3.紳士教育の一環だそうです
「あなた、あのリヒター辺境伯の御子息に好意を寄せられたからと言って、いい気にならないでくださる?」
リヒター辺境伯の子息とは、もちろんギルベルトのことである。
ランチルームでの一件があってからというもの、学院は転校生アリシアとギルベルトの話でもちきりだった。
アリシアの転入から三日経った。
例の三人は初日だけに止まらず、ずっと付きっきりでサポートしてくれている。
正直なところ、アリシアはかなり困惑していた。
(あの三人は、一体どういう理由で私に良くしてくださるのかしら……)
「ちょっとあなた、聞いていますの?!」
「聞いていますわ。でも私、別にいい気になってなどいませんし......」
(だって、彼らのあの親切すぎる行動には何か理由があるばずだもの)
実は昨日、アリシアは気になってユリウスに尋ねてみたのだけれど、「さて、どうしてだろうね」とはぐらかされてしまったのだ。
「まあ、あの言い方!! なんて恥知らずなのかしら!」
「ロスヴィータ様、早く本当のことを言って差し上げて下さい!」
ここは女子寮の三年生専用サロンだ。
寝る前に、どんなところか覗きにきたところで、運悪く彼女たちに捕まってしまった。
ロスヴィータは、その迫力ある大きな胸をバイーンと前に突き出しながら言った。
「アリシアさん、よくお聞きなさい。
ユリウス様、ヨルン様、そしてリヒター様は単に、当学院の方針であなたのサポートをしているに過ぎないのですわ」
「え?」
(学院の方針、とは?)
「お可哀想に、あの方達がご自分に好意があると勘違いしていたのでしょう?」
「単なる義務と知ってしまっては、立ち直れないのではなくて?」
ロスヴィータの両隣から、煽り担当の二人が順にセリフを吐く。
セリフのない外側の二人は、今夜はクスクス笑いを担当している。
(すごいわ! 毎回、趣向を凝らしているのね……)
ほくそ笑む彼女達の狙いには、どこまで行ってもかすりもしないアリシアであった。
「つまり、好意ではなく義務なのですね。良かったですわ!」
「「「は?」」」
「「へ?」」
アリシアの答えに、三人と二人が変な声を返した。
(まあまあ!
両サイドの二人は「へ?」を担当されたのね。
皆様のシンクロ率が素晴らしいわ。きっと日々、研鑽なさっているのね)
アリシアはもう、ロスヴィータとその仲間たちを劇団か何かだと思い始めている。
「私、正直なところ、彼らが何故こんなにも良くしてくださるのか分からなくて困っておりました」
「困ってた?」
「はい」
ロスヴィータはポカンと口を開けた。
「要するに、学院の方針で義務として転校生である私のサポートを担当しているだけなのですね?」
アリシアが確認すると、正気を取り戻したロスヴィータが「ンンッ」と咳払いをしてから言った。
「ええ、そうですの。
女子生徒が助けを必要とする時、前後左右に座る男子生徒は彼女をサポートする。つまり紳士教育の一環なのですわ」
(まあ、なんて素晴らしいシステムなのでしょう!)
「さすがはクライドル高等学院ですね! 紳士教育ですか......それで。なるほど」
アリシアは一人で感激して、一人で納得していた。
「親しみを込めて私の名前を呼んでくださること。
三人が、つきっきりで遅くまで私の自習に付き合ってくださること。
週末には王都を案内してくださるという計画も……
全てが転校生の私をサポートするため……紳士教育の一環なのですね!」
ロスヴィータ達は完全に置いてけぼりである。
「ロスヴィータ様、皆さま、本当のことを教えて下さってありがとうございました!!」
モヤモヤが解消されたアリシアは、スキップするほどの軽い足取りで自分の部屋へと戻って行った。
サロンに残されたロスヴィータ達五人は、アリシアの後ろ姿を呆然と見送った。
「ねえ、あのサポートシステムってそんなに手厚かったかしら?」
「いえ、普通は授業に関するフォローだけですわ」
「それに放課後はまだしも、休日まで一緒だなんて聞いたことございませんわ!」
ロスヴィータの両隣に立つ二人が声を荒げ、興奮のあまりその場で足を踏み鳴らしている。
「私のユリウス様を独り占めするなんて!」
「麗しいヨルン様に構って頂けるなんて!」
そんな二人の肩にそれぞれポンと手を置いて、まあまあ、となだめるロスヴィータ。
そして不敵な笑みを浮かべながらこう言った。
「王都を案内……気になりますわね」




