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平安京エイリアンズ~彼女の独身垢によって裸にされた感情、さえも  作者: 岬口大鴉
【十日目】

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京崎ルリカの『平安京エイリアンズ』VRプレイバック

 ログアウトして、京崎ルリカはまずキッチンに立った。マグカップにコーヒーを注ぐ。砂糖は入れない。ミルクもなし。配信前に甘いものを入れると、言葉が緩む気がする。


 私は湯気を一度吸い込んでから、デスクへ戻る。椅子に腰を下ろし、今日の配信で使う動画をチェックする。


……問題なしね。


 素材データは準備完了。あとは、自分の準備だ。

 シャワーを浴び、メイクを直し、今日の配信で着る衣装を確認する。用意されていたのは、タイトなサマーセーターで、がっちりデコルテを強調するデザイン。少し短めで、少し動くとお腹が見えるタイプ。それに、レザーのショートパンツ。がっつり脚を見せるデザインだ。


……夏とはいえ、ちょっと、あざとすぎだな。


 配信で着る服は、コラボやタイアップが多い。配信日ごとに、パターンを変えたいので、基本はそれを考えてくれるスタッフの指定通りだ。ただ、私が「違う」と言えば、それが絶対。あくまで、スタッフは私のサポートにすぎない。だからといって、私もわがままを言うわけではない。しっかり意見を言い合えるチームであることが大事だ。

 ただ、配信の場には、スタッフは入れない。配信は、視聴者と私が向き合う場であり、そこにスタッフがいるのが見えると、空気が一気に冷める。だから、スタッフは別室で待機だ。


