平穏な日常
例の嫁は飛竜に乗ってやってきたとボルケノから語られた時は何言ってんだコイツと思ってたんだ。だが後日とある筋からその報告が嘘偽りない事実と知って白目を剥く羽目になった。
手紙からしてヤベエ女だと思ってたけど本物は違うな。想像を軽々越えてきやがった。今後、ボルケノの奴は彼女に振り回されて尻に敷かれるんだろう。可哀想に。
なんて考えていたのだが、ボルケノが結婚して半年。オレの心配はよそに二人はうまくやっているらしい。
例の嫁ことセシェルイーズ……どうせ大抵の奴に聞こえてねえからセシリー様でいいか。
彼女はおしとやかで可愛らしい、いかにもお姫様~といった容貌とは裏腹にとんでもねえじゃじゃ馬だった。
討伐を手伝うのはもちろん。その合間に王妃としての執務を完璧にこなしていたかと思えば、来た当初はほぼ毎日のようにエリザベス嬢に乗ってはあちこちを飛び回ってた。
どうも今までおろそかになっていた魔族の集落をボルケノに代わって巡回しているとのことだった。討伐のせいで訪問できないと理解してくれていたが、やはり王に連なる者が訪ねてくれるのは嬉しいらしい。どの集落も彼女を歓迎しているそうだ。
彼女の存在を喜んでいるのは集落の者達だけでなく、砦の戦士達もすっかり彼女と親しんでいる。
まあ魔族って基本的に強い女好きだからな……。腕っ節でもそうだが精神面が逞しい奴は特に。ボルケノが長らく惚れてた初恋相手も子ができるまでは女戦士として活躍してたし。
ただこれまでの激烈アタックが嘘のように、嫁いでからのセシリー様は意外とボルケノに対しては控えめになっていた。
手作りの菓子をふるまったり、共に庭いじりをしたり、二人で砦内を散策したりと穏やかに仲を深めている姿をよく見る。万が一に備えて遠出はできないが、揃って近場の集落にも訪問しているとか。
そういえば最近はよく踊ってるみたいだ。あのダンス懐かしいな。オレもよくミネアと踊ったもんだ。
あとボルケノはセシリー様が来てからはよく眠れているらしい。さすがに夫婦の閨にお邪魔するのは気が引けるのでこの目で確認したわけじゃないが、明らかに顔色が改善しているからたぶんあってるだろう。今までのように魘されていないなら良かった。
『エリザベス嬢的にボルケノがセシリー様と結ばれるのはアリなの?』
彼女の住処である砦の庭にて、オレはセシリー様のペット?であるエリザベス嬢にいつも通り絡んでいた。
冒頭で話した、とある筋とはこのエリザベス嬢のことである。
どうしてか彼女にはオレが見えているし言葉も通じるのだ。エリザベス嬢が言うにはおそらくセシリー様も知覚してるんではないかとのことだった。
オレも最初はパッとこっちに目を向けてきたからそうかなと思ったけど、その割には最初の時以降はセシリー様オレのことガン無視してるからな。
あれでもし見えてますってことなら、これから何を信じればいいのかわからなくなる。幽霊のオレがいうのもなんだがあまりにも他者に無関心すぎるだろ。
『良いも悪いも主が決めたことだ。わらわの意思など関係ない、わらわは主に従うまでだ』
エリザベス嬢は飛竜の変異体だ。種としても個体としても己が圧倒的強者である自覚していた彼女だったが、調子乗ってたところ幼き日のセシリー様に秒で"わからされた"らしい。
もし時を遡れるなら馬鹿な真似はやめろと過去の自分に怒鳴りたいと言っていた。回想した際の怯えよう、今の従順っぷりといい、よっぽどの目にあったんだろうなあ……。
『ただ……わらわの希望が通るなら結ばれるに越したことはない』
『おっ、ご主人様の幸せなら自分も~ってやつ?』
『ラドゥガに戻るのだけは絶対に嫌だ!! 全盛期よりは減ったが、あっちはまだあやつの血統が三人もいるんだぞ!! 主は避けられんが、ここは青いのがいないだけ千倍マシ!!』
『私利私欲かよ』
『失礼な、生存本能だ!!』
青いのはたぶんラドゥガ現国王のことだろう。
初代王のハチャメチャ伝説を思い返す限り、現国王はかなり血濃く出てそうだもんな。まあセシリー様も大概だけど。
『貴様の方こそ、いつまでここにいるつもりだ』
平静を取り戻し、すまし顔になったエリザベス嬢の問いに今度はオレが動揺する番だった。
どうしてオレはここにいるのか、明確な理由はわかっていない。おそらくはボルケノが心配だったからなのだと思う。
ならばセシリー様によってボルケノが元気を取り戻しつつある以上、もうここにとどまる必要はないんじゃないか。
それにあの世で待ってくれているだろうミネアを思えば早く旅立つべきだ。そう、わかってる、わかってるしなんだったら望んでいるんだけども。
『行きたいのはやまやまなんだけど……なんか、まだ呼ばれてないっぽいんだよな』
『ほう』
『まっ、その時が来たら潔く旅立つさ』
真面目な話というか、特徴があるような内容はこれでおしまい。
あとは普段みたく彼女のセシリー様に振り回された件の愚痴を聞いたり、砦の住人に関する面白シーンを語ったり、そんな他愛も無い話で時間は過ぎていったのだった。




