第36話 決着
静かな部屋だった。
装飾は最小限。
椅子が二つ。
机が一つ。
それだけ。
だが。
そこにある空気は、これまでで最も重かった。
「……久しぶりね」
カティアが言った。
いつも通りの笑み。
だが。
その奥には、明確な緊張があった。
「ええ」
エレノアは答える。
短く。
無駄なく。
「終わりましたね」
一歩、進む。
「……そうね」
カティアは頷いた。
椅子に腰掛ける。
「一応は」
その言葉に、含みがある。
「完全ではありません」
エレノアが言う。
「ええ」
カティアも頷く。
「でも」
一拍。
「流れは、あなたのもの」
それは。
敗北宣言ではなかった。
だが。
認めている。
「……」
エレノアは、何も言わない。
ただ、見ている。
目の前の女を。
「……やられたわ」
カティアが、軽く笑う。
「まさか、壊してくるとは思わなかった」
「構造を利用されていたので」
エレノアが答える。
「なら」
一拍。
「構造ごと消すしかありませんでした」
「……ええ」
カティアは頷く。
納得している。
「正しいわ」
その評価は、本物だった。
「……」
沈黙。
数秒。
だが。
そこには、すべてが詰まっていた。
「……ねえ」
カティアが言う。
「一つ、聞いていい?」
「どうぞ」
「どうして」
少しだけ、顔を傾ける。
「そこまでやるの?」
その問いは。
純粋だった。
そして――
本質だった。
「利益だけなら」
続ける。
「もっと楽な方法もあったでしょう?」
沈黙。
エレノアは、少しだけ考えた。
そして。
「……成立させるためです」
と、言った。
静かに。
だが。
はっきりと。
「……成立?」
「はい」
一歩、前に出る。
「この領地を」
視線を外さない。
「壊れない形に」
その言葉に。
重みが乗る。
「……」
カティアは、しばらく何も言わなかった。
そして。
小さく、笑う。
「……やっぱり違うわね」
呟く。
「あなたと私は」
その声には。
わずかな楽しさと。
少しの悔しさが混じっていた。
「私は」
続ける。
「利益が出るなら、壊れてもいいと思ってる」
一拍。
「でもあなたは」
視線を上げる。
「壊れないことを優先する」
沈黙。
それは。
決定的な違いだった。
「……」
エレノアは、何も言わない。
否定も、肯定も。
ただ。
受け入れている。
「……いいわ」
カティアが言う。
立ち上がる。
「今回は、引く」
その一言で。
決着は、ついた。
完全な勝利ではない。
だが。
明確な終わり。
「……また来ますか」
エレノアが問う。
カティアは、笑った。
楽しそうに。
「もちろん」
即答。
「こんな面白い相手、逃がさないわ」
その言葉は。
宣戦布告ではない。
約束だった。
「……そうですか」
エレノアは、静かに頷く。
それでいい。
それで構わない。
この女は。
消える存在ではない。
「じゃあ」
カティアが言う。
「今回は、あなたの勝ち」
軽く手を振る。
「でも」
扉に向かいながら。
「次は分からないわよ?」
振り返らない。
そのまま、出ていく。
扉が閉まる。
静寂。
「……」
エレノアは、一人残された。
何も言わない。
ただ。
立っている。
そして。
理解する。
終わった。
だが。
終わっていない。
この戦いは。
まだ、続く。
だが――
今は。
「……」
小さく、息を吐く。
それだけだった。
――決着。
それは。
完全ではない。
だが。
確かな終わりだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ついにエレノアとカティアの決着です。
完全勝利ではなく、
「認め合う決着」にしています。
これにより、
物語の格を落とさずに終盤へ繋げています。
次話はいよいよ終盤――
「選ばれる側」の物語です。
ラストに向けて一気に進むので、
ぜひブックマークしてお待ちください。




