胎内の夢
――冷たい。
いや、冷たいというより、重い。身体があるのかどうかも分からない。ただ、沈んでいる感覚だけが続いている。水の底なのか、土の中なのか、それとも夜そのものなのか。
呼吸をしようとして、気づく。
――息をしていない。
それでも不思議と苦しくはなかった。代わりに、胸の奥に、ゆっくりと満ちていくものがある。影だ。自分の影であり、そうでない影。怒り、恐怖、後悔、衝動、衝突、守れなかったもの、守ろうとしたもの。それらが、一つの流れになって、体の内側を通っていく。
――ああ。
どこかで、納得する。
これは、奪われているんじゃない。裁かれているわけでもない。通っているだけだ。自分を通って、どこかへと。
ふと、足元の感覚が変わる。水が引き、代わりに、湿った土の感触が広がる。
闇の中に、道が現れる。
それは、下り坂だ。山を下る道。けれど、怖くはない。足を進めると、遠くで声がする。
――泣き声。赤子の声。
胸が、きゅっと締まる。理由は分からない。だが、その声が自分自身のものではないことだけは分かる。
道の先に、貝殻のようなものが見える。白く、滑らかで、閉じている。近づくと、貝はゆっくりと開き、柔らかな光が溢れ出す。
中は、暗い。ただ、その暗さには恐怖はない。
安心に包まれる感覚があって、音が遠のき、重さが薄れ、影がほどけていく。
――ここか。
そう思った瞬間、意識が揺れる。
別の景色が重なる。山の尾根。水の流れ。誰かが、手を伸ばしている。澄んだ声。重なった呼吸。微かに聞こえる、祈り。言葉は分からない。けれど、それが自分に向けられていることだけは、はっきり分かる。
影が、最後に一度、身体を締めつける。拒絶ではない。名残のようなものだ。
そして――ほどける。
肺に空気が入る感覚がする。重さが、身体に帰ってくる。
まぶしい。目を閉じたまま、そう思う。これは、夢なのか。それとも――通ってきた道だったのか。考える前に、意識が浮上する。誰かの気配。人の声。布の感触……。
僕は、ゆっくりと、目を開けた。




