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アリシアの恋は終わったのです【完結済】  作者: ことりちゃん
続編~クライドル学院にて~

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11.狼の群れ


「アリシアさんは何色がお好きですか?」


 週が明けて、今は昼時間だ。

 どうやら紳士教育の一環であるこのサポートシステム、というか婚活なのだが、転入などから一週間を過ぎると、他の生徒も参加できるようになるらしい。


 ということで先週交渉してきた四人組が、今日は約束通りというか何というか、早速アリシアと昼食を共にしているのだが。


「好きな色……」


 アリシアは長い間、黄緑色が一番好きだった。

 けれど、今はもう違う。


 終わった恋に後ろ髪を引かれることはない。

 しかし、彼に傾けた時間の長さと、あんなに想っても振り向いてもらえなかったという事実に、虚しさは残った。


 そしてそれは、アリシアの自己評価をかなり引き下げている原因でもある。


「色は特に……」

「じゃあ、好きな男性のタイプは?」


(好きなタイプ……考えたこともないけれど……)


 やはり婚活というべきか、質問が直球だ。

 ユリウス達はこんな風にグイグイ来なかったから、アリシアも気構えず長い時間を彼らと過ごせたのだが。

 どうやら、目の前の彼らは違うようだ。


 ちなみにユリウス達はというと、いつものように三人固まって座っているわけではないが、少し離れたところからそれぞれアリシアを見守っていた。

 


「もし好きなタイプとか特に決まってないなら、僕なんてどうですか?」


 先週、最初に声をかけて来た彼が、思い切った質問をした。


「どう、とは……?」


 なんとも答えにくい質問に、アリシアは一瞬言葉を詰まらせる。


「僕みたいなのは、好みじゃないですか?」


(えっ、そんな聞き方をされると断りにくいわ......)


 ランチルームという、広くてたくさんの目がある場所だ。

 彼はかなりの猛者(もさ)なのか、皆の前でそんなことを聞いてくる。


「ごっ、ごめんなさい。

 決してあなたがどうというのではなく、私、その、()()そういう気持ちになれないのです」


 お断りするのが申し訳なくて、アリシアは目の前の空になったランチプレートを見つめながら、なんとか伝えた。


「なるほど。

 じゃあ、とりあえずお友達からいかがでしょう?」


 さすが猛者なだけあって、アリシア渾身の『お断り』は軽くスルーされてしまった。

 おまけに隣からすかさず別の一手も放たれる。


「あ、そういうことなら僕もぜひ。

 実は今週末の芝居のチケットがあるんですが、僕と一緒に行きませんか?」

「えっ? いや、そういうのも……」


 両手を身体の前で振り、アリシアは必死に無理ですアピールをしてみるのだが、彼らにはちっとも通じていないようだ。


 そうこうしている間に、また知らない男子生徒達がテーブルの周りに集まってくる。


「ねえ、とりあえず僕らも仲間に入れてくれないかな」

「アリシアさんって呼んでもいい?」

「今日の放課後、一緒に勉強しない?」



(あわわっっ、なんだか増えてしまったわ! どどど、どうしましょう!!)



 次から次へと集まって来た緑ネクタイの男子生徒たちは、そのうちアリシアを置いてあーだこーだと揉め始めた。



「ちょっ、お前ら割り込むなよ!」

「抜け駆けは無しだぞ」

「待って、まずは僕達が先だよ?」



(いけないっ、これでは他の皆さんの迷惑になってしまう!)



 アリシアはすっくと立ち上がる。

 ランチルームの生徒達はアリシアを囲む騒がしい集団に注目していたから、立ち上がったアリシアへ自然と視線が集まった。


 俯いたまま、アリシアはぎゅっと両手を握りしめている。



(今はまだダメ。恋愛なんて始めちゃダメなのよ。

 だって私、まだ中身がスカスカなんだもの!)



