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最初と最後は別視点。
何も活けてない花器の前に座りそこに花の姿を想い描く。
思い出すのは強い意志を秘めた目と凛と通った声。そしてそれを見守る優しい瞳。
準備していた花を手に取り活ける。
毎日行う行動は、半ば無意識に自分の想いを形作っていく。
力強く、優しく、そして美しく。
ただただ私は手を動かしていた。
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宗純先生の指導ももう5回目。
5回目ともなれば、ある程度『生け花』に見える作品に挑戦させてくれるようになる。
もちろんお手本を見てそれに習い活けていくわけだが、それでも花は正直で個性というものが見えてくる。
自分の作品をじっと手本と見比べる。
完璧である。花の角度も高さも。
そして、面白くない。
自分の作品を前にため息をつきたくなる。
目の前にあるのは完璧な手本のコピーだ。
ただ形を真似ただけ。
そこに心はこもってないし、個性などというものも存在しない。
隣でまだ活けている途中の華穂様の作品を見る。
・・・・・・同じ手本を見ているはずなのに、なぜこんなに違うのか。
正直、手本とは似ても似つかない物が出来つつある。
華穂様はあまり器用ではないらしく、必死に形を整えようとしているのはわかるのだが、どの花も奔放に好き勝手な方向を向いている。
それでも華穂様の作品は花が生き生きと自由に見えた。
私の作品はというと金型か何かで抜いたんじゃないかと思うくらい硬い印象を受ける。
外側だけ取り繕って固めてみました。というような感じ。
見た目はまったく同じに見えるのに、宗純の手本は凛と静まり返った湖面のような静謐さの中に一本芯の通った強さが感じられる。
毎回、作った作品に対して宗純が手直しや指導をしてくれるのだが、技術的には問題ないため特に指導もされない。
この出来は自分の性根の問題であると言われているようで、地味に凹んでしまう。
落ち込んだ気持ちで華穂様の作品の完成を待っていると、ふと床の間に飾っている作品に目が惹きつけられた。
植物の名前には詳しくないので何を使っているのかはわからないが、白い小さな花をびっしりつけた枝が、鳥が羽で雛を守りるように扇型に広がっている。
そこで守られているのは薄桃色の小さなバラ。
中央にスクッと一本立つ小ぶりのバラはかすみ草に囲まれ横からも守られているように見えるが、バラの上部は円形に開けた空間が広がっており、上に向かってバラがスクスクと伸び成長していくような印象を受ける。
もちろん切り花なので成長することはないのだが。
その作品から伝わってくるのは優しさ、強さ、成長、喜び、期待。
見ていて自然と顔が綻ぶようなそんな作品だった。
「で、できた・・・」
作品に見惚れている間に華穂様もできたようだ。
見本とは違うが、その作品に良さを消さないように宗
純が手直ししていく。
「この百合はもっと右に寄せた方がまとまりにある作品になります。」
ちょっと手を加えただけで、作品が見違って見える。
まるで魔法の手だ。
「平岡さんは・・・・・いつも通りですね。」
ハイ、イツモドオリデス。
「宗純先生が仕上げしてくれると本当に素敵になりますね。わたしがやるとなんだかいつもバラバラになっちゃって・・・。」
宗純が手直しした作品に華穂様がうっとりしている。
「華穂さんは単純に技量が足りないだけです。
このまま続けていけばいずれ満足のいくものを活けることができるようになるでしょう。」
「はい!頑張ります!!あ、宗純先生!床の間のお花って宗純先生が活けたんですか?」
「・・・・・そうですが、何か?」
華穂様も気になっていたようだ。
「いえ、素敵な作品だと思って。
微笑ましくて眩しくて、それでいて懐かしいような切ないようななんだか胸がいっぱいになる感じですごく好きなんですけど、なんだか宗純先生っぽくない気がして。」
まったく同じ感想だった。
正直、華穂様が聞くまで弟子の誰かがいけたのだろうと思っていた。
今まで手本で見てきた宗純の作品は力強さはあるがどちらかといえば生き生きとした華穂様の作品を動とすると静のイメージに近いものだった。
動かざること山の如しではないが永久凍土のような不変さを感じさせる存在感があった。
ところがこの作品は動の印象を受ける。
いつもの圧倒される感じは受けないが、一気に引き込まれてまるでバラと同じように母親に包み込まれ守られている気がする。
守られて頑張って育っていこうという気持ちと、それを外から見ている自分もいて羨ましく懐かしく思う切なさ。
「私らしくない・・・・ですか。」
「あ、もちろん悪い意味じゃなくて。
いつもの宗純先生の作品も好きですけど、私はこの作品が一番好きです。
なんだか宗純先生の心を近くに感じます。」
「・・・・そうですか。作業は終わりましたので道具を片付けてください。」
そっけなく返事をする宗純だが、その耳がほんのり赤い。
照れているようだ。
それに気づかないふりをして片付けに入った。
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床の間に飾った花に目をやる。
これはあのパーティーの晩に活けたものだ。
明日ぐらいが見納めだろう。
彼女の言葉を考える。
久々に心の底から作りたいと思って活けた作品だった。
彼女を見守る優しい瞳を見た瞬間、それをそのまま切り取りたいと思った。
生け花としてそれを表現したい。
そう思って無心で作り上げた作品だった。
彼女がこの花を見て教えてくれた感想は、自分があのシーンを見た瞬間に感じた思いそのままだ。
それをきちんと読み取ってくれる。
そんな人がいるのだったら、自分はまだ向き合っていけるのかもしれない。




