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アリシアの恋は終わったのです【完結済】  作者: ことりちゃん
続編~クライドル学院にて~

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8.ノアの目的とは

「いやぁ、僕としても助かったよ。急に先方の都合がつかなくなってね」


 なんて言いながら、ノアはへらりと笑った。

 淡い緑色の前髪を後ろに流し、かっちりとスーツを着こなすノアは、ユリウス達と一歳差とは思えないほど落ち着いて見えた。


(でも胡散臭いわ……)


 アリシアは半目で訴えるのだが、もちろんノアにはスルーされる。


 実は店の前でノアに声を掛けられた時、ユリウスもヨルンも、そしてギルベルトもかなり戸惑っている様子だった。

 人の多さに諦めようかと思った矢先、まさかのタイミングで先輩から声を掛けられたのだ。


 お言葉に甘えたい気持ちと、先輩とは初対面のアリシアを連れているため遠慮するべきかという思いできっと揺れたのだろう。

 かと言って、三人とも先輩の誘いを断るという手は持ち合わせていない。

 

 結局、ユリウス達三人はアリシアに判断を委ねた。


『僕が兄だってバラすなよ』


 学院に入る前、そう言ってきたノアの目的をアリシアは知らない。

 理由を尋ねたら「まだ内緒」と言われたため、それきりになっているのだ。


 アリシアは三人にお礼がしたかったので、ノアの誘いに乗ることにした。とりあえず、ノアとは他人のフリをして。

 


「さあ、まずは食事にしようか? 

 お互い知らない仲じゃないんだし、遠慮せずにどうぞ」



 まだ戸惑い気味のユリウス達にいかにも先輩らしく声をかけて、ノアはどんどん料理を運ばせた。

 


(一応、ノアと私は『知らない仲』の設定なんじゃ無いかしら??)



 そんなアリシアを置いてけぼりにして、気さくな先輩風のノアは皆が食事を楽しめるよう気を配り、ユリウスとヨルンに学校の様子を尋ねたり、ギルベルトには剣術部の話を振ったりしている。


 彼らが学院の話をしている間、アリシアは運ばれてきた料理を味わいながら、ゆっくりと店の様子を観察することができた。




 店内は真ん中がガラス貼りのドーム屋根になっていて、温室のように明るかった。

 それでいてシェードやあちこちに植えられた植物などが日差しを遮り、決して眩しくないよう配慮もされている。


 貴族女性をターゲットにしているだけあって、テーブル毎に広めのスペースが確保されている。

 昼時の店内は満席で、女性が七割くらいだろうか、皆食事を楽しみながらおしゃべりに花を咲かせているようだ。 



 そんな店内の最奥、階段を五段ほど上がったスキップフロアのテーブル席にアリシア達は案内されていた。


(なるほど、VIPスペースなのね。

 小高いから店内もよく見通せるし、個室感も無いわけではなくて、こういう店にはいいわね)


 なんて暢気に考えている場合では無いのだが、もともと来てみたかったので、現実から目を逸らしてついそんなことを考えてしまうアリシアだった。



 テーブルに視線を戻すと、心配そうなヨルンと目が合ったので微笑んで返しておいた。


(そうよね、自分たちばかり会話しているからきっと気にかけくださったのね)



 長方形のテーブルに五人が座っている。

 アリシアは店内が見渡せる側に座っているのだが、対面にはヨルンが座っていて、その隣にユリウス。お誕生日席にノアが座り、ノアの左側、つまりアリシアの右隣にギルベルトが座っている。

 


 ノアの軽快なトークですぐに打ち解けていったユリウス達も、しばらく会話を交わすうちおかしいと気がついた。

 ノアが、いつまでたってもアリシアに会話を振らないことに。

 それどころか、ユリウス達がアリシアに声を掛けようにも、その前にうまく会話を振られるのだ。



(悪趣味は相変わらずね......)


 そう思っていると、太ももに置いていたアリシアの右手にするりと誰かの手が触れた。


(――っっ??)


 さすがに声は出さなかった。

 けれど、かなり驚いてとっさに右のギルベルトを見てしまったのだが、当のギルベルトはというと、剣術部の鍛錬メニューだとかをノアに相談している。


 その一方でテーブルの下、ギルベルトの大きな左手はアリシアを気遣うように優しく重ねられた後、指と指との間を名残惜しむように撫でながらゆっくりと離れていった。



(なっ!? なん!? ん~~~~~~~?!?!)



 アリシアは言葉を失った。

 嫌なわけではない。ただただ、恥ずかしかったのだ。


 ノアから見えているかわからないが、対面のヨルンとユリウスはそんなアリシアを見て何事かに気付いたらしく、ギルベルトに抗議するような眼を向けている。

 

 アリシアは自分の顔が赤くなっていることを自覚していた。

 だから落ち着くまで、うつむいていることしかできなかった。

 


 

 食事が終わり、ティールーム自慢のデザートがテーブルに並べられた頃、アリシアもようやく人心地がついていた。

 

 そしてそんな時だった。


「三人とも熱心だよねー、休日まで転校生の案内だなんて」


 ニヤリと嫌な笑い方をしたノアが、ここへ来て初めてアリシアに視線を向けたのだ。

 そうして立ち上がると、少し大仰な態度でなにやら始めてしまった。



「軽そうな言動とは裏腹に、誠実さに定評のあるユリウスくーん」


 ノアは歩きながらユリウスの肩をポンとたたき、ねぎらうように続けた。


「ずっと彼女のこと気に掛けてたけど、僕のせいで行動には移せなかったんだよね☆」



 急にノアが始めた何かについていけず、ポカンと口を開けるユリウス。



「不動の学年首位、麗しのヨルンくーん」

 

 ユリウスから手を放したノアは、ふざけた口調で続けると、今度はヨルンの肩をポンとたたく。


「気遣いのできる男と評判の君だもの。やっぱり彼女のことが気になって、途中から会話どころじゃなかったよね☆」


 ヨルンもまた、ノアの目的を図りかねて固まっている。


(一体、何のつもりなの?)


 てくてくとアリシアの後ろを通り過ぎ、今度はギルベルトの傍に立つノア。


「無愛想なこと、この上なし! 婚活から最も遠い男、ギルベルトくーん」


 ギルベルトの紹介だけひどい気がするが、ノアは急に真顔になると、感心した様子でこう続けた。


「僕は今日、君の行動に驚かされてばかりだよ。

 僕が伝授したとは言え、まさかシアで実践されるとはね……」


 なんて言いながら、ノアが自分の左手をひらひらしてみせた。

 ギルベルトは驚いて目を見張った後、気まずさをごまかすかのようにンンっとひとつ咳払いをした。



 そして最後に、ノアはアリシアの傍に来る。


「シア、意地悪してごめんね」


 なんて、聞いたこともない優しい声で言うと、ノアはアリシアの頭を撫でた。


「みんなも困らせてごめんね。紹介するよ、僕の愛しい……」


 アリシアの長い髪をひと房すくい上げ、口づけようとするノア。

 ちなみにそんなこと、今まで一度だってされたことはない。


(ひぃっ!! さすがにもう限界だわ!!)



 アリシアが、ノアを止めようと立ち上がったときだった。



「ノア様!! その女とは一体、どういう関係ですのっっ!?」



 階段の下からアリシアをにらみつけてそう叫んだのは、大きな胸をバイーンと突き出したあのロスヴィータだった。

 




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