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落ち着くところに落ち着く、水が海へ流れるように

 







「…申し訳ないけど、二度もラヴを待たせたくないんだ。ごめんね、ラヴ。僕にとっての一番は君なんだ。そこに二番も三番も存在しない」


 確かにセフィリアを愛していた。

 でもそれはジークリンドという似て非なる存在が、だ。

 そのジークリンドは、僕からしたら日本人が外国人を見るようなものだ。

 日本人からすれば同じような顔をしているけど、実際は別人。

 それくらい僕とジークリンドは違う。


「それは違う」


 次はラヴかヒューリーから声が上がると思っていたけれど、想定外の所から声が上がった。


「レイチェル…どういう意味かな?」

「ラヴも不老不死になればいい」


 それは……


「というか。私がジークを探していたのは血を吸うことが理由。今はそれがラヴでもいいと思ってる。つまり、うぃんうぃん」

「ウィンウィンって…」


 確かにそれならばラヴも不老不死…つまり、同じくらい長生きすることが出来る。

 血を吸わないとならなくなるけれど、相手を選ばなければそこはどうとでもなりそうだ。

 この世界にも死んだ方が世の為になる人は沢山いるからね。


「ジーク。これは確定事項。全部を貴方の思い通りには出来ない」

「それはそうだね。元より、僕の目的はすでに達成されているから、後のことは些事でしかない。

 ここは譲る場面なのだろうけど、少し考えたい」


 ヒューリーが教えてくれた出来ること。

 それは、僕を入れ物に移し替えるという方法。

 それを使えば、この身体でジークリンドが前世の記憶を持たない今世の僕として自我を固定され、僕は今のまま別の身体で生きることになる。

 魂の分割かと思ったけど、話を聞く限りそれは違うみたいだ。


 それを行えば、今まで世話になったレイチェルや、負い目のあるセフィリアへ恩返し出来る。ならば望むところでもある。


 ただ、後戻りは出来ない。

 答えは決まったも同然だけれど、悩むのが人生。

 悩める猶予があるのならば、僕もしっかりと悩ませてもらおう。













「やあ。ここにいたんだね」


 君ならここにいると思ったよ。


「ジー…ジン。なに?急がないなら、まだ放っておいて」

「急いではいないけど、君に伝えたいことがあるんだ」


 ここは街を見下ろせる高台。

 上台地の中でも一段高いこの場所は、高い所が好きなセフィリアが選ぶ場所だと、心の中に眠るジークリンドが教えてくれた。


 そう。僕があの時セフィリアを見て胸を押さえたのは、ジークリンドが目覚めそうになったから。

 漸くラヴと会えたのに、主人格を奪われるわけにはいかない。

『一度心が折れた君に、この身体を渡すわけがないだろう?』


 僕は強いから主人格なんだ。何故か封印されていたけれど。

 そこだけは話が違ったけど、死後の世界の管理者さんにはそれでも変わらない感謝の想いを捧げている。


「…なに。さっさと言って」


 僕を見ると、セフィリアの瞳に涙が溜まる。

 そんな君を抱きしめたいと、内なるジークリンドが暴れる。


 板挟み……学生の恋愛かな?


「もしかしたら、君にジークリンドを返せるかもしれない」

「…え?…どういうこと!?」


 するのは僕じゃないから確約は出来ない。

 ヒューリーの腕は信じているけどね。


「難しいことは僕にもわからないけど、この身体から僕が出れるかもしれないんだ。そうなると空いたこの身体に残るのは、この世界()()の記憶を持ったジークリンド。

 それでも多分、君の知っている完全なるジークリンドじゃないとは思う。

 時が経つにつれて僕の話し方が変わっていったのは間近で見ていたよね?」

「え、ええ。大人びた考えだけど中身は子供みたいなジークや、背伸びしたジーク……私が愛した等身大のジークリンドも」


 うん。そうだよね。

 君が好きだったのは、同い年のジークリンドだ。

 知っているよ。想いは継げなくても記憶だけはあるんだ。


 泣かないで。


 君が泣くとジークリンドが五月蝿いんだよ……


「君が知っているジークリンドは、どのジークリンドも前世の感覚を持っていた。そこに例外はなく、君が愛したジークリンドもね。

 その感覚が残るかどうかはわからないんだ。

 でも、君を愛した記憶はちゃんと残るんだって」


 本当にそんなことが可能なのか?

