段と変わらない筈のその食卓へ、とても似つかわしくないモノがヒューリーの手によって置かれた。


「おお……この世の全ての光を吸収しそうなほどに真っ黒だね」

「見た目とバランスは注文通り仕上げたのじゃ。刃の部分は四百年ほど前に手に入れて埃をかぶっていた国死鳥(こくしちょう)の牙と爪を使っておる」


 テーブルに置かれたのは料理ではなく、刀。

 日本刀をモチーフにした武器だ。

 玉鋼の作り方がうろ覚えだったから、見た目とバランスのみに注文を付けて、ヒューリーの手慰み程度の気持ちで頼んでいた代物。


 まさか、鍛治まで職人並み……いや、素人目でもどう見てもそれ以上に熟るとは…恐るべしハイエルフ。


「こくしちょう?って、なんなのかな?」

「今の若造はしらんか。以前…といっても、もう五百年近く昔の話じゃ」


 若造って…そりゃ、ヒューリーから見たら世界の人達はみんな若いよ……


「その昔、この大陸を滅ぼさんと勢いづいておった魔獣がおってな。

 儂としてはどうでもよかったのじゃが、其奴が運悪く儂の棲家を荒らしおった。

 それを討伐した時のものじゃな。

 あの時代、彼奴の所業により人々の世は混乱しておってのぅ。まだドラゴン百体の方がマシだとか騒ぎおって、あたふたとしておったわ」

「…あのぅ。そのドラゴン百体に匹敵する魔獣って…まさか、その国死鳥?」


 ちょっと待って。

 そんな大変なものの素材を気軽に使わないでくれないかな!?


