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アリシアの恋は終わったのです【完結済】  作者: ことりちゃん
本編

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9.謹慎明けの身

 

「会いたかった♡」


 マークが馬車を降りると、停車場まで迎えに来ていたキャロルがぴたりと身を寄せてきた。


 二週間ぶりの学園。

 一応、暴力事件で謹慎を食らった手前、周りの人間に冷めた目で見られるのではないかとマークは心配だった。

 けれど生徒たちは皆、マークとキャロルを視界に入れてもそのまま気にせず通り過ぎていく。


 やはり、そんな大した問題にはなっていないのだなと、マークは少し安心していた。


 教室までの道すがら、キャロルはあの手紙同様、自分の要望ばかり喋り倒してくる。

 そんなキャロルに、以前は感じなかった鬱陶しさを覚えて、マークはちらりとキャロルを見下ろした。


「ん? なぁに?」

「いや、なんでもない」


「やだー! 久しぶりに見るキャロルが可愛すぎて惚れ直しちゃった?」


(本当に、僕は一体こいつの何が良くて一緒にいたんだろうか……)


 一度冷静になると、キャロルの粗ばかりが目についてしまう。

 マークは左腕に絡みついてくるキャロルを、さりげなく引き剥がした。


「えー、なんで?」

「なんとなく、だ。一応、謹慎明けの身だからな」


「なにそれー、ウケるー!!」


 キャハハハ、と大笑いするキャロルだったが、マークは今の発言の何が面白かったのか全くわからなかった。



(それより、アリシアは来ているのか?)



 キャロルと別れ、マークは自分の教室に入った。


 一瞬、刺さるような視線を感じて振り向くと、アリシアの親友であるメリルがこちらを見ていた。

 マークが恐れていたのはこういう視線だったから、さすがにバツが悪くて自分から目を逸らしてしまった。



 さりげなくアリシアの席を見たが、まだ来ていないようだった。




 ◇




「もう! マークってば話聞いてる?」


 昼休み、中庭のベンチに腰掛けているマークの横にはキャロルが座っている。


 この一年、当たり前にそうしてきたのだが今はキャロルがひどく邪魔くさかった。



(あの窓から、アリシアがよく僕らを見ていたな……)



「ねえ、今日は早速ラヴィアンのいちごタルト食べに行こうよー」



(そもそも僕は、どうしてアリシアを避けるようになったんだ?)



「ねえってば!」



(ああ、あいつが恥ずかしげもなく見つめてくるのがなんだか照れくさくて、会うのがイヤになったんだっけ……)



「もう! なんでキャロルのこと無視するの?」

「うるさいな!!」



 考えごとに集中したいのに、横で羽虫のように騒ぐキャロルが煩わしくて、マークはとうとう声を上げた。



 マークに怒鳴られたキャロルはというと、一瞬固まっていた。

 けれど、か弱そうに見えて実は気が強いらしく、キッと眉を吊り上げたキャロルは勢いよく立ち上がった。


「何よ! 私のおかげであんたは大嫌いなアリシアと別れられたんだから、少しくらい感謝しなさいよね!!」

「は?」



 一瞬、何を言われたのか理解できないマーク。返す言葉も浮かばぬうちに、次の一手が打たれた。



「可哀想なのはアリシアよね。

 あんなに大好きだったあんたに、いきなりビンタまでされちゃって。

 そりゃ、百年の恋だって一瞬で冷めるわよ!!」


「おい、一体何を言っている!?」



 色んな情報が一度に押し寄せて、マークは頭を整理しきれない。いや、本当はひとつの答えに辿り着いているくせに、頭がそれを拒否しているのだ。



「もう少し使えると思ったけど、ここまでみたいね。じゃあね、お坊ちゃま!」


 吐き捨てるようにそう言って、キャロルは去って行った。





 中庭のベンチに一人残されたマークは、魂が抜けたように呆けていた。



 ーージリリリリ



 昼休みの終わりを告げるベルが鳴る。 

 けれどマークは、立ち上がることが出来ない。



「大嫌い? 僕が、アリシアを……?」


 キャロルは色んなことをぶちまけて行ったが、結局のところマークが引っかかったのはそこだった。



「僕がいつそんなこと言ったんだよ!」


 誰もいない中庭に、マークの叫び声が虚しく響いた。

 マークはそのまま胸のうちを吐き出す。



「アリシアのことが嫌い? 僕が? 

 そんなわけないだろう! 

 いつだってあいつが好き好き言うもんだから、僕から言う必要なんて無かったんだよ! 

 それに少し相手にしただけで飛び跳ねて喜ぶようなやつに僕から優しくしてみろ、ひっくり返ってもう起き上がれなくなるじゃないか! 

 キャロルとの関係? そんなもんただの遊びだよ! 

 どうせ卒業したら僕とあいつはーー」



(……結婚する、はずだったんだ)



「そんな未来は、もう来ない…………のか。ハハ……」



 マークは自嘲とともに天を仰いだ。




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