 僕にはわからないけれど、千年以上を生きてきたハイエルフが自信を持って告げたこと。


 それも愛する大精霊と共に生きる為、試行錯誤したことにより生じた副産物。


 愛が絆を生み、その絆が別の存在として生まれ変わる。

 僕とラヴみたいだ。


 そう。僕は一度転生した身。

 これも転生みたいなもの。

 そう割り切ることに決めたんだ。


「どうだろう?君が望んでくれるなら、今も僕の胸の中で君に会いたくて暴れているジークリンドを、君へ託したい」


 セフィリアがそれを望まなければこの話は無かったことになる。

 セフィリアが拒絶してしまうと、折角身体を取り戻したジークリンドが自害する恐れがある為だ。


 それ程に愛していたから、だから心が折れてしまった。

 お陰で僕が100%の形で転生出来たのだけれども。


「待ちなさい。それは、ジ…ン。貴方に危険は?」

「僕の心配は無用だよ。それをしてくれるのが、僕の信頼する相手だからね」


 僕の心配か。

 セフィリアも大人になったね。

 以前なら自分と国、それからジークリンド以外には無関心だったのに。


「そう…」

「悩むことがあるのかな?」


 ジークリンドを愛しているのだろう?

 悩むくらいなら僕はしないよ?


「貴方が身を挺して叶えてくれるのだもの。貴方が信頼していても、私は……」

「その相手はハイエルフだよ。君を吸血種から人に戻してくれた人と同じ種族だ。

 君がジークリンドとの未来の為に選んでくれた道を、今度はジークリンドの代わりに僕が選んだんだ」


 ジークリンドは本当に愛されている。

 そこは疑っていない。

 死ぬかもしれない術を、ジークリンドとの未来の為にセフィリアは見ず知らずのハイエルフに託したんだ。


 その点、僕は知っているから。

 そのハイエルフの情熱と技量を。


 そんなことが出来るのは、世界広しといえどヒューリーだけだろうね。


 愛する人と共に生きたい。

 その想いだけで彼は動いている。

 僕はその恩恵のおこぼれを少し拝借するだけ。

 何も心配はいらないし、どちらかというとズルするくらいの気持ちだよ。


「…………お願い……私…ジーク、リンドに…会いたいっ!」

「わかったよ。僕も君に彼を会わせたいんだ」


 気持ちを吐き出したことで、また涙を止める術を忘れてしまうセフィリア。

 彼女を優しく抱きしめ、泣き止むまで胸を貸すのであった。


 今は仮初だけれど、次に君を抱きしめるのは本物のジークリンドだ。













「ジンはわかっているじゃろうが…」


 セフィリアが合意したのでそれを伝える為に二人で戻ってきたところ、話を聞いたヒューリーは快諾してくれた。


「わかっているよ。素材集めだね」

「素材?」

「うん。入れ物…僕の新しい身体を造る為に、素材が必要なんだよ。

 僕はラヴ達をここで待つ間、ここで素材集めの手伝いを一年近くしていたんだ」


 ラヴの疑問に答えたところで、少し要望を伝える。


「ヒューリー。無理じゃなければ叶えて欲しいんだけど、良いかな?」

「なんじゃ?」

「僕の新しい身体のことだけど、出来たら黒髪にして欲しいんだ」


 この派手な銀髪も嫌じゃないけど、慣れ親しんだ髪色は捨て難いよね。

 剣も漆黒なことだし。


「そんなことか。簡単じゃ。どうせある程度の要望は聞くつもりじゃったしの。他はないかの?」

「良いの?じゃあ、体格はこの身体をベースに。その方がすぐに馴染むだろうからね」


 現在の身長は180cm。

 このままいけば185くらいにはなりそうだけど、別にこれ以上は望んでいない。

 大きければ力は強く、逆に素早さは損なわれてしまう。


「なあに。これもエスエルの為の研究じゃと思えば苦にもならんわい」

「そうだったね…でも、変なことはしないでね?」


 ヒューリーはハイエルフの癖に研究熱心でもある。

 拘りは種族的に元々強そうだけどね。


「腕を切り離せるようにとかかのう?」

「うん。普通の人でお願い。羽もいらないからね」


 エスエルを天使に見立てて、過去に造った入れ物に羽を生やしていたことは知っているからね?


「なんじゃ、つまらんのぅ」

「真面目にお願いします」


 僕とヒューリーにとってはいつものじゃれあい。

 それを見た三人の少女達はクスリと笑っていた。


 やはり女の子は笑っていた方がいい。

 三人の少女が幸せになれる選択肢があることを、いるのかいないのかわからない神と心強い友人に感謝するのだった。

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