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華穂様は突然ガバッと扉から離れると『ずっとここに座ってましたよ?』といった顔で、従業員食堂のイスに腰掛けた。

その様子に首を傾げていると扉から空太が出てくる。


「もう出来るから席についてお待ちくださいってさ。」


「うん、わかった。」


あぁ、空太に覗き見してたところを見つかりたくなかったんですね。

普段、私が接する華穂様より幼く感じるのはやはり幼馴染が近くにいる気安さからだろうか。





食事の時間は静かに流れた。


料理が運ばれてくる時に私が簡単に説明をし、それを空太が真剣に食べ、華穂様がそれを嬉しそうに眺める。

会話はなかったがふたりの心はしっかり通じ合っていて心地よい空間だった。

正直、恋人を飛び越して夫婦のような空気が漂っている気がしなくもない。


・・・・・先は長そうだなぁ。


結婚したら必ずうまくいくと思うが、穏やかすぎて『結婚したい』という気分にならない気がする。

長すぎた同棲・・・・みたいな?

まあ、その前にこのふたりは付き合ってすらいないのだが。

付き合えるかどうかは空太の努力次第である。

なにか華穂様が意識するようになるきっかけがあればいいのだが・・・・・。




「やあ、お邪魔するよ。」


「お父さん!?」


裕一郎様が現れたのは4品目の魚のムニエルを配膳していた時だった。


「突然どうしたの?」


「華穂がはじめて友達を連れてきてくれたからね。

挨拶ついでに私も混ぜてもらおうと思って。

初めまして。華穂の父の高良田裕一郎です。」


「はははははははじめまして!さ、桜井空太です!!」


椅子からガタリと立ち上がり直立不動で噛みまくりながら挨拶する空太。

わー、空太、隼人みたいになってるー。

と、ついつい酷い感想を心の中で述べてしまう。


「元気があっていいな。さぁ、挨拶は終わったからかけなさい。ゆっくり食事をしながら話そう。」


「は、はいっ!!」


ゆっくりといいつつ裕一郎様の目は爛々と輝いている。娘にふさわしいかどうか見極めるつもりであるのを隠す気もないらしい。


「空太くんは華穂とは施設で一緒だったんだって?」


「はっはい。華穂っ・・・さんとは中学から一緒に施設で暮らしました。」


「華穂はどんな子だった?」


「ちょっと!お父さん!!」


「いいじゃないか。私の知らなかった華穂を聞ける機会なんて滅多にないんだし。」


「華穂さんは・・・先生たちの手伝いもよくするし、下の子供たちの世話を積極的に買って出ることも多くて、大人にも子供にも人気があったと思います。」


裕一郎様は頷きながら静かに話を聞いている。


「でも、華穂さんけっこう不器用だから自分で手伝うって言ったのに上手くいかないこと多くって。

最初の頃はしょっちゅう夜中に悔し泣きしてましたね。」


最初は褒められて気分が良くなっていた華穂様も突然の暴露に慌ててしまう。


「空太っ、なんてこと言って」


「本当のことだろ?『なんで小学生に出来るのに、わたしできないの〜!!』って、その頃ほぼ口癖になってたよな。」


華穂様は赤くなったまま口をパクパクさせるしかない。


「どんなに失敗しても絶対諦めなくって。

時間がかかっても丁寧に丁寧にって努力して、出来るようになったら小学生みたいに喜んで。

お前、本当にあの頃子供っぽかったよな。

本当に中学生だったか?」


「失礼な!!」


いつもの様子でじゃれあっているふたりは気づかないのだろう。

空太の華穂様を見る目がとても優しくなっていることを。

それに気づいているのは外から見ている私と裕一郎様だけだ。


「お前、すぐに張り合いたがるし、マジで負けず嫌いだもんなぁ。

俺が料理してるの見て、自分は菓子作り始めたり。」


「子供だったの!!」


「今もあんま変わんねーだろ。」


「空太だってたいして変わってないじゃん!」


本当に子供のようなやり取りが続くのを中断させたのは裕一郎様の一言だった。


「華穂は空太くんが大好きなんだな。」


「だっ!?!?」


「!!!!」


一瞬にして沈黙が落ち、ゆでだこがふたつ出来上がった。

おや?この様子を見ると、華穂様も空太のことを全く意識してないというわけではなさそうだ。


「ふたりとも真っ赤になっていて面白いな。孫の顔が見れる日も遠くなさそうだ。」


あー、裕一郎様はもうすっかりふたりで遊ぶ気である。


「孫とか何言ってるの!」


「何って。別におかしくないだろう?

お母さん華穂の年齢の頃には華穂はもう産まれていたし。」


「そりゃあ、そうなんだけど・・・・・」


「冗談だよ。

ただいつそういう状況になってもおかしくない年齢になったということだけ覚えておきなさい。

相手は空太くんだとは限らないが。」


にやりと笑って空太を見る。

目に見えるくらい空太の表情が強張った。


まったく・・・ずいぶん意地が悪い。

空太は無事裕一郎様のお眼鏡には叶ったようだ。

おまけに『ライバルはたくさんいるぞ』という忠告までしてあげるくらいには気に入ったらしい。


このふたりがそれをどう受け取るか・・・・。

ゆっくり見守っていこう。


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