再会と確執、そして
「凄いわね…」
上台地へ辿り着くなり、セフィリアが感想をもらした。
「元々おかしな子だったけど、今は異常」
レイチェルが失礼なことを呟く。
「二人とも。さっきのは僕の力じゃないよ。僕の友人でもある、大精霊エスエルのお陰なんだ」
「…やっぱり異常」
「よくわからないわ。でも、ジークが凄いのは知ってる」
うん。それも後からちゃんと説明しよう。
と、その前に。もう一人の紹介相手が来たみたいだね。
はっはっはっ
「これから来るモノは敵じゃないから。だから間違っても攻撃しないでね?」
「なによ?」
セフィリアが何なのか聞いてくるけど、その相手はもうすぐここへ来る。
説明するよりもそれは早い。
「来たね」
現れたのは大きな獣。
「ポチ。みんなに自己紹介するよ」
現れたのは白色の体毛を持つ大きな狼。
「スザクっ!」
「え?」
そう叫び、ポチ(ヒューリー名付け)へ抱きついたのはレイチェル。
え?どういうこと?スザク?
「スザク、こんなところにいたのね」
「ラヴ。ポチを知っているのかい?」
「ポチ……その呼び名には思うところがあるけど、知っているわ。この子は私が出身地で見つけた白狼よ」
そう言われても、名付けたのは僕じゃないのだけど……
そうか。知っていたんだ。
奇妙な縁だね。
「ポチ。ヒューリーは何処かな?これから彼女達をお家へ案内するから、そう伝えていてくれるかい?」
僕の言葉に頷き、レイチェルを頭で引き剥がしたポチはその場から姿を消した。
「あ…」
「レイチェル。大丈夫。すぐに会えるから」
「わかった」
レイチェルって、動物好きだったかな?そんな記憶はないんだけど。
ま、いいか。
「案内するよ。ついてきて」
話は全員が揃ってから。
僕が勝手にエスエルを紹介したらヒューリーの機嫌が悪くなりそうだからね。
三人を先導して、僕はハイエルフの家を目指した。
「よく来たのじゃ」
相変わらず似合わない言葉遣いで挨拶をするヒューリー。
だけど、ここにはそれを笑うものはいない。
「みんな、安心して。ヒューリーは良いハイエルフだから」
そう。家に入るなり、三人は家主から距離を取った。
その行動を見て、彼女達の旅が平穏無事なものではなかったことを悟る。
また、その旅を完遂出来るだけの強さを併せ持っていたことを嬉しくも逞しくも思った。
「わかったわ」
「「え!?」」
ラヴが従順な姿を見せたことで、セフィリアとレイチェルの驚く声がハモる。
そんなにも、ラヴが人の言うことを聞いてこなかったのかな?
「ジンがそういうならそうよ。二人ともいいわね?」
僕の言葉によりいち早く壁から離れたラヴがレイチェルとセフィリアへ告げた。
不承不承ながらも二人も落ち着きを取り戻し、狭いリビングでテーブルを囲む。
「じゃあ、まずはセフィリアとレイチェル、そしてラヴの話を聞かせてくれないか?」
進行役は三人とヒューリーを知る僕の役目。
ヒューリーには人の常識を知ってもらうためにも同席してもらっている。
そうじゃないと……エスエルの身体が完成した暁に、この世界を滅ぼしちゃいそうだから……
「そう……」
三人のこれまでの話を聞き、次に僕の話を伝えた。
ラヴの話は予想以上のもので、聞いていて飽きなかったね。
そして、僕自身に起きていることを伝えると、セフィリアが寂しそうに呟き、そして涙を流した。
「ごめんね?僕はジークリンドである前にジンなんだ。ラヴを忘れていた時とはいえ、君には不誠実なことをした。ごめんなさい」
セフィリアにだけ伝えていた前世の記憶。
教えた頃の僕は大したことを思い出せていなかった。
だから、セフィリアから見れば人格が違って見えるんだよね。
そんな大したことではない前世のことも、セフィリアは大切な仲間にすら黙っていてくれていた。
この想いに応えられないことは残念だけど、それも含めて僕なんだ。
「ジン。私からも良い?」
「いいよ。何かな?」
俯いて顔の上げられないセフィリアに代わってか、ラヴが何やら話があるみたいだ。
「セフィー…セフィリアと結婚してあげたら良いんじゃないかしら?私はあくまでもペットなのだし」
「そう来たか…」
ラヴが僕に寄せる想いは親愛。
僕達の絆は家族であり、恋人ではない。
だから言わんとしていることはわかるんだけど、人間はもう少し複雑な生き物なんだ。
「セフィリアの想いは?彼女はジークリンドを愛しているのであって、それは僕じゃない。
ラヴ。人間の群れは他の動物のそれよりも複雑なんだ。
君も覚えがあるだろう?
