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いつかあの頂上(てっぺん)に  作者: 志賀 沙奈絵


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第三十五話 なぜウケるの……?


 桜花賞が終わった後の水曜の夜、華音は響太と詠一と三人で食事へと出かけた。


「三嶋。初G1制覇、おめでとう」

「華音。凄かったぜ。おめでとう」

「えへへ。ありがとう」


 シャンパンで乾杯をすると華音は照れくさそうに笑った。


「結局、同期で初G1優勝は三嶋だったな。取材大変だったろ?」

「だよな。注目されまくって、取材されまくってたもんな」


 同期で一番最初にG1ジョッキーになるのは響太だろうと誰も疑っていなかった。


 その響太と一緒にG1に出られた事も嬉しかったし、激しいデッドヒートの末に勝利した事が嬉しかった。


 源田にも、小園にもこれ以上なく褒めてもらえた。響太とは健闘を讃えあった。


「正直、今でも信じらんないんだよね。寮で目が覚めた時にスマホの日付け見ちゃうんだよね。今日、何日だっけって、てか、取材ってあんなに来るんだね。マジ疲れちゃった」


 仕方ない事とは言え、



「そりゃ、女性騎手のG1制覇なんて注目されない訳がないだろ?」

「まだまだ、テレビとか雑誌とか取材のオファー来てんだって? 頑張れよ」

「うん。しばらく慌ただしいけど、レースに影響出ないようにしないとね」


 あれこれ話していると、ふと華音は周りからの視線を感じた。


「ん? 何だろ? あ、響太が注目浴びてるんだねぇー。モテる男はつらいね」


 華音が小さな声で言うと響太は唖然とし、詠一はブッと吹き出した。


「華音。注目浴びてんのはお前だぞ?」

「ほえ? 何で私が……?」

「お前なぁ……。日曜日、何したんだよ?」

「え……? 桜花賞勝った」


 響太は呆れて深い溜め息を吐いた。


「あんだけ取材受けといて……。てか、華音。お前、昨日の桜花賞、ジョッキーカメラ付いてたの覚えてるか?」

「うん。ヘルメットのトコについてた小型カメラでレースの臨場感がどうとか」

「ネットで見られるのは?」

「聞いたよ? 競馬ファンへのサービスがーとかで、ネットで公開してるって。でも、取材とかで見る暇がなかったんだよね」


 大騒ぎになる事をした自覚がないのかあっけらかんと言う華音に、響太はスマホを操作して公開されたジョッキーカメラの映像を表示して、華音のイヤホンを渡した。


「ほら、見てみろって」


 華音は言われるがまま、イヤホンをつけて画面をタップした。


「おおー。メチャ綺麗だぁー」


 自分が見ていた景色が映っている。ただ、おでこの上にカメラがあった為に若干見ていたより上めではあった。


 ゲートが開き、先行していく馬と先輩達の背中が映る。


 ドクンドクンドクン


 自分がその場にいるような気持ちになってくる。


「あぁ……。ここもう少し内に入れたなぁ……。そしたら、もっとロスがなかったかも」


 小声で呟く華音を見て、響太と詠一は顔を見合わせた。


(こいつ……。勝ったレースのミスった所をチェックしてるのか……)

(華音が成長したのって、こう言う事の積み重ねってのもあったんだろな……)


 集中していてこちらを見ようともしない華音が映像を見終わるまで待つしかないと、響太と詠一は苦笑いを浮かべコーヒーを口にした。


 そしてチラチラと華音を見ていると、なぜか華音が顔を真っ赤にしている事に気がついた。


「どうした? 三嶋」

「響太が保存してたエロ動画を見てるのか?」


 響太は向かいに座っていた詠一の頭に平手打ちを喰らわした。


「詠一じゃあるまいしっ!」

「え? って事は響太は紙媒体派なのか?」

「違うっ!」

「あ、Blu-rayか」


 二人の馬鹿なやり取りを他所に映像を見ていた華音はイヤホンを外してスマホとイヤホンを響太に返した。


「ありがとう、響太。ん? 響太、顔が赤いよ? どうしたの?」

「う……。何でもない。三嶋こそ顔が赤かったけど、何かあったのか?」

「あ……、うん。私って馬に乗りながらあんなに叫んでるんだなって思ったら恥ずかしくて……」


 ジョッキーカメラには音声も入っている。その叫び声を自分で聞いて恥ずかしくなったのだ。


「え? 三嶋って4コーナー辺りから結構叫んでるぞ?」

「だよな? ゴール前なんて叫びまくりだぞ?」

「もしかして、無意識に叫んでるのか?」

「あれだけうるさく叫んでるのが無意識とか……」


 二人に交互に言われて、華音の顔は再び真っ赤になった。


「えっと……えっと……。叫んでるのって重賞の時だけだよね……?」

「いや。新馬戦だろうが、未勝利だろうが叫んでるぞ?」


 響太に真剣な顔で言われて、華音はテーブルに突っ伏した。


 ゴンっと鈍い音がした。


「全然……。マジで無意識だったぁ……。てか、何で今まで教えてくれなかったのよぉ……」

「何でって言われても。なぁ、詠一」

「それが、華音の乗り方だって思ってたし。なぁ、響太」


 交互に言われて更に華音は顔を上げる事が出来なくなる。


(恥ずかしい……。メチャクチャ恥ずかしい……。穴があったら入りたい……。穴がなかったら自分で掘ってでも埋まりたいよぉ……。しかも動画で残ってるんだよぉ……。ううう……)


 華音は思いっきり嫌がっているが、SNSでは話題となっていた。


 多忙な華音がそれを知ったのは更に後であった。


(皆おかしいってっ! あの叫びが何でウケるのよぉーっ! 恥ずかしくて恥ずかしくて外に行けない……)


 それから華音はプライベートで出かける時は変装をするようになった。







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