73
【お詫び】すみません、予約投稿の設定をミスって6/21 17:00に72と書きかけの73の同時投稿になってしまいました。
73は後半追加をして再投稿になります。
昨日読まれた方は、後半部分だけお目通しください。
前半は変更ありません。
「りゅ、流様!おろしてください!!」
肩の上でジタバタ暴れるが、まったく効果はない。
「そんなに暴れたら待ち構えているカメラの餌食になるぞ。」
脅されてピタリと動きを止める。
「今は俺の車の影になって見えなくなっているから大人しくしていろ。」
流は私をぽいっと後部座席に転がすとそのまま自分も乗り込んだ。
慌てて体を起こそうとすると、そのまま上から頭を押さえつけられる。
「起き上がると外から見える。このままでいろ。」
このまま・・・。
このまま!?
押さえつけられている頭があるのは流の太ももの上。
どう考えても膝枕状態だった。
流は片手で器用にまとめていた私の髪を解くとそのまま優しく梳いてくれる。
「まだ泣き足りないだろう。好きなだけ泣いて、疲れたらそのまま眠るといい。」
いや、さすがにそれはまずい。
そう思ったが、優しい手が心地よくまた勝手に涙が出てくる。
今日の私の体は、私ではなく流のいうことばかりきくつもりのようだ。
私は隠すように流の太ももに顔を押し付けて、泣き顔を見られないようにした。
真っ暗な視界の中、流の『何時もの場所に』と運転手に告げる声と静かに動き出す車の振動を感じた。
車が止まったのを感じて目が覚める。
・・・・・・・目が覚める!?
思わずギギギッと音でもするんじゃないかというぎこちなさで、上を見る。
そこには微笑む流の顔があった。
「起きたか。ちょうどよかった。今着いたところだ。」
どこまで流のいうことを聞くつもりなんだ。
本当に寝てしまうなんて。
恥ずかしさのあまり再び顔を伏せる。
「なんだ、まだ寝るのか?仕方ないな。俺が抱えて降ろすしかないか。」
「起きます!!」
思わず勢いよく起き上がった。
もうこれ以上の事態は恥ずかしさの限界を超える。
私は大人しく車から降りた。
龍が連れてきてくれたのは小高い山の上だった。
下の方に街とずっと先には海が見える。
景観を楽しむためのスポットなのだろう。
ベストポジションにはひとつのベンチが置かれていた。
ふたりでベンチに座る。
山の上だからか麓より風が強くて気持ちいい。
「・・・・・・どうしてここに?」
確かに景色もいいし気持ちいいが、流はなぜここに連れてきてくれたのだろう。
「ここは槙嶋家所有の山だ。誰もくることはない。俺も考え事がある時はよく来る。お前もここで好きに泣けばいい。」
流はわざわざ人目につかずに泣けるようにここに連れてきてくれたらしい。
「なんだ?なぜ笑っている??泣きたいんじゃなかったのか?」
「え?」
言われて自分が微笑んでいることに気がついた。
「・・・・・・なぜでしょう?景色がいいからでしょうか?」
不思議だった。
邸を出る前と何も状況は変わっていないのに、もやが晴れたようにすっきりした気分だった。
「気に入ったなら何よりだ。」
流が笑って返すと、そこからふたりで無言で景色を眺める。
一弥の爆弾発言から、守られるだけで何もできない自分の無力が情けなかった。
まだ3日しか経っていないのに、問題は積み重なっていくばかりで、先は見えない。
心が折れそうだった。
私が華穂様の執事を辞めれば、少なくともこれ以上高良田家の迷惑になることはない。
それはわかっていたが、言い出せなかった。
主人のためを思うなら側を離れるのが執事としては正しい。
しかし、私の心が華穂様から離れることを拒否する。
せっかく出会った全てを捧げてもいいと思える主人を、他からの圧力で失うかもしれないのが悔しかった。
自分から言いださなくても、いつクビになってもおかしくない。それも怖かった。
執事としてのあるべき姿と、その通りでいられない情けなさ、悔しさ、恐怖。
そんなものに雁字搦めにされて動けなくなった。
ずっと暗い空気の澱んだ檻の中にいる気がした。
苦しくて悲しくて心は悲鳴をあげていたけれど、取り乱すことは理性が止めていた。
執事たるものいつも冷静沈着に、主人のことを第一に。
たとえ何も出来なくてもどんなに辛くても取り乱したりしてはならない。
その無理は体に現れた。
眠れないし食欲もない。
流に声をかけられた時に張り詰めていた緊張がぶつりと切れた。
心の負担を引き受け続けた体は言うことを聞かず、好き勝手に今までの苦しさを涙にして流し続けた。
過信していたのだと思う。
執事の勉強を始めてから5年。
大変なこともあったけれど、全て努力でなんとかしてきた。
それは自信となり私を『私の理想の執事』に近づけた。
全ての行動は『執事』が基本になり『 平岡唯』のことは忘れ去っていた。
今回の騒動で『執事』としての決心出来なかった私は5年ぶりに『平岡唯』向き合うことになった。
5年間放って置かれた『平岡唯』は『執事』と違って、とても弱い人間だった。
自分の弱さに向き合わず、思考停止に陥ってしまうくらいに。
肩を抱き寄せられ、隣にいる流にもたれかかってしまう。
流の手が暖かい。
『平岡唯』はまたぽろりと涙をこぼす。
ここには華穂様も裕一郎様もいない。
流は泣いてもいいと言ってくれている。
『執事』である必要はない。
今、ここにいる間だけ流に甘えて久しぶりに会った『平岡唯』を労わってやろう。
ブックマークありがとうございます!
今回でモヤモヤ展開は終わりです。




