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華穂視点。
うぅ・・・お父さんのせいでなんか気まずい・・・。
食事を終えてわたしの部屋に戻ってきた。
唯さんはお茶を出すと『どうぞおふたりでごゆっくり。』とかお見合いみたいなことを言って出て行っちゃった。
そのせいでますます気まずい・・・・。
よく考えたら空太と気まずくなるのなんて高校生の時に喧嘩して以来だなぁ・・・。
空太とはなんでも気軽にいい合える仲で、いるのが普通・・・というかどこにいても違和感がなかった。
空太が卒業して施設を出た後しばらくは妙に寂しかったっけ。
ちらりと空太を見る。
高校の時と体型はほとんど変わらない。
でも、大人になったなぁって思う。
老けたってわけじゃなくて、立派になったって感じがする。
「ん?なんだ??」
見てるのばれちゃった。
「ちょっと子供の頃のこと思い出してた。
空太、大人になったね。」
「なんだよ急に。」
「いや、今って高校の時と体格とか変わんないし、別にシワや白髪が目に見えるわけじゃないんだけど、あの頃より大人に見えるのが不思議だなって。昔より立派に見える。」
「お前もな。」
「さっきあんま変わんないとか言ったくせに。」
「そうやってすぐ口を尖らせるとことかは昔と変わんねーよ。
でも・・・・・・綺麗になった。」
空太の口から発せられた言葉とは思えない発言に、時が止まった気がした。
「昔から努力家で意地っ張りで涙もろくて優しくて。
そういうところは全然変わんねぇけど、やっぱお前も大人になったよ。
特に施設を出てから、前より生き生きしてて魅力的になった。
もう・・・俺の側で悔し泣きしてる華穂じゃないんだってわかった。」
空太の言葉が上手く耳に入ってこない。
向けられる視線が熱くて火傷しそう。
「いいな、その驚いた顔。すげぇそそる。」
大きな手が頬に触れる。
・・・・・・・この人は誰?
「あんまりそんな顔してるとこのまま襲っちまうぞ。」
襲っ!?!?
あまりの単語にソファーから飛び退く。
「なななななななななななにいって!!!!」
「そんなに離れるのかよ・・・。ちょっと傷つくわ。」
「空太が変な冗談言うからでしょ!」
「冗談じゃねーよ。」
飛び退いたわたしに空太が一歩近づく。
まとう雰囲気も眼差しも真剣で空太の本気を感じさせる。
「いいか。本気だからよく聞け。」
思わずごくりと唾を飲み込む。
・・・・・・この先、空太の言葉をほんとに聞いてもいいの?
「お前が俺のことを家族みたいに思ってることは知ってる。
俺ももちろん家族みたいだと思ってる。
でも、俺はそれだけじゃ足りない。
家族だけじゃなく、お前のたったひとりの男として想われたい。
『家族みたい』じゃなくて『本当の家族』になりたい。」
どうしていいかわからなくて固まっていると空太が笑ってくしゃりとわたしの頭を撫でた。
「そんな顔すんなよ。別に今すぐどーのって話じゃない。
本当は俺が一人前の料理人になって男として認められたら言うつもりだったんだけど、そんな余裕ないみてーだしな。
ただ、俺の気持ちを知っておいて欲しかっただけだ。」
ぴんっ
「いたっ!」
急なデコピンにおもわず額を抑える。
「これで俺の気持ちわかった?
お前、ほんと鈍いからなー。」
「・・・・・・そんなことないもん。」
おもわず小声で抗議する。
「そんなことあるんだよ。俺が何年お前のこと好きだったと思ってんだ。」
「え?」
「中2の頃からだからもうすぐ10年だよ。山中先生も他の施設の奴らもみーんな知ってんのに、本人だけ気づかないんだもんなぁ。」
「えぇえ!?」
「俺、彼女がいたことなんてなかっただろ?ずっとお前に一途だったんだよ。」
「・・・・・・・・・・・・」
衝撃の事実に何を言っていいかわからない。
「てことで、これから覚悟しろよ?」
「は?」
「激ニブなお前でもわかるようにしっかりこれからアプローチするから。」
顔は火照って熱いのに、冷や汗が出てくる気がする。
「じっくり待ってる間に他のやつに掻っ攫われたらたまんねーからな。
俺が家族じゃなくて『男』だって、しっかり意識させてやる。」
こ、これにわたしはなんて返事したらいいの!?
「まあ、まずは・・・・・・・
ちゅ♡
!!!!!!!!!!!!
こんなもんか?」
『見送りはいらねーよ』といってニヤニヤしながら空太は帰っていった。
真っ赤になって額を抑えているわたしを残して。
額に触れたやわらかい感触はデコピンなんかよりよっぽど衝撃的だった。
近日中に拍手御礼話に空太のつぶやきをUP予定です。
UPの案内はまたあとがきと活動報告で行います。
一弥の御礼話は下げますので、まだお読みで無い方はよろしければお目通しください。




