再会と初対面
キィンッ
何度目の斬り合いだろうか。
数えるのも馬鹿らしくなる程の剣線を僕達は重ねていた。
それでもそれは束の間の出来事。
戦いが始まってからまだ10分も経っていない。
「…それが全力なのかい?」
「貴様…剣士を愚弄するか!?」
愚弄というか、ただの疑問なのだけど。
というのも、この剣聖、然程強くない。
いや、強く感じない。
剣の里のギルテンより少し強いくらいだろうか?その程度にしか感じられないんだ。
確かに強いけど、それは一般的な感覚。
僕が子供の頃に相対した剣聖アルバートの方が、全然強いと思う。
寧ろ、アルバートの強さは底が知れない。
「君、剣の鍛錬をサボっていたよね?」
「…暇ではないのだ。貴様と違ってな」
歳は四十前。肉体のピークは過ぎていても、強さだけで考えればそれは技術でまだまだカバー出来る範囲。
それを怠るとどうなるのか。
若ければ然程問題はない。
一日サボっても、三日無理をすれば取り返せる。
だけど、歳を取るとそうではなくなってしまう。
僕も前世ではその辺りを感じ出す年齢だったからわかるんだ。
この剣聖はサボっていた。
勿論、そうせざるを得ない状況もあるから、一概に悪いとは言わないし思わない。
でも、その事実は現実として現れている。
敵は待ってくれないから。
僕も、ね?
「観衆がこれ以上増える前に終わらせよう」
「ぬかせっ!」
口では強気だけど、君ももう気付いているだろう?
千回戦っても、僕に一本入れることが出来ないと。
「『身体強化・改』」
ヒューリーから教えを受け、新たに会得したオーラの使い方の一つ。
これは未来を想定し、未来を作る。
「ガハッ!?」
剣を捨て、一瞬の内に間合いを詰め、僕の拳が剣聖の鳩尾に突き刺さる。
ドサッ
意識を喪失し、地面に横たわる剣聖を見下ろしながら残心を取る。
「終わったよ。兵士さん。この人を連れて行ってくれるかな?」
これだけの騒ぎだ。
周りには街の衛兵もおり、僕はその人達にこの人を連行するように伝えた。
「話を聞いても?」
「それは周りの野次馬にでも聞いてくれないかな?僕はもう帰るよ。騒がせてごめんね」
恐る恐る近づいてきた衛兵の一人が声を掛けてきた。
僕がこの街へ来てから結構な月日が経っている。
そのお陰?で、僕が上台地に出入りしていることは街の人たちには知られていた。
だから、僕に強くいう人はこの街にはいない。
それが分かっているから、僕も出来る限り街へ貢献してきたし、ルールに沿うように行動している。
今もそう。
事情聴取こそ断ったけど、それは僕でなくてもいいからね。
みんな観てたから。
大男が幼気な少女を追いかけ回していたところを。
「ラヴ。行こうか」
「うん!」
リードはない。
だから代わりに手を差し出した。
「ジークっ!」
そこに懐かしい声が聞こえた。
まさか……
「ジークっ!会いたかったわ!」
声のした方へ振り向くと、懐かしい名前を呼びながらラヴとは違う少女が飛び込んできた。
抱きついてきたのは赤毛の少女。
懐かしい匂いが僕の鼻腔を擽った。
「剣聖を倒すなんて、元々強かったのに更に強くなったわね!」
抱きついたまま、僕を離すことなくそのまま顔を上げて話すその仕草。
それは僕の記憶にあるままだった。
キラキラした瞳。
その瞳から感じられる羨望の眼差し。
僕はこの子を知っている。
「セフィ…リア…?」
うっ。
「ジークっ!?どうしたの!?まさか、さっきの戦いで!?」
「ジンっ!?」
胸を押さえて蹲る僕を見て、二人の女性が心配そうに覗き込んでくる。
「だ、大丈夫…ちょっと、ね…」
(ジークリンド…悪いけど…君は出せない…)
僕は胸を押さえていた手を離し、その場で立ち上がる。
「ここは煩すぎる。上で話しをしよう」
剣聖との戦いでも昂らなかったオーラを宥め、僕は二人に提案した。
ざっ。
