61
華穂視点。
流のバカ!!
何もあそこまで言わなくてもいいじゃない!!
そりゃあ流の言いたいこともわかるけど、それにしたって言い方ってものがあるでしょ!!!
一方的に決めつけて。宗純先生には宗純先生で色々あるんだよ!
苛立ちが収まらないままずんずん廊下を歩いていく。
・・・・・・・・と、気がつくと行き止まりだった。
「華穂さん。」
「うひゃぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
突然、後ろからかけられた声にびっくりする。
恐る恐る後ろを振り向くと困った顔の宗純先生がいた。
その手はしっかりとわたしが握りしめてる。
そうだった!!
わたし宗純先生勢いで連れ出しちゃったんだった!!
怒りのあまりわすれてたあぁぁぁぁぁ!!
慌てて手を離し頭をさげる。
「すみませんすみませんすみません!なんか偉そうなこと言って無理矢理宗純先生連れ出したりして!!」
うぅ、穴があったら入りたい・・・・・・・・。
ちょっと視線を上げて宗純先生の表情を見る。
いつも通りの真顔なのが居た堪れない。
怒るとか馬鹿にするとかしてくれた方がまだいいのに・・・・。
「・・・・・・少しお茶でも飲んで休憩しましょう。」
「・・・・・・はい。」
散々振り回したわたしに断れるはずなかった。
ホテル併設のカフェで向かい合ってコーヒーを飲む。
まつげ長い・・・・・・・。
伏し目がちにコーヒーを飲む宗純先生はいつもより綺麗に見える。
艶やかな黒髪に長いまつげ。色白の肌にカップを持つ指は長く美しい。
気まずさを忘れて、ちょっと見惚れちゃった。
「・・・・・・・華穂さん。」
カップをテーブルに戻した宗純先生がジッとこっちを見てくる。
「はいぃぃぃぃ!!」
怒られる!!
もしくは呆れられる!!
いや、両方!?
怖くて思わずぎゅっと眼を瞑る。
「その・・・・・・ありがとうございました。」
予想外の言葉にわたしはパチクリと目を開けた。
目の前の宗純先生は手を引張ていった時と同じように、ちょっと困ったような顔をしてわたしから視線をそらしていた。
「槙嶋様をその・・・叩いてしまって大丈夫ですか?」
言いにくそうな問いかけに、ただでさえ引いていた自分の血の気がさらに引いていくのがわかる。
そうだった!
わたし、流のこと叩いちゃったんだった!!
忘れてたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
わたしのばかーーーーー!!!!
勢いでいろんなことやらかしてる。
もうヤダ。入る穴自分で掘りたい。
「た、たぶん、だ、大丈夫です。」
うん、謝ってきっと話せばわかる!!
話せば・・・・流、話聞いてくれるかなぁ・・・。
流はきちんと話をしてみると、ちゃんと会話できるんだけど、そこに行くまでが大変なんだよね・・・・。
基本、人の話聞いてないし。
なんか絶望的な気分になってきた・・・・・。でも、
「わたし、間違ったことはしてないと思うから、きっとしっかり説明すれば許してくれます。」
ちょっと乱暴だったし、頭に血がのぼっちゃってたけど、間違ったことはしてないと思う。
だから、後悔はしてない。
「なぜ、私を庇うのですか?
槙嶋様の言われた通り、貴女にもあの作品が出来損ないであることはわかっているはです。
ああ言われても仕方がない。」
逸らしていた視線をこちらに戻されひたりと見つめられる。
なんだかここでは正直に思ったことを伝えないといけないと思った。
「出来損ないだなんて言わないでください。
そりゃぁ、宗純先生には満足できるものじゃなかったかもしれないですけど、そう言ってしまったら材料になった花たちと宗純先生の心が可哀想です。」
「私の心・・・・?」
「流にも言いましたけど、人間だし誰でも迷うと思うんです。
そりゃあ、流くらい我が道を行く人になれば迷ったりなんてしないかもしれないですけど。
で、流はそれを人に見せるなって言いました。
確かに宗純先生の作品からは迷いを感じました。
でも、それを理由にあそこまで言われておとなしくしてる必要はないと思うんです。」
緊張をほぐすためにコーヒーを一口飲む。
ちゃんと伝えなきゃ。
「生意気かもしれないんですけど、わたし今いろんなこと勉強してて思ったことがあるんです。
華道・・・というか芸術全般、音楽も絵画も書道も、全部は『今』の自分を表現するものなんだって。
だから、あの作品にも宗純先生の今がつまってると思うんです。
なんか、それが否定されると先生自身を否定された気がして・・・・・。」
カッとなってやってしまいました。
「流の言いたいこともわかるんです。
でも、わたしはそうは思わない。
わたしは迷いがあるならそれをそのままさらけ出して作品にしちゃえばいいと思うんです。
考え方の違いなんで、流の意見を否定するわけじゃないんですけど、流の個人的な意見をあんな大勢の前で押し付けたらダメです。
つい叩いちゃったわたしもダメなんですけどね。」
そう言って苦く笑う。
意見の押し付けもダメだけど、暴力はもっとダメ。
「迷いを作品に・・・・・・」
わたしはまた目をパチクリさせた。
なんだか宗純先生の口の端がちょっと上がってる・・・・・?
間違いかなと思って瞬きしたら、またいつもの鉄面皮になってた。
やっぱり見間違い?
「そろそろ戻りましょう。こちらの支払いは私がしておきますので貴女は先に戻っていてください。」
「はっはい!!」
慌てて立ち上がり店から出ようとする。
「貴女は・・・・・雪柳のような人ですね。」
宗純先生の言葉が耳に届いたけど独り言みたいだったから聞かなかったことにして店を出た。
補足:雪柳
柳のようにしなやかにしなる枝を持ち枝に白く小さな花を連なるようにつける植物。
川べりなんかによく自生してます。
今回は愛らしい見た目なのにしなやかで強いというイメージで呟いてもらいました。
初評価いただきました!ありがとうございます。
5点満点いただけるよう精進します。