見た目がどうだとか、立場がどうだとか。
人の群れはそうしたとてもつまらないモノを大切にして、そして組み上げられている。
ただ強くて統率力があれば良いわけじゃないんだ」
いや。信じられないくらい強かったり、とんでもないカリスマ性を持っていれば話は別だけどさ。
でも、何か一つ強みがあるくらいじゃ、何も決まらないし、決められない。
それが人間という集団なんだ。
よく言えば平等。ただ生まれにより上に立つ難易度が変わるくらいで。
「でも、ジンはそのジークリンドよりも完璧なはず」
「ははっ。それはどうだろうね?あの時の僕は一生懸命だったよ?今の僕よりも不器用かもしれないけど、常に一生懸命だった。
そこにセフィリアは惹かれたのかもしれないね」
それは僕にないものだ。
前世の記憶を完全に取り戻した僕にとって、この世界は二度目の人生。
一生懸命さというものばかりは、ジークリンドに勝てる気がしない。
「もういいわ!…少し、頭を冷やしてくる」
「セフィリア…わかったよ」
ガタっと、大きな音を立てて席を立ったセフィリア。
そして伝えられた言葉は放っておいてという寂しいものだった。
僕にそれを止めたり追いかける資格はなく、本人のしたいようにさせることしか出来なかった。
バタンッ
セフィリアが出て行ったことで、リビングは静寂に包まれる。
それを壊したのは僕でもラヴでもなく、レイチェルでもなかった。
「ジン。先程の話じゃが、お主の身体が二つあれば事足りるのではないかのぅ?」
「一体、何の話なのかな……」
突拍子もない。
人の話を聞いていないのとは違うベクトルの話だ。
「ヒューリー。話を端折りすぎだよ。一から説明してくれないかな?」
「む…そうか。先程の話を聞いていて、一つ提案があるのじゃ。
それはな・・・・」
ヒューリーの説明は続く。
なるほど……
確かにそう出来るなら、その提案も頷ける。
でもさ?
一つ忘れちゃいないかい?
「それって、僕に寿命っていう概念がなくなるって話だよね?」
「うむ。修理修繕をちゃんとしておれば、お主はほぼ不老不死となるのぅ」
やっぱり。
うーん。自分のことだけなら考えるまでもなく完全にお断りする話なんだけどね……
「安心せい。儂がこれまで認めたメモ書きをやるでの」
「いや…そこの心配はしていないんだけどね……」
はあ……どうしたものか。
ヒューリーを疑う気もないし、僕が我慢すればいいだけの話なのだけれど、どうするべきか。
「ジン。私の方がまた先に死ぬけど、また待っているわ」
「……君は背中を押すんだね」
「セフィーには幸せになって欲しいの。
ジンを渡すことは出来ないけど、ジンが望むなら私は構わないわ」
ラヴが待ってくれるかどうかは関係ないんだけど…いや、待たせていると思えば、僕は自殺しちゃうかも?
いやいや。それはラヴが望まないだろう。
1000年でも万年でも、ラヴは僕を待ってくれる。
しかし…そこまで待たせて良いのだろうか?
次もあの管理者さんのように良い方だとは限らないぞ?
悩ましい……
いや、悩んでいる時点で僕の答えは決まっているのかも……
セフィリアには申し訳ないけど…ラヴをそこまで待たせるわけにはいかない。
「…申し訳ないけど、ラヴが待てても僕がそこまで待たせたくないんだ」
次に死ぬ時は、お互い納得のいく形で。
僕がそう望んで出した答えは、暫くの間テーブルの上を彷徨ってしまった。




