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唯視点に戻ります。
華穂様が流に抱き上げられたまま暴れているのを見てホッとする。
流イベントは無事終了したようだ。
遠目で見ていただけなので細かい所まではわからないが、お姫様抱っこのスチルも見れたしいい結果になったのだろう。
途中、本来は居るはずのない秀介が入っていってどうなるかと思ったがイベントには影響なかったようだ。
あの後、華穂様は顔を赤くしていたが何を言われたのだろうか。
そういえば・・・・。
ちらりと隣にいる宗純を見る。
「なにか?」
ちらりと一瞬見ようと思っただけなのにバッチリ目があってしまった。
「いえ・・・、宗純先生はあちらに行かれずによろしかったのですか?」
「なぜ私が?」
ですよねー。
行く理由がないですもんね。
この場にいるからには、秀介のようにイベントに絡んでくるものかと思ったのだが、そういうものでもないらしい。
「貴女こそ、主のもとへ行かなくてもよいのですか?」
「主人が頑張っている時に割って入って水を差すものではありませんし、私以外にも華穂様を助けてくれる相手は必要ですから。」
いつも、そしていつまでも私が傍にいるわけではない。
その時が来てもいいように見守ることも大事なことだ。
いつの間にか、真っ赤な顔で大人しく流の腕の中に収まっている華穂様を見つめる。
先ほどの騒動での華穂様はとても立派で、イベントとしてあらかじめ内容をわかっていても胸にくるものがあった。
自分の主人はとても心優しく正義感が強く大勢の前でも自分を通せるしたたかさをもった人物。
「それに華穂様にはそのうち私など必要ないくらい立派な方になります。自慢の主人です。」
華穂様の魅力とそんな主人を持つことができた誇らしさについつい顔がにやけてしまう。
「貴女はほんとうに華穂さんのことが大切なのですね。」
「はい!華穂様にお仕えできて私は幸せ者です。」
・・・・・・そこまで言い切ってから我に返った。
宗純相手に私は何を熱く語っているのだ。
自分のヒートアップぶりといつもと変わらぬ宗純の冷めた表情とのギャップに一気に恥ずかしくなる。
「・・・・・・・・・羨ましいですね。」
「え?」
恥ずかしさに悶えていたら、宗純の言葉を聞きそびれた。
「宗純先生、何か仰いましたか?」
「いえ、なんでもありません。華穂さんたちが戻ってくるようですよ。」
言われて見てみると、華穂様を抱えたまま流がこちらに近づいてくる。
「ゆ、唯さ〜ん・・・。」
流の腕に抱かれたままこちらを見つめる華穂様。
先ほどの凛々しさは何処へやら。
うるうるした目に赤く上気した頬が凶悪なまでに可愛らしい。
いつもの可愛い私の主人だ。
「歩けないのですね。壁際にイスがありましたのでそちらで休憩しましょう。」
イケメンにお姫様抱っこされてる図を見ている方は楽しいが、華穂様は羞恥心の限界を試されているだろう。
おまけに先ほどから華穂様に集まる女性達の嫉妬や羨望の眼差し、ついでに男性達から向けられる品のない視線が煩わしい。
「槙嶋様、そちらまでご移動お願いできますか?」
「問題ない。」
壁際まで移動しイスの上に下ろすと、華穂様は大きく息をついた。
「疲れた〜〜〜〜〜〜。」
「歩けないというから運んでやっただろう?何を疲れることがある。」
「う・・・、せ、精神的に?
さっきは助けてくれてありがとう。
ドレスの件、わたしじゃ何もできないから助かったよ。
あ、あと・・・・移動のことも。」
最後の一言は恥ずかしいのかずいぶん小声になっている。
「気にするな。たいしたことじゃない。」
「唯さんも何も言わずに飛び出しちゃってごめんね。」
「華穂様が謝ることなど何もありません。
華穂様はご自分が正しいと思ったことをなさっただけでしょう?
私は周りに飲まれずにきちんち意見が言える華穂様を誇りに思います。」
「誇り・・・」
また赤くなってしまった華穂様はうつむいて『今日はみんなしてわたしを殺す気?恥ずかしくて死ねる。』などとぶつぶつ呟いている。
「槙嶋様、私からもお礼を申し上げます。
華穂様お助けくださりありがとうございます。」
「俺はやりたかったからやっただけだ。
誰に礼を言われる必要もない。
それに華穂といると面白いということがわかったし、こちらも良い収穫だった。」
「そういえば華穂様はずいぶん槙嶋様と仲良くなられたみたいですね。」
「え?別にそんなこと・・・」
「口調がいつものものに戻ってらっしゃいますよ。」
流に対してパーティーに参加した当初は敬語だったものが、いつの間にかタメ口になっている。
「や、やだ!!!失礼しました!!!」
「気にするな、今更だ。
むしろそのままがいい。俺の前で取り繕う必要はない。」
「うぅ、じゃあそれでよろしく・・・」
「あぁ、よろしく。」
流も『あんな奴』から昇格できたようだ。
この後のことはわからないが、少なくともこれで流に振り回されることは減るだろう。
華穂様にも流にも、そして私にもとても実りのあるパーティーだった。




