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隼人は真っ赤な顔のままギクシャクした動きで一ノ瀬社長に連れられて離れていった。右手と右足が同時に出せる人間って漫画以外にもいるのか・・・・。
可愛かったなぁとのほほんとした空気が残っている中に現れたのは、それをかき消す 吹雪だった。
薄鼠色の着物に藍色の羽織、着物姿なのにまったく動きにくさを感じさせず、その所作は会場の誰よりも流れるように美しい。
艶やかな黒い前髪は左にきっちりわけられ、後ろ髪もうなじに沿って綺麗に切られている。
シャープな顎に涼やかな目元、細い銀縁の眼鏡が彼の印象をより冷たく硬質なものに感じさせる。
花柳宗純
二十三代華道花柳流家元、29歳。
先代が早逝したため若くして家元を継ぐ。
基本的には人嫌いで華道一筋。他人に厳しく自分にはもっと厳しい。
クールな見た目で女性に人気はあるが、本人はそういう女性が一番嫌いなため、氷のような視線を返す。
花柳家は古い家柄で先祖代々高良田家と懇意にしてきている。
いつの時代も大きな行事で花は欠かせない。
高良田家ではその度に花柳家に依頼し、花柳の腕と名を世間に知らしめてきた。
個展の後援などもおこなっており花柳にとっては大事なスポンサーだ。
・・・・・・・・本人がどんなに来たくなくとも招待は断れまい。
今回の会場にも家元の作品ではないが、花柳流の作品が飾ってあることだし。
・・・・・てことで、いい加減その冷気を納めてください。
宗純が裕一郎様の方に向かって歩いてくるのだが、近寄るなオーラが凄い。
水のように流れるような歩みなのに、その水はまるで氷水のようだ。
寒気を感じるのか彼が歩みを進めると、モーセの十戒のように人が自然と避けて道ができる。
「宗純くん、今回も綺麗な作品をありがとう。」
さすが裕一郎様、宗純の冷気をまったく気にしていない。
というか、人と話している時にその近寄るなオーラは失礼なのでは。
標準仕様なのだろうか。
「いえ、こちらこそ、大切な行事を彩ることができ光栄です。」
・・・・・・本当にそう思ってる?と聞きたくなるほど表情が変わらない鉄面皮だ。
「すまないな。君がこういう場を好まないのはわかっているんだが、今日くらいしか顔合わせの時間が取れなくてね。この子が娘の華穂だよ。
華穂、彼は華道の家元、花柳宗純くんだ。来週から週に一回華穂を指導してくれることになっている。
宗純くん、華穂はまったく華道に触れたことがないから基礎からしっかり頼むよ。
いずれは華穂の作品をこういう会場に飾ってみたいものだ。」
「わかりました。しっかり指導させていただきます。」
裕一郎様ー、会場に作品って華穂様にどのレベルまで求めてるんですか。
きっとこの会場の作品、華道歴十数年とかいう方々の作品ですよ。
そんなことを言ってしまったら、ただでさえ厳しい宗純の指導がさらに恐ろしくなりそうだ。
「よ、よろしくお願いしますっ」
宗純の冷気に当てられたのか華穂様はやや緊張気味だ。
『ほんとーにこの人から習うの??』という文章が顔に書いてある。
「華穂、宗純くんは厳しいかもしれないがそれだけじゃない。
きっとたくさん学ぶことがあるはずだから頑張りなさい。」
お父さん大好きっ子の華穂様にとって裕一郎様様の励ましはパワーになる。
ちょっと不安気な顔だが、裕一郎様の言葉に華穂様はしっかり頷いた。




