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平安京エイリアンズ  作者: 岬口大鴉
【十日目】

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袖の裏にて

 船が進路を変えたとき、私は何も言えなかった。甲板の上は混乱していたが、判断自体は驚くほど冷静だった。舵を預かる船頭が叫ぶ。


「今は追えない! この風と波じゃ、二次被害が出る!」


「まず袖の裏だ。港に入って船を立て直す!」


 それが、正しい判断だということは分かっている。分かっているからこそ、胸の奥が冷えた。


……満足くん。


 海を見つめても、そこには荒れた波しかない。さっきまで、確かにそこにいた二人は、もう視界にはいなかった。

 私の結界は、限界だった。正確に言えば、限界を越えていた。あの引力は、山でも川でもなかった。人の力でどうこうできる種類のものじゃない。


 それでも――。最後に、重なった結界があった。

 京崎ルリカ。彼女が張った結界は、性質が違った。派手で、強引で、それでいて精密だった。私の結界の隙間を理解したうえで、無理やり噛み合わせるような感覚。

 あれがなければ、この船も無事では済まなかった。結果として、私たちは助かっている。それが、いちばん苦しかった。

 船は、結界に守られたまま、袖の裏の港へと滑り込んだ。港に入った瞬間、張り詰めていた空気が一気に抜け、船員たちがその場に座り込む。


「……助かった」


「巫女さまのおかげだ」


 その言葉が、素直に受け取れなかった。

 私たちが助かった理由は一つじゃない。満足と、ルリカが――海に消えたからだ。

 港に着くと、私はほとんど休まずに役場へ向かった。袖の裏は入り江で、沖ほどは風を食わない。沿岸を舐めるなら、まだ手はある。


「探索用の小型船を貸してください」


 声は、思ったより落ち着いていた。


「今すぐです。人が二人、海に落ちています」


 役人は渋い顔をした。この海況で出す船が、どれほど危険かは、誰よりも分かっている。

 そこに、山本が一歩前に出る。


「都でも重要な地位におられる巫女です」


 淡々と、だがはっきり言った。


「あの船の結界を張ったのも、彼女です」


 さらに、船頭が口を挟んだ。


「事実だ」


「あの巫女さまがいなけりゃ、俺たちはここにいない」


 空気が、変わった。役人は、短く息を吐き、頷いた。


「……分かった。小型船を一艘出そう。ただし、人選はこちらで指定する」


 現状できる、最上級の対応だっただろう。探索隊は、すぐに決まった。

 室田は、船の補修と操船ができる。相原は視力がよく、地形の把握が早い。そして、私。結界と、位置の感知。それにNPCの船員が三人。最小限で、最大の効率。

 榊原が、一歩前に出た。


「俺も行く」


 即答だった。迷いがない。だが、相原が首を振る。


「だめ、全滅したら、意味がない」


 淡々とした声だった。冷たいが、正しい。


「ここに一人、戦力を残す必要がある。それに、もし私たちにも何かがあれば、全滅になる。それだと、すべてが無駄になっちゃう」


「戻ってきたとき、受け止める側がいないと、探索は終わりません」


 榊原は、歯を食いしばり、それでも頷いた。私は、満足くんのバックパックを取り出した。


――置いていったもの。


「これ……お願いします」


 榊原に差し出す。


「戻ったら、必ず必要になるから」


 榊原は、黙ってそれを受け取った。強く、握りしめて。


 港を離れると、さっきよりも海は荒れて見えた。それでも、戻らなければならない。小さな船は、再び荒れた海へと漕ぎ出していく。

 私は、胸の奥で静かに祈る。助けるために行く。それだけを、手放さない。

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