続編 1話
数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。
拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。
帝国の黒幕、あるいは救世主
クレア・フォン・アルトシュタットがベルクシュタット家を去ってから半年。
かつての「働きすぎる婚約者」は、王都の片隅で小さな投資コンサルティング会社を設立していた。
社名は アセッサ
前世、鈴木明子がいた業界では馴染みのある「評価者」を意味する名だ。
静かなる侵食
王都の貴族街では、奇妙な噂が流れていた。
「どんなに傾いた商会でも、ある『女主人』に帳簿を見せれば、三ヶ月で黒字に転換する」というものだ。
クレアのもとには、今や国中の商人や下位貴族が列をなしていた。
彼女が提示するのは、かつての無償奉仕とは正反対の**「冷酷なまでの成果報酬型契約」である。
「クレア様、今月の利益報告です。おかげさまで先月の三倍に……」
「報告書が三枚も多いわ。結論は一ページにまとめて。時間は資産よ」
クレアは、前世で培った「戦略コンサル」のスキルと、今世の「貴族としてのコネクション」を完全に融合させていた。
そんな彼女のもとに、一人の男が訪れる。
王国の第二王子、エドワード・フォン・リトグラフ。
彼は、腐敗しきった王国の財政を立て直すべく、影で動く「本物の実力者」を探していた。
「君がベルクシュタット領を三ヶ月で再起不能に追い込んだ、伝説の次女か」
「人聞きが悪いですね。私はただ、契約を終了させ、正常な市場原理に任せただけですわ」
クレアは優雅に茶を啜り、王子を見据えた。
「で、殿下。私に何を『発注』なさるおつもりで?」
国家レベルの「ざまぁ」
エドワード王子の依頼は、王国の軍需物資を独占し、私腹を肥やす「利権貴族連合」の解体だった。
クレアは微笑んだ。
それは、彼女が最も得意とする「構造的破壊」の案件だったからだ。
「よろしいでしょう。ただし、報酬は金貨ではなく、王国の『徴税権の一部』と『独立した監査権限』をいただきます」
契約は成立した。
そこからのクレアの動きは、まさに「戦略の魔女」だった。
物流の遮断
利権貴族が利用する街道の整備計画を、別の貴族に「より効率的なルート」として提案し、旧ルートを廃れさせる。
情報の操作
帳簿の改ざんを逆手に取り、架空の負債を膨らませて銀行から融資を引き剥がす。
人材の引き抜き
搾取されていた優秀な会計士たちに「正当な報酬と労働時間」を提示し、一斉に退職させる。
数ヶ月後。
王国の重鎮であったはずの伯爵家や侯爵家が、次々と自己破産に追い込まれた。
彼らは何が起きたのかさえ理解できず、ただ「数字という名の暴力」に押しつぶされていったのである。
どん底の再会、二度目
そんな混乱の最中、クレアは王都の裏路地で、ボロを纏った男とすれ違う。
かつての婚約者、レオンハルトだった。
彼は今、日雇いの港湾労働で食い繋いでいた。かつての傲慢な面影はなく、ただ怯えた目で世界を見ている。
「ク、クレア……! 助けてくれ、頼む! 君の力があれば、僕はまた這い上がれるんだ!」
彼はクレアの靴に縋り付こうとした。
だが、その手はクレアの護衛によって冷徹に払いのけられる。
クレアは足を止め、氷のような瞳で彼を見下ろした。
「レオンハルト様。以前も申し上げましたが、私は『契約』で動く人間です。今のあなたに、私を買えるだけの対価がありますか?」
「そ、それは……これから稼いで……」
「不合格です。投資価値がゼロ、いえ、負債でしかありません」
クレアは無造作に、手に持っていた「ベルクシュタット領の再建計画書」を地面に落とした。
そこには、新しい領主(エドワード王子の息がかかった有能な文官)による、徹底的な効率化と近代化の文字が躍っている。
「あなたが捨てた領地は、今、私のもとで息を吹き返しています。そこに、あなたの居場所はありません」
次なるステージへ
王宮のバルコニー。
クレアは隣に立つエドワード王子に、一通の封筒を渡した。
「これは?」
「隣帝国の財務諸表を分析した結果です。……三年前から、数字が不自然に膨らんでいます。おそらく、近いうちにバブルが弾けますわ」
王子は戦慄した。彼女の見ている先は、もはや一国に留まっていなかった。
「クレア、君は一体どこまで行くつもりだ?」
クレアは夜風に髪をなびかせ、前世の自分——鈴木明子が、死の間際まで求めていた「完璧な達成感」を噛み締める。
「どこまでも。……今度は過労死するつもりはありませんけれど」
彼女の指先には、ペンではなく、世界を動かす指揮棒が握られていた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
感想もいつも励みになっております。
少しでも楽しんでいただけたなら、
評価やブックマークで応援していただけると励みになります。