 アリシアは徐に顔を上げた。

 それから、結構な声量で周囲に集まる男子生徒たちへ向けて、こう宣言したのだった。

 




「あの! 私、恋愛は()()()()お休みすることにしています。

 だから、その……ごめんなさいっっ!!」



 ブンッと音がしそうなほどの勢いで頭を下げるアリシア。

 

 静まり返る緑ネクタイの集団を残して、アリシアは脱兎のごとく走り去ってしまった。







「がっつくからだよ」


 ユリウスが独りごちる。

 彼はそのままゆっくりと立ち上がると、アリシアの消えた廊下を歩いていった。




「まぁ、そうなるでしょうね」


 また別の席では、ヨルンが呟く。

 彼もまた、ユリウスに続いてアリシアの後を追っていった。


 


「おい、お前は行かないのか?」

「……」


 ギルベルトは、剣術部の仲間二人と同じテーブルについていた。



「なあ、彼女さあ。()()そういう気持ちになれないって、向こうでなんかあったのかね?」

「恋愛は()()()()お休みするって、そういうことだろうな……

 でもさ、傷心なら逆にチャンスじゃね?」



 ここだけの話、と念を押されたからにはギルベルトだって誰に話すつもりもない。

 ただ、今しがたアリシアが自らそれっぽい言葉を発したことで、周りは当然、それに近い結論にたどり着くわけで。



「なぜ、傷心なのにチャンスになるんだ?」


 ギルベルトには単純に疑問だった。

 彼女の傷がまだ癒えていない以上、しばらくそっとしておくしかないか。

 あの後、ギルベルトなりに導き出した結論を二人に話してみたのだが。



「ギルベルトさあ、()()()()っていつまでよ?」

「お前が様子見てる間に、ユリウスとかヨルンとか、お前より優しくていいオトコが彼女の心掴むんじゃね?」



 ギルベルトはハッとした。

 そうだ。たしかにその通りだと思った。


 

「でも、嫌われやしないだろうか?」


「攻めんことには何も始まらんだろ。剣と一緒じゃね?」

「臆して挑戦しなかった後悔ってのは、生涯引きずるらしいぜ?」


 ふむ、とギルベルトは考える。

 剣術を例えに出されると、途端に考えが好戦的になるのが、果たして吉と出るか凶と出るか……


「先手必勝か?」


 いや、それはまた少し違うんじゃないかと友人二人は思った。

 が、やる気になっているギルベルトにここで水を差すのもどうかと思い、そっとしておくことにする。



 なぜなら、初日から既にやらかしているギルベルトだ。

 嫌われるなら、あの時点で既に嫌われているだろうに、現時点でアリシアに彼を嫌がる素振りは見られない。


 

 結論として、結構イケるんじゃないかと友人二人は見ている。


 

 初日、ランチルームでアリシアの名前を呼び捨て、彼女には自分の愛称を呼ばせたギルベルト。

 あの瞬間、時が止まったかのように長く見つめ合う二人は、まるで一幅の絵画のように美しかったのだ。



 女嫌いで有名なギルベルト。

 そんな彼がまさか恋に悩む日がくるなんて......

 友人二人は今だって、ウジウジする親友を目にして信じられない気持ちでいる。


 そんなギルベルトに、すでに生涯の伴侶を決めている二人は、こんな言葉を贈った。



「よし、当たって砕けろ!!」

「そうだ、ダメもとで行け!」


 

 彼らの声援を受け、ゆっくりと腰を上げるギルベルト。

 敗北が前提なのか……と悲しくもあったが、それを否定できない自分も確かにいる。


 なにせライバルはユリウスとヨルンだ。

 二人は、誰の目から見てもギルベルトより魅力的なのだ。


 そんなことはギルベルト本人が一番よくわかっている。



「行ってくる」



 ギルベルトはユリウスとヨルンに続いて、おそらく中庭へ向かったであろうアリシアを追っていった。

 




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