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元々強かった

 







「そう。スザク…ポチは元々ヒューリーが飼っていたのね」


 翌る日。

 朝の談笑での話題は、何故ここにポチが居たのかになっていた。


「うん。素材集めの時にポチの親を狩ったんだって。その時に野放しにするくらいならと、ポチを連れてここへ戻ってきたらしいよ」


 この世は弱肉強食。

 弱きものを虐げて良いとは思わないけど、必要だと思えば僕も同じことをしただろう。

 現に翼竜戦では似た様なことをした。


「大きくなった時に素材が採れるからのう」

「また、そんなこと言って…ポチが戻ってきた時はずっと喜んでいたじゃないか」


 これが照れ隠しなのはお見通し。

 それくらいは僕でもわかるよ。

 ね?エスエル。


「ところで。ポチはやめて、スザクに改名しない?僕としてはその方が似合っていると思うんだけど」

「名前などどうでも良い。好きにするのじゃ」


 本当にどうでも良かったんだろうね。

 ポチはあんまりだもの。


「じゃあ、スザクで。良いよね?スザク」


 スザクがペロリと僕の頬を舐めた。


「ズルい!私も!私も!」

「待て!お座り!」


 何故か対抗意識を燃やすラヴ。

 犬は嫉妬しないんじゃなかったっけ?

 まあ、今は人だもんね。


「ラヴといったかのう?」

「え、ええ。そうよ」

「お主、そんなに犬になりたいのか?」


 ヒューリーが真剣な眼差しでラヴに聞いた。


「ヒューリー。だとしても、ラヴを実験体にはしないよ」


 いくらラヴが望んだとしても、それは困る。

 だって、そうなると血を吸える相手が居なくなる人がいるからね。

 それに、僕もそれは望んでいない。

 ラヴはラヴだ。見た目は関係ない。


「犬の形をした入れ物を造る話ではない。まあ、待て。ラヴの気持ちを聞いてからにせぬか?」

「…わかったよ。聞くだけ、ね?」


 聞くだけなら良いけど……


「犬には戻りたいわ。でも、この身体の方が都合が良いことも多いの。悩ましいところね」

「だ、そうだよ?」


 ラヴは帝国のお姫様だった。

 戻ればその権力は絶大だとも聞く。

 それこそ国のトップである皇帝すらも想いのままに操れるとも。


「では、変化してみるか?」

「…変化?」

「ちょ、ちょっと!説明が抜けてるよ!いつものことだけど…」


 ヒューリーは頭が良い。けど、周りがついて行けてなくても勝手に話を進める性質(たち)

 まさにタチが悪い。


「そうじゃったな。オーラを使う技じゃ。ラヴ程の技量があれば…そうじゃの…二十年で身につけられるはずじゃ」

「それって、意のままに変身出来るってこと?」

「変身…中々面白い言葉じゃな。そうじゃ。変身出来る。オーラが扱えるかどうかじゃから、吸血種になろうがそこは問題ないのじゃ」


 ノーリスク。

 ただ普通の人間の感覚だと、アホみたいな修行期間があるだけ。

 それも僕達には然程関係ない。

 僕の身体が完成すれば、ラヴは吸血種になるのだから。


 僕に視線を向けるラヴ。

 僕はそれに頷いて答えた。


「お願いします。師匠」


 こんなお遊びで師弟関係などあるものか。

 そう告げたヒューリーだけど、その顔は綻んでいた。


 やはり、慈悲深い人だ。

 身内にはとことん甘く、その悠久の時と知恵を惜しみなく使ってくれる。

 僕もそんな人になれるのだろうか?















「右に行ったわ!」


 セフィリアが囮となり攻撃を仕掛けた。

 驚いた獲物は逃げようとするも、その方向にはラヴがいる。


「捕まえたわ」


 残念。僕は左だったから、今回は活躍無しだね。


「流石だね。テリトリーを器用に使った技だ」

「ええ。私は身体能力で二人に劣るもの。そこを補う為にアレンジしているのよ」


 テリトリーは最小限。

 狭い範囲だけど、そこにナニカが触れると身体が反応するように工夫しているのだろう。

 それは視覚で捉えて脳からの命令を待つよりもずっと素速い動きを可能にしていた。


 電気信号に近い感覚だね。いや、どちらかと言えばセンサーかな?


「スザク。私達も活躍した」


 そう言ってスザクに乗りながらスザクの頭を撫でているのはレイチェル。

 獲物をここまで誘き寄せたのはレイチェル達だもんね。


 本当に何もしていないのは僕だけ……

 まあ、一応…リーダーだから?

 司令塔は動かないものだし、ね?