 VR配信はカメラがとにかく多い。視聴者が、いろんな角度から楽しめたり、私と一緒の場所にいるような感覚を味わえたりするのが、VR配信の醍醐味である。

 この部屋は、その配信のためのセッティングがすでに終わっている。カメラの角度を微調整し、別室のスタッフに通信で確認する。


「機材周り、準備オッケーです。配信開始まで、あと2分」


「了解、よろしくね。じゃあ、今日も、頑張ろう!」


 気合を入れると、スタッフから「おー」と、掛け声が返ってきて、通信が切れる。

 配信開始まで、あと少し。何度も配信をしているが、このときの緊張感はなくなることはない。

 リングライトを点ける。モニター右が配信画面、左がコメント欄。

 コーヒーを一口。よし。

 BGMが流れ出す。配信用、というか、この案件のために作った、新曲『狐火サンライズ』だ。

 配信してから間もないが、動きは過去イチで良い。私もかなり気に入ってる。

 ピアノとギターのリフが混じる、アップテンポなイントロが弾けた。


……狐火みたいに、揺れてる気持ち

「それが君」って、言われるたびに……


 画面には「コン!」というコメントが、滝のように流れ出す。

 サビの終わり、「触れたら消えて、嘘になる」というフレーズが、余韻を残して消えると同時に、カウントダウンがゼロになる。


「お待たせ!! 今夜も化かされに来た? ――こんばんは」


 切り替わる。現実の京崎ルリカから、配信者のルリカへと。


「京崎ルリカです。今日も来てくれてありがとう」


 コメントが一気に流れ始める。


 〈待ってた〉

 〈生きてた〉

 〈声きれい〉

 〈今日もかわいい〉


「はいはい、生存確認ありがとう」


 軽く笑う。


「まずは、昨日の奉納ライブ」


 少しだけ姿勢を正す。


「現地で見てくれた人も、アーカイブの人も、ほんとにありがとう」


 〈あれ最高〉

 〈舞よかった〉

 〈赤スパ!〉


「ありがとう、サントクさんナイスギフト。SUGARUさんもありがとう」


 いつもの調子でコメントを拾いながら、自然に本題へ持っていく。


「今日もどっぷり、平安の世界に浸ってきました」


 テロップが出る。


 ――『平安京エイリアンズ』――ルリカのVRプレイバック――


 〈いざ北へ〉

 〈888888888888888〉

 〈明日の奉納ライブ、チケットとったー〉

 〈裏山〉

 〈どんどん平安京から離れるルリカ〉


 チャットは止まらない。常連の視聴者は、私の予定をすでに把握している。


「今回さ、正直言っていい?」


 少し肩をすくめる。


「濃すぎた」


 〈まじか〉

 〈期待しかない〉

 〈ルリカの「くっころ」待機〉


「まずは、前回のおさらいね」


 そこで映像が切り替わる。彌彦神社での特別奉納のダイジェスト、そして、「これから、船に乗って日本海を北上します」と、気合いを入れる私のシーンへと続いていく。


 〈おさらいはじまた〉

 〈ルリカの巫女服かわいい〉

 〈安定の黒巫女〉


「で、今回は、なんと船で別のプレイヤーさんたちと一緒になりました」


 〈まじか〉

 〈一緒にプレイとかズルい〉

 〈そこ代われ〉


 そして、荒れた海。船の上。視界が揺れる。


 〈うわ〉

 〈酔う〉


「初日は穏やかだったんだけどね。この日はやばかった」


 画面が大きく傾く。


「で、……落ちました」


 〈落ちたw〉

 〈事故w〉

 〈落水はヤバイ〉


「ほんと焦った。これで終わったと思った」


 次の瞬間、光の膜。結界。


「でも、結界張ってたから船は無事。日頃の行いって大事よね」


 〈さすルリ〉

 〈結界職人〉


「でも、なんか生き残っちゃった。ということで、今回は洞窟サバイバル回です」


 〈ワクテカ〉

 〈ルリカのサバイバル生活、期待しかない〉


「で、ここからが大変だった」


 映像が暗転し、洞窟へ。

 水音。反響。視点が低く、前に進む。


 〈あれ?〉

 〈今日のカメラ、いつもと違う〉

 〈主観多め〉


 私は一瞬だけ間を置く。


「ここはね、私と一緒に遭難プレイした人がいたんだ」


 あえて、さらっと言う。


「だから視点が、いつもとちょっと違います」


 洞窟の中を進む映像。画面の端に、もう一人の影。

 顔は処理されている。声も別物。――だが、服。


 〈あ〉

 〈その服〉

 〈神社にいた嫌味な奴に似てる〉


 このコメントに、ほんの一瞬だけ動く。


「そこは」


 即座に言う。


「あんまり触れないでね」


 服が個性的すぎること、完全に抜けていた。顔と声を修正しても、これでは……。


 〈分かる人には分かるやつ〉


 さらにコメントが流れる。


 〈榊原、自重〉

 〈室田もな〉


「……」


 しかし、そんなコメントはすぐに流される。


 〈今日のダイジェストのルリカ、いつもよりさらにかわいいんだが〉

 〈視点のせい?〉

 〈カメラが近い〉

 〈男子目線〉


 そう言われて、ダイジェストに目を映す。いつもの山本の目線とは違う。満足が、私を見る視線……。


「ちょ、ちょっと」


 私は思わず身を乗り出す。


「なんで、そんなとこ見てるのよ」


 思わず、素が出てしまった。

 そしてコメント欄が反応して、ざわつく。


 〈今の素〉

 〈素出た〉

 〈かわいい〉


「はい、次!」


 私は強引に切り替える。

 映像が変わる。洞窟の奥。高い天井。淡い光。寝転がり、天井を見上げている場面。


 〈……きれい〉

 〈映画みたい〉


 空気が変わる。


 〈俺もルリカと見たい〉

 〈この空間ずるい〉


 私は、コーヒーを一口飲んでから、静かに言う。


「ここね……本当に、きれいだった」


 声が少しだけ落ち着く。


「正直、危なかったけど、印象的な瞬間だった。こういうのがあるから、このゲーム、やめられないんだよね」


 〈わかる〉

 〈それな〉


 その中に、ひとつだけ、分かる人には分かるコメント。


 〈蛇の肉もな〉


 私は、見なかったことにした。


「というわけで、今日のハイライトはここまで」


 映像を止める。


「次回は飽海嶽の結界チェック回、今の鳥海山ね」


 少しだけ、表情が引き締まる。


「奉納ライブの方は、狐火チケットまだ少し残ってるみたいです。時間がある人は火の玉になって、観に来てくださいね」


 すぐに、いつもの笑顔に戻る。


「じゃあ今日はここまで! また次の配信で。おつルリカ!」


――配信終了。


 画面が暗転し、部屋が静かになる。私は、椅子にもたれて天井を見た。


……見られてたな。


 あの視点。洞窟の天井。近すぎる距離。正直、配信向けの視線じゃなかった。

 少しだけ、頬が熱くなる。


「……次は、もっと覚悟決めよ」


 そう呟いて、空になったマグカップを置いた。

配信のOPで流れている曲の歌詞です。作中でフルで歌われることは多分ないと思うので、こっちに載せておきます。

https://ncode.syosetu.com/n2242md/2

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