表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

297/300

【Others Side】ちょっと目立つ噂のハンター!

【Others Side】


 ――神楽坂ダンジョン管理所受付カウンター。



 昨日と同じ、今日も忙しい朝。

 まだ研修中だから、下手なミスをしたら裏方に回されちゃう。でも花形の受付係は譲れない。


 ダンジョン管理所職員は人気の職業だけど、運よく採用された私はきっとラッキーガール。しかも希望の受付係!


 しっかりとハンターの皆さんを笑顔で送り出し、同じ笑顔で帰りを見届ける。

 不慣れなところはまだまだあるけど、同期にも先輩にも、そしてハンターの皆さんにも信頼される受付係になるのよ。


「次の方、どうぞ」


 あ、この人はあの有名なクラン『紅の魔法愛好会』に所属しているハンターね。

 でも大丈夫。どんなに有名な人でも、私はいつもと同じ精一杯の笑顔で、スムーズに受付業務を遂行するの。

 本当は少し緊張したり、ドキドキしたりもするけど、決して顔には出しません。


 誰もひいきなどせず、公平に。それがプロの受付係だから。

 研修中に学んだことをちゃんと実践して、正式な受付係を勝ち取らないと。


「――おい、あれ見ろよ」

「久しぶりに見たな。絶望の連中か」


 受付に並んでいる人たちが、入り口のほうに顔を向けて口々に話し始めた。

 仕事を続けながらも、絶望というワードに思わず反応してしまう。


「まどかちゃん、やっぱ美人だし可愛いな」

「元アイドルのオーラは半端じゃないわ」

「武道会荒らしのイメージが強いが、永倉葵も意外と可愛いよな」

「まあな。でもあの見た目で前科があるって、なんて言うか違和感凄いな」

「葵ちゃんとまどかちゃんの友情はこの世の真理! 誰も間には入れないのよ!」

「急に何を言い出すんだ、お前……」

「俺は断然、水島梨々花派だ。絶望はキャラの濃い奴が多くて目立たないが、優しいお姉さん系美人は最高だろ」

「ふっ、同士よ。梨々花嬢こそ、この世に咲く一輪の希望だ」

「それを言うなら、俺は凛々しい沖田がいいな。剣を構えた姿がマジで絵になる」

「わかってねえなあ、お前ら。黒川まゆ、彼女こそ至高の女だ。あのどう見てもキャバ嬢みたいな感じで、意外と家庭的だったり優しかったりするんだぜ?」

「大蔵銀子様の大人の魅力がわからないなんて、あんたらはガキね。あのパリッとしたスーツ姿に知的なメガネ、最高よ」

「甘いな。九条つばきちゃんのミステリアスさこそ、最高だろうが」

「何がミステリアスだ、全身黒ずくめなだけじゃねえか」

「あの人たち、スキンケアとか髪の手入れとか、どうやってるのかしら? 本当に教えてほしいんだけど」

「そうだよね? 綺麗だよね? でも前はあんなんじゃなかった気がするんだけど……」


 随分とミーハーな話ぶりが耳に飛び込んでは通りすぎていく。

 ただ、私も内心ではドキドキだ。ついに、あの永倉葵スカーレットに遭遇してしまったのよ!

 こんなに早く推しのハンターに会えるなんて。


 あ、しかも私の受付列に並んでくれた……今日は記念日よ!


 でも冷静に。私は受付係、仕事でいまここにいるの。ほかのハンターの皆さんへの対応をおざなりにしてもいけないわ。

 でもでも、気になる。チラチラどうしても見てしまう。


 たまたまネット中継で見た剣聖杯での葵さんは、私と同い年くらいなのに本当に凄かった。

 強そうな相手の剣士を圧倒する姿が格好良くて、何度も何度も繰り返し見たし、いまでも見返したくなって再生してしまう。

 ほかにはいない魅力の持ち主よね。


 あの魔法学園の制服風ファッションもよかったけど、普段着もとてもいい!

 英国お嬢様風のしっとり目のファッションに、ナチュラルなボブヘアが溌剌とした印象でギャップが最高。

 しかも光沢のあるピンクのスカジャン? あえて派手な上着を合わせたところも素敵。私も真似しようかしら。


「――おい、聞いてるか?」

「え、あ。す、すみません。身分証をお預かりします」


 いけない、いけない。仕事に集中しないと。

 頑張ってなるべく意識しないように受付業務を進めて、そうしてついに。


「おいすー! 受付よろ。お、新人さん?」

「は、はい。初めまして、」

「花村さん、交代の時間よ」

「え?」

「ほら急いで、もう休憩時間だから。すみません永倉さん、では身分証をお預かりしますね」


 え、えー!

 よりにもよって、このタイミングで!?

 なんで、どうして!