 ここは鬱蒼と草木が茂る森。

 上台地からはスザクに乗っても五日の距離。

 そしてスザクに乗れるのはサイズ的に女性三人まで。

 必然的に僕が走ることになった。


 あれ?そういう意味では、僕も貢献してるよね?


 何にしても、この四人組の強さは無駄に思う。

 一人だけで十分素材集め出来る面子が四人もいるのだから。


 チリリンッ


 うん。君もいたね。僕と同じで存在感が薄いんだよ。仲間だね。


 というより、この三人が目立ちすぎるんだ。


 どこの街に行っても、必ず誰かがナンパされているから。

 レイチェルはその幼さから頻度は少ないものの、熱烈なアプローチが一番多いのは彼女。

 どの世界にもいるんだね…ロリコンって……


「まさか最後の獲物がこれだなんてね。予想外だったわ」


 捕まえたラヴが掲げるのは……


「真っ黒。陰湿」

「縁起が悪いって、王国では学んだわ」


 女性二人がディスる。

 この後でそれは僕の身体の一部になるんですけど……間接的に攻撃するのはやめてね?


「さ。カラスも捕まえたことだし、戻りましょう」

「そうだね。ヒューリーも首を長くして待ってるだろうしね」


 いや、そんなことはないか。

 素材集めに旅立ってから、今で三ヶ月。

 その程度の期間は、彼にとって一日と誤差ない程度の感覚だろう。


「セフィリア、レイチェル。ただの烏じゃないからね?そこの所よろしく」

「「?」」


 二人にとってはどうでもいいことかもしれないが、ディスられた僕にとっては違う。

 このカラスは普通のカラスではないのだから。

 歴とした魔獣なのだから……

 見た目は普通のカラスだけれども。













「どれくらいで完成しそうかな?」


 僕とラヴはいくらでも待てる。

 けど、そうじゃない人が約二名。

 いや、セフィリアもまだまだ待てそうだけど。


 そう思って、造る張本人であるヒューリーの答えを待った。


「エスエルのとは訳が違うのじゃ」

「…つまり、どれくらいかかるのかな?」


 エスエルの時で…確か二、三ヶ月くらいだったかな?

 待つのに慣れて忘れてるね。


 それより掛かるのか…何ヶ月…いや、何年かもしれない。


「エスエルは大精霊。それと人の器では比べ物にならないのじゃ。三日といったところかのぅ」

「早っ!?それ、大丈夫なのかい?」


 あのぅ。いくら愛するものじゃないからって、てきとうに造るのはやめて下さいね。


「ガワを造るのに時間は要らぬ。器を用意することに作業時間の大半が取られるのじゃ。

 安心せい。ジンのオーラロードも既に把握しておる。

 器であるオーラの結晶化。そこだけが重要だと言えるのう」

「結晶化?」


 えっと…もしかして、任せきりじゃないパターン?


「そうじゃ。エスエルはまだ入れ物が完成しておらんが、都度結晶化まではしておるのじゃ。

 技術は使わんと錆びるでな。

 いつも最終段階ではエスエルと作業小屋に篭っておったじゃろう?」

「…そういえば。確かに、ヒューリーが作業小屋に篭っている時には、何度話しかけてもエスエルは応えてくれなかったね」


 初めて知ったよ。

 その作業に時間が掛かっていたんだね。


 それなら納得。

 大精霊と僕とじゃ、質も量も比べ物にならないからね。


「ジンは安全なのよね?」

「無論じゃ。試行錯誤以外で儂は失敗したことがないからのぅ」


 それは安心。


「……」

「セフィリア。聞きたいことは聞いておいた方がいいよ」


 僕からは何もない。

 信頼しているから。

 セフィリアも同じだと思うけど、自分のことじゃないからね。不安はあるだろう。

 僕もラヴのことだったら同じように不安な顔をしていただろうし。


「…ジークリンドは。ジークリンドは起きるわよね?」

「絶対ではない。しかし、お主らが旅立ってからの動物実験では成功しておる。

 理論的にも、それが人であっても問題ないはずじゃ。

 それでも不安なら、死罪を言い渡された罪人でも連れてくることじゃな」


 絶対はない。

 それより信頼を募らせる言葉はないんじゃないかな?


 何よりも驚きなのが、人の世に死罪がある事を知り、それなら問題ないだろうと人の良識と常識を理解しようとしているヒューリーの方だ。

 僕は学べと言っただけで、何の手助けもしていないのに。

 凄いね。


 そしてありがとう。

 自信はあるのだろうけど、それでも実験をして、僕やみんなを安心させてくれて。


 このハイエルフは本当に慈愛に満ちている。

 それが例え身内だけだとしても、ここへ訪れて本当に良かったと僕は心からそう思うよ。

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