72
【お詫び】すみません、予約投稿の設定をミスって6/21 17:00に72と書きかけの73の同時投稿になってしまいました。
73は1度削除しております。申し訳ございません。
73は全て書き終えてから明日再投稿します。
一弥の爆弾発言から3日経っても一弥の事務所との連絡は取れず、状況は改善しなかった。
それどころか状況は悪化の一途を辿っている。
月曜日の夜から悪意なのか興味なのかフェリシテのHPへ集中アクセスが起き、サーバーダウン。
HPの閲覧が不可能になり今だ復旧していない。
今の世の中はネット社会である。
週刊誌報道で出ている社長令嬢が高良田財閥令嬢だというのは早い段階でネット上に晒されていた。
その時点ではそれ以上動きはなかったのだが、一弥の一途発言で一弥の恋人(だとファンから一方的に思われている)の私が仕える高良田家、及び高良田財閥グループは熱狂的なファンを丸ごと敵に回した。
ネット上では高良田財閥グループの企業リストがSNSで拡散され、不買運動が起こっている。
匿名掲示板も誹謗中傷の嵐だ。
マスコミも諦めておらず、買い物に出ようとするお手伝いさんが捕まって質問攻めにあう。
スーパーまで追いかけて行って駐車場で捕まえるというしつこさだ。
屋敷全体が重苦しい雰囲気に包まれているのがわかる。
今、この屋敷にいる人間は私だけでなく、誰もが皆マスコミの監視のせいで今までのように人目を気にせず自由に外出することができなくなり、檻の中に閉じ込められているような気になった。
息が詰まりそうだ。
『そっちが勝手なこと言ったくせに連絡取れないってどーゆーことよ!!もう頭来た!!事務所なんか通さないで本人に電話してやる!』と、ブチ切れた華穂様が一弥本人に電話をかけたが繋がるわけでも留守番電話になるわけでもなく、虚しくコール音が響くだけだった。
いっそマスコミの前できっぱり否定してやろうか。
そしたらどんなにスッキリするだろう。
そう考えることもあるが、それをやると
『本気の一弥を弄ぶなんて、酷い女!!許せない!!』
とファンの怒りに火に油を注ぐことになりかねない。
手詰まりである。
「はぁ・・・・・・」
自室のベッドに寝転がり大きなため息をつく。
華穂様は美術史の教師と一緒に国立美術館の絵画展に出かけている。
本当は私もついていく予定だったのだが、今回の騒動で行けなくなった。
ぽっかり空いてしまった時間をぼんやり過ごしていた。
コンコンッ
「平岡さん、槙嶋様がいらしゃってるんですが・・・・」
流が?事前連絡はなかったはずだ。
いきたく・・・ないな・・・。
そんな考えが一瞬頭をよぎる。
なにもかも億劫だった。人に会いたくない。
「すぐ行きます。」
頭を振ってそんな思いを振り払う。
ただでさえできる仕事が限られてるのに、これ以上減らしてどうする。
華穂様が不在の間、お客様の相手をするのは私の仕事だ。
ロビーに行くと流が仁王立ちで立っていた。
しかも何故だか大層ご立腹のようで、離れたところからでも険しい顔をしているのがよくわかる。
流はこちらに気づくと私が声をかける前に怒鳴ってきた。
「お前、あの報道はどういう・・・・」
怒鳴っている途中で大きく目を見開くと、そのまま止まってしまった。
「流様?」
そっと、まるで壊れ物に触れるかのように私の頬に流の指が触れる。
「・・・・少しやつれたか?なぜそんなに泣きそうな顔をしている。」
ぶつっと自分の中の何かが切れる音がした。
勝手に涙がボロボロと溢れてこぼれ落ちる。
「も、申し訳ございません。只今、華穂様は外出中ですので、ご用件でしたら戻り次第連絡させますが。」
慌てて目を腕で隠して流と距離をとる。
止めよう止めようとぎゅっと目を閉じるが、それに反して流れ出る涙の量は増えていく。
こんなみっともない姿を見せる使用人は高良田家の恥だ。
用件を聞いて早くお帰りいただかなければ。
ドンッ
突然の顔を覆っていた腕を引っ張られて硬いものにぶつかった。
驚いて目を開けると黒いネクタイに白いシャツ、ダークグレーのベストが見えた。
慌てて顔を上げようとするが頭をしっかり押さえ込まれて動かすことができない。
腰に腕が回され隙間などなくすようにぎゅっと抱きしめられる。
「りゅ、流様?」
「泣きたいのだろう?だったら好きなだけ泣けばいい。」
頭を押さえ込んでいた手が、優しく撫でるように動かされる。
驚いて止まっていた涙が再びこぼれ出した。
「ふっ・・・・・くぅ・・・」
勝手に声まで出始めた。
なんだか自分が自分じゃないみたいだ。
いつもの自分は頭の隅っこで『早く泣き止め』と言っているのに体はそれを裏切って思いっきり泣くつもりらしい。
撫でられている頭が気持ちいい。
そういえば前も頭撫でられたな。流は頭を撫でるのが好きなのだろうか。
好きな人以外にそんなことしてはダメだと言ったのに・・・・。
そう思うが今は撫でるのをやめて欲しくない。
このままずっと幼な子のように泣きじゃくって、それをあたたかく慰めて欲しい。
「きゃあっ!?」
突然体が宙に浮いて驚く。
あっという間に私は流の肩に米俵よろしく担がれた。
「ここは目立つ。移動するぞ。」
「え?」
思わず流の肩にから周りを見回すと、ちょっと離れたところから心配そうにこちらを見守るお手伝いさん達の姿が見えた。
・・・・・・・・・・・もしかしなくともばっちり見られていたようだ。
「こいつは借りていく。高良田社長には俺から連絡しておくから心配するな。」
そう勝手にお手伝いさん達に宣言した流は私を担いだまま歩き出した。