「そうじゃが?国に現れたら、それ即ち滅びを意味する怪鳥じゃ。故に国死鳥と名付けられたと、後になって知ったのじゃ」

「……なんで、この刀に?」

「ん?色合いがちょうど良くての。それだけじゃ」


 偶々手元にあったから使った。

 そんな軽々しく使える代物じゃないと思うけどなぁ……

 まあ、カッコいいから返さないけど。


「強そうだね…」

「それは知らん。殆どの物より硬く、大概の物は斬れるじゃろうが、強いかは使い手次第じゃな」


 うん。これはある種のチートだ。家宝として大事に箪笥にでも仕舞っておこう。


「ありがとう。何も返せなくて申し訳ないけれど、有り難く使わせてもらうよ」

「暇つぶしじゃ。礼には及ばん」


 ヒューリーはそういって、ラヴが運んできたスープに口をつけた。


「うむ。今宵も美味いのじゃ」


 やはり、彼は最高の友人だ。

 例え剣を拵えられなくとも、その圧倒的な強さがなくとも。

 彼は最高の友人なのだ。


「ヒューリー。長らく世話になったね。二日後にはここを旅立とうと思う」


 ヒューリーには、その永い生を賭した目的がある。

 その手伝いはいくらでもしたいと願ったけれど、それは彼に直接断られてしまった。

 僕とラヴには限りある命の隣人がいるからと。


 隣人とは、セフィリアやジークリンド、はたまた知り合いなどのことだろう。


 そこを僕たちが清算した(のち)、まだヒューリー(じぶん)が入れ物作りをしていたのなら、その時は手伝えとの言葉を貰った。


 それも多分、そろそろ終わらせるつもりだとも。


 そう。ヒューリーは既に入れ物は作れる。

 ただ拘りが強いだけで。

 その理由も十分に理解しているつもりだ。

 これまでも長い歴史を歩んできたけれど、その後に待つ人生もまた長いのだ。

 後悔ない選択をする為に足掻くのは、人もエルフも変わらないということ。


「ふむ。ロカディリアス帝国か」

「うん。ラヴの故郷を見てみたいのと、セフィリアとジークの帰る場所を取り戻せないかと思ってね」


 僕らの次の旅。その目的地はロカディリアス帝国。

 ラヴの出身地だね。


「あの国は若く元気があるのぅ」

「知っているのかい?」


 いや、彼に知らないことなんて無さそうだけど、人の世界にそれほど興味がなさそうだったから。


「二回ほど訪れておるぞい。最後に行ったのが…七十年ほど前かの。その時は今の70%程の大きさの国じゃったか」

「へえ。その七十年で結構領土を広げたんだね」


 その手段は戦争か、調略か。

 争うのが人の悪い部分だけど、それを失くせば良い部分も失われてしまうだろう。

 それらは表裏一体だと僕は考えている。


 競い合いだけで済めばそれ程平和な世の中はないけど……支配層はそれを望んでいないよね。


「儂はエスエルの入れ物を完成させたら旅に出る。世界中にエスエルのお披露目をするのじゃ」

「いいね。実に君達らしいよ」


 彼等に障害はない。

 あるとすれば、悪意を持った何かに誑かされるくらいだけど、その可能性も殆どないだろう。


「暫く会うことはないじゃろうが、其方達であればそう簡単に死ぬこともなかろう。

 その身体の修繕方法は渡したメモ書きに全て書いておる。

 刀といったか。

 その刀はその辺の鍛治職人へ研ぎに出せば良いが、それも五年に一度くらいで事足りるのじゃ。

 変化のオーラについては、問題ない。鍛錬を積むだけじゃて」

「はは…心配性だね。刀以外のことはもう何度も聞いたよ。ありがとう」


 これで旅の支度は整った。

 路銀稼ぎはセフィリアとジークリンドに任せているから安心だし。

 レイチェルが二人の邪魔をしていないかだけが心配だね。














「遅いわよ!」


 二日後の早朝。

 待ち合わせ場所である街の入り口へ向かうと、そこには完全に元気を取り戻しているセフィリアと、そんなセフィリアの横で彼女の賑やかな口を物理的に塞ごうと頑張るジークリンドの姿があった。


「待たせたね。準備はいいかな?」

「ああ。元々荷物も少ないしな」


 僕の言葉に応えたのはジークリンド。

 彼に前世の記憶は一切残っていない。

 その記憶は僕の魂に刻まれているものだから、僕の魂が抜けてしまうとなくなるのは当然といえば当然の結果だ。


 じゃあ、ジークリンドは(なん)なのか?


 その答えはヒューリーが教えてくれた。


『魂とは、記憶や思想の集合体であると儂は推測しておる。

 その魂だけが抜けた身体を起こすと、一体何が起きるのか。

 経験が残るのじゃよ。

 つまり、本人が経験した出来事のみ、脳や心臓などの記憶を刻む部分で覚えており、それ以外のものがなくなった状態で新たな魂が生まれるのじゃ』


 つまり彼は、17歳までの記憶を僕と共有している別人ということになる。


「レイチェル、遅いわよ!」


 ジークリンドの手が離れたことにより、またもセフィリアの大きな声が日の出を迎えたばかりの街の入り口へ響き渡る。


「…朝から煩い。年頃の乙女は支度に時間がかかるもの。ズボラなセフィリアと比べないで」

「貧乳の癖に、どこが乙女なのよ?」


 この二人って、ずっとこんな感じなのかな…だとしたら嫌だなぁ。

 おじさんついていけないよ……


「ほら、ジーク。何とかして」

「無理だ…俺には止められない…」


 同年代であるジークリンドに頼むものの、彼もこっち方面に関しては苦手な様子。

 それはそうか。

 分かれたとはいえ、つい先日まで同一人物だったのだから。


 むしろ、前世の記憶がある僕がなんとかしろって話だよね。

 でも、こういう時に頼りになる人物が仲間にはいる。


「ラヴ。任せたよ」

「放っておけばいいわ。その内スザクからレイチェルが落ちるから」


 今は追いかけてくるセフィリアをスザクに乗って逃げているレイチェル。

 放っておいてもすぐに決着がつくとは、ラヴからのお言葉。


「まあ…あの二人は放っておくとして」


 仕切り直そう。


「ヒューリー。そしてエスエル。暫しの別れになるけど、それは今生のものじゃない。多分、十年以内には会えるよね?」

「そんなにすぐ会うかのぅ?なあ?エスエル」


 うん。僕にはまだ長命種の感覚が備わってないんだ。

 一体どれくらいの年月を想定すれば良いのか、現時点では全くもってわからない。


「ま、まあ、それが十年なのか百年なのかはわからないけれど、また必ず会おう。その時はきっとエスエルにも会えるよね?」


 チリリンッ


 左耳が今では慣れた音を拾った。


「次に会う時は、お互い土産話で盛り上がろう」


 締まりは悪くなったけれど、そう告げて僕は右手を差し出す。


「うむ。色々と楽しみにしておくのじゃ」


 手を握り返してくれたヒューリー(友人)との暫しの別れとなる。


 僕らの人生は長い。

 遠い未来に楽しみでもないと、日々の些細な辛さに耐えられないかもしれない。

 これまで我慢できていたものが我慢できなくなり、逆に気の長い面も出てくるのだろう。


 今はまだ見えないけれど、ヒューリーの側にはエスエルがきっといる。


 僕はそんな二人へ手を振り、セフィリアとジークリンドが用意してくれた馬車へ乗り込む。


 別れの辛さは少ない。

 今から無理にでもそうしていかないと、これからの人生がとても苦しいものになってしまう。


 そんなことまで色々と教えてくれた友人を想い、僕は信じられる仲間達と共に馬車に揺られるのだった。

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