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平安京エイリアンズ~彼女の独身垢によって裸にされた感情、さえも  作者: 岬口大鴉
【九日目】

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味噌汁の味

 食堂は、夜にしては少し騒がしかった。

 ログアウト直後の時間帯は、試験参加者もスタッフも、一斉に解放されるせいで、いつもこんな感じになる。

 私は、トレーを持って席を探しながら、少しぼんやりしていた。

 体はここにあるのに、指先だけがまだ杖の感触を覚えている。杖が地面に置かれる感触。あれは、ほんの数時間前の出来事のはずなのに、ずいぶん前のことのようにも思えた。


「澄佳ちゃん、こっち」


 鷺沢が手を振る。その向かいには三好がいて、すでに箸を動かしていた。


「こんばんは」


 席に着くと、ようやく肩の力が抜ける。食堂の匂い。味噌汁の湯気。現実だ、と実感できる。


「今日は、一日お疲れさま会ってことでいいよね?」


 鷺沢が、いつもの調子で言う。


「……会、ってほどでは」


「いいのいいの。形式は大事じゃないから」


 三好が、小さく笑った。


「でも、確かに疲れたかも。現実に戻ると、どっと来るというか」


「それそれ。記憶の圧縮、地味に効くよね」


 そんな他愛ない会話の流れで、ふと話題が広がる。


「そういえばさ」


 鷺沢が、箸を止めて言った。


「今日は、恒一くんは来ないって」


 私は顔を上げる。


「近衛くん、ですか」


「うん。家の用事だって。なんか……外で豪華ディナーらしいよ?」


 語尾に、からかうような響きが混じる。


「豪華……」


 三好が、少しだけ表情を曇らせて、でもすぐに整えた。


「まあ、あの御家ですから、そういう席があるのは仕方ないですね」


「まあねえ」


 鷺沢は、どこか距離を取った言い方をした。


「直人くんと修司くんは、逆にいつも通り」


「いつも通り?」


「うん。例のファミレス。ドリンクバー付きの」


 三好が、少しだけ肩をすくめる。


「さっき連絡が来た。『今日は無難にいつものところ』って」


 その言い方が、どこか安心しているようにも聞こえた。

 私は、何も言わずに味噌汁を一口飲む。口の中に広がる、うま味と塩味、そしてその温度が現実に戻ってきたことを実感させる。

 そして頭の中には、今まで関わってきた他のプレイヤーたちの姿が浮かんだ。同じ試験に関わっていても、同じ出来事を経験していても、今、立っている場所は少しずつ違っている。


「……みんな、別々だね」


 思わず、そんな言葉が零れた。


「まあ、そんなもんだよ」


 鷺沢が、軽く言う。


「全員一緒に同じとこで立ち止まるほうが、たぶん不自然」


「そうだね」


 三好も頷く。


「今は、それぞれが自分の立場に戻っているだけか」


 その言葉は、誰かを庇うでも、責めるでもなかった。

 私は、少し考えてから、静かに言った。


「……でも、また同じ場所に集まることも、あるかな」


 二人は一瞬、視線を交わし、それから私を見る。


「そりゃあ、ね」


 鷺沢が笑う。


「どうせ、同じ船に乗ってるんだし」


 その言葉に、胸の奥が少しだけ温かくなった。

 今は、食堂のテーブルを挟んで、ただご飯を食べているだけ。それでも、この距離感は、悪くないと思えた。

 明日も、またログインがある。

 巫女としてでも、学生としてでもない、ただの自分で、その事実を受け止めながら、私は箸を進めた。

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