 あーっ、でもダメよ。いまは仕事中。我がままを言っている時ではないわ。

 一生懸命お仕事していれば、お話しするチャンスはまた必ずやってくる。そのはずよ。

 まだ研修中の身だし、もっとしっかり頑張らないと。



* * *



 ふう、危なかった。

 いろんな意味で注目のクラン『絶望の花園オルタナティブ』への対応は、慎重にしないといけない。

 花村さんは真面目な子だと思うけど、研修中の新人にはとても任せられないわ。


 以前は『白夜筋肉騎士団』のことで迷惑をかけてしまった過去があるし、永倉さんはとにかく注目度が凄まじい。下手な対応をしようものなら、すぐ問題になってしまう。


「――はい、7名分の登録が終わりました。気をつけていってくださいね」

「ありがとね。よっしゃ、今日もいっぱい労働だよ!」


 いつもの業務、短いやり取りを終えただけでほっとしてしまった。

 そんな私に対して、去っていく永倉さんはあまりに自然。周囲の視線を独占しているのに、まるで気にした様子がない。


「次の方、はいどうぞ」


 仕事を続けながらも、さっきの絶望の花園のことを考えてしまう。

 今日は第二十五階層からスタートして、その先に進むと言っていたけど、あの年齢でダンジョン中層を踏破しようなんてさすがとしか言いようがない。


 九条まどかさんを前面に立てたアイドル的な人気ではなく、圧倒的な実力と実績で急上昇しているクラン。

 永倉さんの逮捕の影響で人気に陰りが出るかと思いきや、そんなことには全然ならなかった。


 あれも人徳のなせるわざ? 人徳とは少し違うような気はするけど、いずれにしても人気があるのはうなずける。

 直に接してみれば、あの明るい人柄には受付係としてどうしても好感を抱いてしまう。不思議と応援したくなってしまう。


 彼女たちがまたこの神楽坂ダンジョンに通うようになれば、これからはいつも以上に忙しくなるかもしれない。

 きっと大変だけど、活気は出るでしょうね。

 同時にトラブルも起こりそうな……でもそれを収めるのがダンジョン管理所受付係の腕の見せどころ。

 そうよ、腕が鳴るわね。


 ああ、そういえば。あの事件をきっかけに地方に飛ばされた山田さんは元気かしら。

 年に数度しかハンターが訪れないような、とても暇なダンジョン管理所にワンオペで派遣されたはずだけど。

 反省して頑張っていれば、いつか戻してあげられるかもしれないけど……いつになるかしらね。



* * *



「……行ったか。絶望の連中、もう全員がレベル30になったんだってな」


 ダンジョン下層に挑戦する一つの目安が、レベル30への到達だ。

 そして下層への挑戦はダンジョンハンターとして、また一つ格を上げたことの証明でもある。


 あの少人数で下層のどこまで進めるかは見ものだが、それにしてもたいした奴らだ。ハンター歴10年にもなる俺たちが、もう追いつかれてしまった。そして抜かれるのもすぐだろう。


「レベルについては公式のランキングから確認できます。ストーカーみたいな連中が、有名どころは毎日のようにチェックしてますからね。絶望についても、少し前から話題になってます。どうやったらあんなに早くレベルが上がるのか、そこが謎ですけど」

「永倉の『ソロダンジョン』のお陰だろう? 実質、どこのダンジョンだろうが専用化しているのと同じだ」

「それにしたって早すぎませんか? 紫雲館のバックアップのお陰もあるんですかね。そういえば、例の噂は知ってますか?」


 例の噂? はっきりしない奴だ。


「絶望については、くだらない噂が多すぎる。お前もいちいち真に受けるな」

「元天剣の鷹宮ですよ。あの人、今は絶望のサブクランに入ったって話です」

「……あの鷹宮が絶望のサブクランに? さすがにデタラメだろう、どこの情報だ?」

「まあちょっと、そういう立ち話をたまたま耳にしただけなんですが」

「なんだ、ただの噂か。根拠がないなら、そういう話はあまりするな」


 悪徳政治家との癒着や裏金、そしてセクハラ問題などが明らかになったクラン『天剣の星』は、今や反面教師の代表格だ。

 元天剣の肩書があるだけで、白い目で見られる現状は当分の間変わらないだろう。

 鷹宮は将来を期待されたハンターだったが、今は何をしているのか。


 もし絶望が新規メンバーを募集しているのなら、俺だって入りたい。

 例えサブクランだろうが、あの永倉や沖田の実力に近づけるなら、うちの弱小クランなど丸ごと吸収されたほうが未来は明るいとまで言っていい。


 いや、さすがにそれは情けないか。


 しかし雑談程度でもいいから、一度くらい話してみたいものだ。何かしら得られるものがある気がするのだがな。

 我々のような十把一絡げに見られてしまうクランにとっても、絶望の活躍は一筋の希望に思えてしまう。

 あそこまでにはなれずとも、もう少し上を目指すとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