第35話 逆転
変化は、すぐには現れなかった。
だが。
確実に、現れていた。
「……報告です」
文官の声は、どこか戸惑っていた。
「西側、取引再開の動きが見られます」
「理由は」
エレノアが問う。
「……不明です」
短い答え。
だが、それで十分だった。
「……」
エレノアは、何も言わない。
ただ、書類を見つめる。
数字は、まだ小さい。
だが。
“動き”がある。
「南側も」
文官が続ける。
「様子見から、参加に切り替える商会が」
「……」
「抽選制度の影響かと」
沈黙。
それは、予想通りだった。
「……公平だから、か」
サラが、横で呟く。
「ええ」
エレノアは頷く。
「有利も、不利もない」
一歩、前に出る。
「なら」
視線を上げる。
「参加しない理由がない」
その一言で。
構造が、はっきりする。
「……」
文官が、ゆっくりと息を吐く。
「……戻ってきている」
小さく呟く。
それは。
実感だった。
「……完全ではありません」
エレノアが言う。
「ですが」
一拍。
「流れは、こちらに戻っています」
その言葉に。
確信があった。
「……」
サラが、笑う。
「やっぱりね」
軽く肩をすくめる。
「崩さないと、勝てない」
「ええ」
エレノアは頷く。
「相手の土俵では、勝てません」
だから。
壊した。
「……」
そのとき。
「報告!」
役人が駆け込んでくる。
「北側、大口商会が参加表明!」
空気が、一気に変わる。
「……どこ」
「ラザールです!」
沈黙。
そして。
サラが、吹き出した。
「……あの人、早いわね」
「合理的ですから」
エレノアが答える。
「利益が均等なら、安定を取る」
それが、商人。
「……」
文官が、言葉を失う。
これは。
ただの回復ではない。
「……支配が、戻ってきている」
小さく言う。
「ええ」
エレノアは頷く。
「ただし」
一拍。
「形が変わりました」
以前の支配ではない。
優先でもない。
選別でもない。
「全体を縛る構造」
その言葉は。
重かった。
その頃。
高台の屋敷。
「……」
カティアは、無言で書類を見ていた。
そして。
ゆっくりと、置く。
「……戻してきた」
小さく言う。
その声には。
わずかな驚きがある。
「……ロイド」
「はい」
「どう思う?」
ロイドは、短く答えた。
「……失敗です」
沈黙。
その言葉は。
重かった。
「こちらの優位性が、消えました」
「……ええ」
カティアは頷く。
認める。
それが、この女の強さ。
「流れを操作しても、意味がない」
一歩、歩く。
「すべて均等になるなら」
視線を上げる。
「操作する意味がない」
その通りだった。
「……」
ロイドは、何も言わない。
だが。
理解している。
これは。
敗北ではない。
だが――
“負けに近い状態”。
「……面白い」
カティアが、笑う。
静かに。
だが。
確実に。
「本当に、面白い」
その目は、輝いていた。
負けているのに。
楽しんでいる。
「……ここまでやるのね」
小さく呟く。
「なら」
一歩、前に出る。
「次は、こっちの番」
その言葉に。
ロイドの視線が、わずかに動く。
「……何を」
「簡単よ」
カティアは言った。
笑いながら。
「“公平”を壊す」
その一言で。
空気が、変わる。
だが。
その前に。
すでに。
流れは。
変わっていた。
完全に。
エレノア側へと。
――逆転は、完了した。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ついに“逆転”しました。
この一連の流れは、
この作品の一番のカタルシスです。
ですが、まだ終わりではありません。
次話では、
エレノアとカティアの“決着”が描かれます。
物語の核心に入るので、
ぜひブックマークしてお待ちください。




