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足早に乗り込んだ車の中で華穂様とふたりほっと息をつく。
物理的な危険があったわけではないが、心理的には命からがらといった気持ちだ。
「なんなのあれ・・・・。会場にいた時は一弥も流も普通だったんだよ!?」
「あー、そうですね。きっとあのおふたりは馬が合わないのでしょう。」
まさか私の口から『自分のせいです』とは言えない。
思わず逃げてきてしまったが、後が怖い。
流は目の前に一弥さえいなければなんとでもなるのだろうが、問題は一弥だ。
ヤンデレがどう出るかわからない。
ハッ!?もしかして一触即発でふたりで残してきたのはまずかったのではないだろうか。
ふたりとも帰るように仕向けるべきだった!!
後悔しても後の祭り。
今更あの場に戻れる訳はない。
「唯さん、流の言ってた『貸す』ってなんのこと?」
私はかくかくしかじかとラウンジで流に聞いた話を説明する。
「ふむふむ。そうだよね。唯さん見てたら執事が側に欲しくなるよね!」
なんだか華穂様がご機嫌になった。
「唯さんがいいならいいんじゃない?
恩返ししたいっていう唯さんの気持ちもわかるし、私も流に唯さんを自慢したいしね!」
「自慢ですか?」
「そ。『わたしの執事の唯さんはこんなにすごいんだぞー』って流だけじゃなくていろんな人に自慢したい。こんな唯さんに側にいてもらえるわたしは幸せなんだぞ!って。」
屈託無く笑う華穂様が眩しい。
先ほどの冷気で冷やされていた心が暖まる。
車内はふんわりした空気に包まれたまま屋敷にたどり着いた。
地獄からのメッセージが届いたのは就寝前の時刻だった。
『せっかく久しぶりに会えたのにさっさと帰っちゃうなんて酷くない?
俺、華穂ちゃんから唯ちゃんが来てるって聞いて、会えるの楽しみにしてたのに。
今日の埋め合わせはもちろんしてくれるんだよねぇ・・・・?
いつがいいかなぁ。空いてる予定を早めに教えね。 ー 一弥 ー』
お、怨念がこもっている!!
白いディスプレイに黒字で文字が表示されているだけなのに、一弥の射るような視線が目に浮かぶ。
どう返答すべきか・・・・・。
本当ならば無視したいところだが、そうすると後が怖い。
・・・・・前回の騒動以降すっかり弱みを握られている。
こちらが強く出られないことを見透かされている気がする。
一弥の望みはなんなのだろう?
私が手中に収まれば本当に満足するのだろうか。
そして、奴にとって『手に入れる』とは何を指すのだろう。
肉体的な関係が欲しいのか、精神的な繋がりが欲しいのか、それとも24時間実際に側にいるべきなのか。
それとも私の考えつかないところに答えはあるのか。
・・・・・・・もし、私が考え付く内容なら、私はそれを叶えてやることができない。
肉体的な割り切った関係なんてごめんだし、そもそもそんな提案をした時点で一弥は私との関係を切り捨てるだろう。
あれは捕食者。自ら捕らえることに悦びを感じる生き物だ。
精神的な繋がり・・・・それを得る資格が私にはない。
24時間一緒にいるなんて華穂様の執事をしている以上無理だ。
一弥をこれ以上堕とさず、且つ彼の希望は叶えない。
ずいぶん難しいミッションだ。
1つのミスが命取りになる。
今日のように、恐怖に負けて選択肢を誤るわけにはいかない。
一弥が執着しているのは“いつもの私”だ。
いつもの私を意識して返答を考える。
『華穂様がレッスンをしている平日の2〜3時間なら時間取れるけど、それ以上なら華穂様か裕一郎様に相談してもらわないと無理。』
ちゃんと理由を述べて、こちらができる範囲を伝える。
こちらが簡単に折れると思われてはいけない。
『槙嶋流 相手には5日も時間取るのに、俺のためには取れないの?』
・・・・・・・・張り合うなぁ。
『帰り際、流様も裕一郎様に許可を取るって言ってたでしょ。これ以上の約束は私の一存ではできない。
もし5日間必要ならあなたも裕一郎様の許可取って。」
そう言ったが、実際一弥がその許可を取ろうとすることはないだろう。
一弥と裕一郎様に個人的な繋がりは無かったはずだ。そう簡単に頼み事ができるとは思えない。
「仕方ないねぇ。今回はそれで我慢してあげる。」
時間と場所を決めて約束をする。
外で会う分には妙なことにならないだろう。
今日、会った時の緊張を思い出す。
約束に時までに、以前と同じように何食わぬ顔で会えるようにならなければ。
今日のように逃げ出したりしないように。
私には逃げることも踏み込むことも許されないのだから。
ブクマ、評価ありがとうございます!
残してきた野郎ふたりの攻防を書きたいなーと思ったりしてるんですが、時間ががが。
もっとスムーズに書き進められる文才が欲しい。




