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平安京エイリアンズ~彼女の独身垢によって裸にされた感情、さえも  作者: 岬口大鴉
【十日目】

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目覚め

 最初に戻ってきたのは、音だった。

 ざわざわとした気配。抑えた声。衣擦れ。誰かが息を呑む音。目を開ける前から、囲まれていることだけは分かった。


――ああ、生きてるな。


 そう思った瞬間、胸の奥がひどく重くなった。

 息を吸う。ちゃんと空気が入る。

 吐く。痛みはあるが、致命的じゃない。

 ゆっくり、目を開けると、視界に顔がいくつも重なっていた。


「……起きた」


 誰かが言う。


「おい、ほんとにか?」


「目、開いてる、よな?」


「ちょっと、近いって」


 焦点が合うまで、少し時間がかかる。見慣れた顔。見慣れていない顔。どれも、今は同じくらいぼんやりしている。


「……あ」


 喉から、かすれた声が出た。


「声も出る!」


「無理させないで」


「いやでも……よかった……」


 榊原の声が一番うるさい。

 室田は少し後ろで、腕を組んだまま、ほっとしたように息を吐いている。相原は黙っているが、視線だけはずっとこちらを離れない。


「……戻ってきたんですね。ルリカさんを助けていただき、ありがとうございます」


 山本の声。少し震えている。


「ほんとに……」


 ルリカが視界に入る。彼女は少し離れた位置に立っていて、無理に、笑おうとしているのが分かった。


「……あんたさ」


 ルリカが言う。


「ほんと、最悪だよ」


 言い方はきついが、声が弱い。怒っているというより、気が抜けてしまった人の声だった。


「……ごめん」


 反射的に、そう言った。


「謝らなくていい」


 即座に返ってくる。


「いや、謝られると腹立つから」


 少し、場の空気が緩む。

 それから、ふと気づく。

 瀬戸がいる。寝床のすぐそば。一番近い位置に立っているのに、何も言わない。視線を向けると、彼女はただ、こちらを見下ろしていた。


……何も言わない。


 胸の奥が、少しだけざわつく。

 僕は体を確かめる。主に刺された傷は、綺麗になくなっていた。

 肩の傷も、治ってる。腕も足も疲労感はあるが、動く。


 寝たままなのも悪いと思い、僕は体を起こす。


「……おい、起きて大丈夫か」


 榊原が、言う。


「ああ……、少し違和感はあるけど、別にきつくない」


「よかったな」


 それは、あまりに単純な言葉だったけど、だからこそ強い言葉だった。

 僕は、ゆっくりと瞬きをした。


「……うん」


 その瞬間だった。


 ぱちん。


 乾いた音が、部屋に響いた。

 一瞬、何が起きたのか分からなかった。そして次の瞬間、頬に熱が走る。


 視界の端で、瀬戸の手が下がる。

 誰も声を出さない。止める気配も、驚きの声もなかった。僕は、数秒遅れて、自分が叩かれたのだと理解した。

 痛みはある。生きてる実感。だが、それよりも先に胸に浮かんだのは、別の感情だった。


……ああ。……そうだったな。


 息を吸って、吐く。それから、少しだけ口元を緩めた。


「……これは」


 声がちゃんと出ることを、生きて帰ってきたことを確かめるように。


「ご褒美ですか?」


 一瞬、空気が張りつめる。

 瀬戸の眉が、ぴくりと動いた。


「……ばか」


 短く、低い声だった。

 怒鳴らない。責めない。ただ、感情だけが、はっきり乗っているように思った。

 瀬戸は、僕をまっすぐ見下ろす。


「一人で突っ込んだ」


「……うん」


「壊れるところまで行った」


「……そこは反省してる」


 彼女は、もう一度だけ深く息を吸った。


「でも止められなかったのは、……私の責任」


 その言葉に、僕の胸の奥が、少しだけ締めつけられる。守られたからじゃない。一緒に背負われたからだ。

 僕は、ゆっくりと瞬きをした。


「……ただいま」


 その一言で、瀬戸の表情が、ほんのわずかに崩れる。だが彼女は笑わない。ただ、静かに頷いた。


「おかえりなさい」

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