「貴方……誰?」
そんな僕を見て、一歩距離を取った赤髪の少女が疑問をぶつけてきた。
「僕はジンだ。久しぶりだね。セフィリア」
「…ジーク。ジークリンドじゃないの?」
流石感覚で生きてきた女性だね。
見た目が同じでも、すぐに気付くなんて。
相変わらず、君に嘘はつけそうにないよ。
「それも説明する。移動しないか?」
「セフィー。ジンの言う通りにしなさい」
ラヴにとっては僕が全てだ。
それは僕にとっても同じ。
「…レイチェルを呼んでくるわ。ここまで一緒に来て、仲間外れは嫌よ」
「レイチェルがいるのかい?」
話すセフィリアではなく、ラヴへと問い掛ける。
名前を知っていることからも、どうも二人は知り合いのようだ。
つまり、レイチェルもあのレイチェルなのだろう。
「ええ。貴方を探す旅に同行している仲間よ」
「…大丈夫だった…ようだね?」
レイチェルは吸血種。
そして、ラヴと僕のオーラは表裏一体。
レイチェルが僕に固執してたことからも、ラヴに固執していてもおかしくはない。
「全て知っているわ。あの子が教えてくれたもの」
「…そうだね。レイチェルは嘘をつけない人だったね」
だから、人と必要以上に仲良くしてこなかった。
僕もレイチェルは信用しているし、嫌いではない。
寧ろ、好ましい人柄だと考えている。
ただ一つ。
敵対する可能性が高いところを除いて。
「わかった。セフィリア。あの壁の下で待っているからレイチェルも連れておいで」
「わかったわ。ラヴは…来そうにないわね」
僕達が繋いだ手を見て、セフィリアは寂しそうに背を向けた。
その背中に掛ける言葉を僕は持たない。
だから、ただ黙って見送った。
「ラヴ。会えて嬉しいよ」
全てを考えず全てを忘れ、今だけは感情のままに伝える。
「私も…ヨシヨシして?」
「勿論だとも」
よしよし。
ああ…撫でた手触りまで一緒なんだね。
君は変わらない。
犬であっても、人だったとしても。
「ジンっ!」
はっはっはっ…
「待て待て待て!ここはまずい!」
感情が爆発したラヴは、僕を押し倒してペロペロしそうになってしまった。
でもここは天下の往来。
ラヴの顔を両手で押さえて、何とかそれを止めた。
「なんでぇなんでぇ?!」
「落ち着いてっ!」
くっ…僕からすればラヴはラヴなんだけど、側から見たらラヴは痴女に見えることだろう。
どうすれ……あ。
「ラヴ!おすわり!」
「はいっ!」
その指示を受け、ラヴは僕の上から退いて地べたに座り込む。
「ふう…ラヴ。嬉しいのは僕も同じだけど、待て、だ。
いいね?」
「うぅ…わかった…」
ふう。ラヴはやはりラヴだね。
そうじゃなきゃ嫌だけど。
「ほら?みんな見てるよ?座っていないで、行こう?」
「そ、そうね…ごめんなさい…」
僕の手を握り、しゅんとなるラヴ。
とても可愛らしいけど、僕は主人だから躾には厳しくないとね。
僕達はセフィリアとの約束の場所を目指して歩いた。
久しぶりの散歩だ。
前世振りだね。
色々話したいことはあるけれど、それはみんなが集まってから。
様々な気持ちに折り合いをつけながら、やがて崖の下へと辿り着いた。
「ジーク…本物」
崖の下で待つこと二十分ほど。
現れたのはセフィリアと灰色のローブを目深に羽織っている女の子。
「本物だよ。レイチェル。久しぶりだね」
「また大きくなってる…ムカつく」
レイチェルは相変わらず小さいね。
喉から出かけたその言葉を何とか飲み込む。
「とりあえず、上台地へ行こう。僕が今居候している住処だよ。人も…一人しかいなくて静かだから、積もる話にはもってこいの場所だね」
人…だよね?一応。
「上って、どうやって行くのよ?私とラヴは兎も角、レイチェルは難しいんじゃない?」
「安心して。迎えが来てるから」
どういう意味?
セフィリアがそう声を発した瞬間、僕達の身体は地面から離れ始めた。




