続編 3話
数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。
拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。
星の裏側のフロンティア
「定時退社」を宣言したクレア・フォン・アルトシュタットの隠居生活は、わずか三日で終わりを告げた。
彼女が作り上げた「完璧なシステム」は、大陸を平和にした。しかし、平穏は新たな需要を生む。膨れ上がった資本と知的好奇心が行き場を失い、人々は海の向こう、あるいは空の果てにある「未知」へと目を向け始めたのだ。
未知への先行投資
クレアの元に届けられたのは、帝国の旧魔導士たちが極秘に進めていた「高高度浮遊魔導船」の設計図だった。
「クレア様、これは道楽ではありません。新たな資源、新たな市場の開拓です」
かつての敵、今や彼女の信奉者となった元帝国官僚が熱っぽく語る。クレアは眼鏡を指先で上げ、膨大な数式の羅列を「スキャン」するように読み取った。
「揚力と魔力の変換効率が20%も低いわね。これではペイするまでに100年かかるわ。……設計を書き直すから、一晩時間をちょうだい」
翌朝、提出されたのは、物理学と魔導工学を融合させた「大陸横断型・高速輸送船」のマスタープランだった。
「世界が狭すぎるなら、広げるまでよ」
新大陸の「発見」と「契約」
数ヶ月後。クレアは自ら開発に携わった魔導船『アセッサ・プライム号』の甲板にいた。
雲海を突き抜け、たどり着いたのは、地図にない巨大な浮遊大陸——。
そこには、既存の魔法体系とは異なる「精霊力」を操る未知の部族が暮らしていた。
同行した騎士たちは剣を抜こうとしたが、クレアはそれを片手で制した。
「暴力は最もコストパフォーマンスの悪い交渉手段よ」
彼女は単身、部族の長のもとへ歩み寄る。差し出したのは、宝石でも金貨でもなく、一箱の「高度に精製された塩」と、「一冊の帳簿」だった。
「私たちは奪いに来たのではありません。あなたたちの持つ『精霊石』と、私たちの『保存技術』を交換しに来ました。——さて、この交換レートを最適化するための会議を始めましょうか」
多星系経済圏の夜明け
さらに数年。
「星の裏側」との交易路が確立され、大陸の富は数倍に膨れ上がった。
クレアは今や、王国の重鎮でも帝国の影の支配者でもない。
世界そのものを駆動させる、「絶対的な価値基準」そのものとなっていた。
ある晩、彼女は王城のバルコニーで、王となったエドワードと酒杯を交わしていた。
「クレア、君がいなければこの星はまだ泥沼の中で争っていただろう。君は、神にでもなるつもりか?」
「まさか。神様は残業代も出ないのに世界を管理し続けている。私には耐えられないわ」
クレアは夜空に浮かぶ二つの月を見上げた。
「私の目標は一つだけ。この星のすべての子供が、前世の私のように『使い潰される』ことなく、自分の価値を自分で決められる世界を作ること。……それが終わったら、今度こそ本当に退職しますわ」
永遠のトップ・コンサルタント
数十年後。
歴史教科書には、クレア・フォン・アルトシュタットの名が「聖女」としてではなく、「至高の会計士」として刻まれることになった。
彼女が隠居した場所は誰も知らない。
ただ、世界のどこかで経済が歪み、誰かが理不尽な労働を強いられたとき、どこからともなく一人の女性が現れるという都市伝説がある。
彼女は手に持ったペンを回し、こう告げるのだ。
「その案件、私なら30分で解決できますけれど。——契約、なさいますか?」
彼女の冒険に終わりはない。
なぜなら、世界が回り続ける限り、そこには常に「最適化」すべき未来が転がっているのだから。
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