続編 2話
数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。
拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。
世界の再定義
クレア・フォン・アルトシュタットが隣帝国の「バブル崩壊」を予言してから一年。
その言葉は、残酷なまでの正確さで現実となった。
帝国通貨は紙屑となり、飢えた民衆と没落した貴族が溢れ、大陸全土に混乱の火種が飛び火しようとしていた。
救済という名の買収
王国に押し寄せる帝国の亡命貴族たち。彼らはかつてのプライドを捨て、生き残るために王国の有力者に縋り付いた。
しかし、王宮の門を叩く彼らの前に立ちはだかったのは、兵士ではなく、『アセッサ』代表としてのクレアだった。
「帝国の公爵家ですね。お持ちの鉱山開発権、および領地の永久使用権を、こちらの小麦10万トンと交換しましょう」
「……な、なんだと!? この紙切れ一枚で、我が家の宝を奪うつもりか!」
クレアは無表情に、手元の懐中時計を見た。
「あと10分で、この契約条件は『小麦8万トン』に下がります。帝国全土でパン一塊が金貨一枚になっている現状、どちらが賢明な判断か、戦略コンサルタントとして助言は不要ですよね?」
彼女はもはや、一貴族の令嬢ではない。
崩壊する旧世界の資産を、冷徹な計算のもとに再編していく「世界の会計士」へと変貌を遂げていた。
真の「黒幕」の正体
混乱を極める中、ついに帝国の皇帝が動いた。
彼は王国のエドワード王子を通じ、クレアに直接の会談を申し入れる。
「我が国を、救ってほしい。君の望む地位も名誉も与えよう」
豪華な円卓。
頭を下げる皇帝に対し、クレアは前世の「鈴木明子」が愛用していたような、シンプルで機能的な仕立てのドレスで応じた。
「陛下。私が欲しいのは、地位でも名誉でもありません。『共通言語』です」
「……何?」
「この大陸の通貨、度量衡、そして労働基準の統一。これを私が管理する『大陸中央銀行』の傘下に置くこと。それが私の提示するコンサルティングの報酬です」
それは、武力による征服よりも強固な、「経済による大陸統一」の宣言だった。
終わりの始まり
一年後。
大陸は劇的な変貌を遂げた。
無意味な重労働は廃され、クレアが導入した「複式簿記」と「効率的な物流網」により、人々の生活水準は飛躍的に向上した。かつてのベルクシュタット領は、今や大陸最大の流通拠点として栄華を極めている。
そんな中、クレアは一人の男の噂を聞く。
レオンハルト。
彼は今、クレアが設立した慈善施設の清掃員として働いていた。
かつて彼女を使い潰した男は、今や彼女が作った「システム」の一部として、適正な賃金と適正な労働時間を与えられ、平穏に、しかし徹底的に無名な存在として生きていた。
「助けてくれ」と叫ぶことさえ許されない、「完璧に管理された平和」という名の、彼にとっては残酷な刑務所である。
窓辺の休息
王都を一望するオフィスの最上階。
クレアは一人、書類のない机でコーヒーを飲んでいた。
「……終わったわね」
前世で追い求めた、誰にも邪魔されない、誰にも搾取されない、自分のための時間。
彼女は今、世界を最適化し、自分という「最高のリソース」を、ついに自分のためだけに使う権利を手に入れたのだ。
コンコン、とドアがノックされる。
入ってきたのは、今や王太子となったエドワードだった。
「クレア、次の国家予算案だが……」
「殿下、今日はもう17時を過ぎています」
クレアは優雅に立ち上がり、鞄を手にする。
「定時ですので、失礼します。これ以上の相談は、明日の朝、契約書を更新してから伺いますわ」
驚くエドワードを背に、彼女は軽やかな足取りでオフィスを出た。
夕日に染まる街並みを見下ろしながら、彼女は小さく微笑む。
「次は——星の裏側でも、調査しに行きましょうか」
クレア・フォン・アルトシュタット。
彼女の物語は、過酷な「労働」の記録から、自由な「人生」の謳歌へと、その姿を変えていった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
感想もいつも励みになっております。
少しでも楽しんでいただけたなら、
評価やブックマークで応援していただけると励みになります。




