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第20話 同類

 応接室は、静まり返っていた。


 用意された茶器。


 整えられた椅子。


 だが、その空間には、安らぎはない。


 向かい合う二人の存在が、それを許さなかった。


「良い部屋ですね」


 カティアが言った。


 窓の外に目を向けながら。


「整えられている。無駄がない」


 一見、称賛。


 だが、その声には、わずかな含みがある。


「最低限です」


 エレノアは答えた。


「今は、それ以上を用意する余裕がありません」


「正直ですね」


 カティアが微笑む。


「嫌いじゃない」


 カップを手に取る。


 香りを確かめるように、少しだけ傾ける。


「……でも」


 一口飲む。


 そして。


「“足りていない”」


 静かに言った。


 その言葉に、空気がわずかに揺れる。


 エレノアは何も言わない。


 否定しない。


 できないからだ。


「領地の流通、半分しか回っていない」


 カティアは続ける。


「北側はまだ不安定。南は持ち直しつつあるけど、依存が強すぎる」


 視線を戻す。


「そして――」


 一瞬だけ、間を置く。


「あなたが、疲れている」


 沈黙。


 その指摘は、正確だった。


 あまりにも。


「……観察が鋭いですね」


 エレノアは言った。


「仕事ですから」


 軽く返す。


「あなたも、同じでしょう?」


 その言葉に、わずかな重みが乗る。


 同類。


 それを、暗に示している。


「……否定はしません」


 エレノアは答えた。


 短く。


 だが、明確に。


 カティアは、楽しそうに目を細めた。


「やはり」


 小さく呟く。


「話が早い」


 カップを置く。


 音は静かだが、空気は張り詰める。


「では、単刀直入に」


 一歩、踏み込む。


「この領地、どうします?」


 問い。


 だが、その意味は。


 単なる質問ではない。


 試し。


 そして――


 探り。


「回します」


 エレノアは答えた。


 迷いなく。


「どのように?」


「必要な部分を残し、不要な部分を切る」


 簡潔な答え。


 だが、それで十分。


「つまり」


 カティアが言う。


「選ぶ、ということですね」


「はい」


「誰を救い、誰を捨てるか」


「そうなります」


 沈黙。


 数秒。


 だが、その中で。


 二人の思考は、同じ場所を通過していた。


「……嫌われますよ」


 カティアが言う。


 それは確認だった。


「ええ」


 エレノアは頷く。


「既に」


 その答えに、カティアは少しだけ笑った。


「でしょうね」


 一拍。


「でも、それでいい」


 静かな声。


「嫌われることと、間違っていることは違う」


 その言葉は、どこかで聞いたものと同じだった。


 だが、意味は違う。


 これは、肯定ではない。


 ただの事実だ。


「……」


 エレノアは、わずかに目を細めた。


「あなたも、同じですか」


 問う。


 カティアは、首を傾けた。


「同じ?」


「選ぶ側、という意味で」


 沈黙。


 そして。


「いいえ」


 カティアは言った。


 はっきりと。


「私は、もっと単純です」


 その目が、わずかに冷たくなる。


「利益があるか、ないか」


 一拍。


「それだけです」


 空気が、変わる。


 エレノアの視線が、わずかに鋭くなる。


「では」


 問う。


「この領地に、利益はありますか」


 カティアは、笑った。


 楽しそうに。


 そして。


「ありますよ」


 即答。


「崩れかけているからこそ」


 その言葉に、重みが乗る。


「安く買える」


 静かな結論。


 それは――


 侵食だった。


「……なるほど」


 エレノアは言った。


 その意味を、理解している。


 この女は。


 助けに来たのではない。


 奪いに来た。


「で?」


 カティアが言う。


「あなたは、どうするの?」


 問い。


 真っ直ぐに。


 逃げ場はない。


 エレノアは、少しだけ考えた。


 そして。


「守ります」


 静かに言った。


 その一言は、短い。


 だが。


 明確だった。


 カティアは、目を細めた。


「……面倒ですね」


 小さく呟く。


 だがその声には。


 わずかな愉悦が混じっていた。


「だから、面白い」


 そう続ける。


 立ち上がる。


「交渉は?」


 エレノアが問う。


 カティアは、振り返らずに答えた。


「しません」


 即答。


「今は、まだ」


 その言葉に、含みがある。


「崩れきっていないので」


 それだけ言って、歩き出す。


 止めない。


 止められない。


 扉が閉まる。


 静寂。


 エレノアは、一人残された。


「……」


 小さく息を吐く。


 理解している。


 この戦いは。


 まだ始まったばかりだと。


 そして――


 相手は、自分と同じ場所に立つ存在だと。


 だから。


 間違えれば。


 負ける。


 その現実を。


 はっきりと、突きつけられた。

 ここまで読んでいただきありがとうございます。


 ついにエレノアと“同格の存在”が対峙しました。


 善でも悪でもない、

 ただ合理だけで動く存在。


 ここからは、

 「どちらが正しいか」ではなく

 「どちらが勝つか」の戦いになります。


 次話では、

 エレノアが“切る決断”を下します。


 物語の大きな分岐点ですので、

 ぜひブックマークしてお待ちください。

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