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第18話 初めての誤算

 翌日。


 流れは、確かに変わっていた。


「南側、再開しました」


「北区、部分的に回復」


「在庫、再配置完了」


 報告が、次々と入る。


 昨日までの停滞が嘘のように、動き始めている。


 速い。


 明らかに速い。


 エレノア一人では、ここまでの速度は出なかった。


「……」


 エレノアは黙って、それを聞いていた。


 想定以上の進み。


 だが。


 それが、引っかかる。


「順調ですね」


 横から、サラが言った。


 いつの間にか、壁際に立っている。


「ええ」


 短く答える。


「問題は?」


「現時点では」


 そう言いながらも、エレノアの視線は書類から離れない。


 数字を追う。


 流れを確認する。


 そして――


「……おかしい」


 小さく呟く。


 サラの目が細くなる。


「どこが?」


「北側の在庫」


 紙を指で叩く。


「減りすぎています」


「……当然では?」


 サラは肩をすくめる。


「優先的に回したんですから」


「違う」


 即答。


「この減り方は、消費ではない」


 沈黙。


 サラの表情が、わずかに変わる。


「……つまり?」


「抜かれています」


 静かな断定。


 空気が、一瞬で変わる。


「誰が」


「分かりません」


 だが。


「内部です」


 迷いなく言う。


 外部ではない。


 この流れは、内部を通っている。


 つまり。


「……なるほど」


 サラが小さく笑う。


「早いですね、気づくの」


「遅いくらいです」


 エレノアは答える。


 その声は、低い。


 そして。


 冷たい。


「で?」


 サラが言う。


「どうします?」


 問い。


 試すような声。


「止めます」


 即答。


「どうやって?」


「切ります」


 短い言葉。


 だが、その意味は明確。


「……誰を?」


 サラが問う。


 その目は、楽しんでいる。


 エレノアは、書類を一枚取り出した。


 そして。


 指で、示す。


「ここです」


 サラが覗き込む。


「……へえ」


 小さく笑う。


「そこ、ですか」


 それは、代官の管轄だった。


 つまり。


 この領地の中枢。


「大胆ですね」


「当然です」


 エレノアは言う。


「ここを切らなければ、全体が崩れます」


 合理的な判断。


 だが――


 それは同時に。


 “自分の足場”を削ることでもある。


「……いいですね」


 サラが言う。


「やっぱり、そういう人です」


 その声には、わずかな愉悦があった。


 エレノアは、立ち上がった。


「代官を呼びます」


 短く言う。


 数刻後。


「お呼びでしょうか」


 代官が入ってくる。


 いつも通りの顔。


 だが、その奥にわずかな緊張がある。


 それを、エレノアは見逃さない。


「北側の在庫について」


 単刀直入に言う。


「説明を」


 代官の表情が、固まる。


「……在庫、ですか」


「はい」


 視線を外さない。


「不自然な減少が確認されています」


 沈黙。


 ほんの数秒。


 だが、それで十分だった。


「……把握しておりません」


 代官が言う。


 その声は、わずかに硬い。


「では」


 エレノアは続ける。


「誰が把握しているのですか」


 答えはない。


 沈黙。


 長い沈黙。


「……」


 エレノアは、ゆっくりと息を吐いた。


 そして。


「あなたです」


 静かに言った。


 その一言で、空気が凍る。


「な――」


 代官が声を上げる。


「証拠は――」


「ありません」


 即答だった。


 その言葉に、全員が一瞬固まる。


 だが。


「必要ありません」


 続ける。


「この構造で、この規模の抜きができるのは、あなただけです」


 論理。


 証拠ではない。


 だが、否定できない。


「……」


 代官の顔から、血の気が引く。


「……解任します」


 エレノアは言った。


 静かに。


 だが、決定として。


「本日付で」


 沈黙。


 誰も、何も言えない。


 それはあまりにも速く。


 あまりにも重い判断だった。


「……お嬢様」


 代官が、かすれた声で言う。


「それでは……」


「遅いのです」


 遮る。


「すべてが」


 その言葉は、自分にも向けられていた。


 ほんの一瞬。


 判断が遅れた。


 その結果が、これだ。


 被害は小さい。


 だが。


 ゼロではない。


 それが――


 初めての誤算。


「……」


 エレノアは、何も言わなかった。


 ただ。


 前を見る。


 そして、理解する。


 これは。


 王都とは違う。


 同じやり方では、通用しない。


 そして――


 自分は、まだ。


 完全ではない。


 その事実を。


 初めて、受け入れた。

 ここまで読んでいただきありがとうございます。


 ついにエレノアが“誤算”を経験しました。


 小さなほころびですが、

 これが今後大きな意味を持っていきます。


 そして次話では――

 ついに「本当の敵」が登場します。


 ここから物語は一段階上に進みますので、

 ぜひブックマークしてお待ちください。


 明日からは1日1話の投稿予定です。お楽しみに。

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