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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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【Others Side】将来有望なクランの縁の下の力持ち

【Others Side】


 クランハウスの執務室で、鷹宮鋭次に関して集めたデータや写真をモニターに表示させました。すると目の前に座る銀子さんとまゆさんが、真剣な様子で情報を読み取り始めます。


「……随分と細かい経歴ですね。雪乃さんの伝手で調べたのですか?」

「ええ、ですが隠されていた情報は特にありません。そこにあるように略歴としては、幼少の頃から剣を嗜み、中学校を卒業と同時にハンターを志しています。それから間もなく、天剣のサブクランにスカウトされていますね」


 サブクランで5年ほど経験を積んだ後で、親クランの天剣の星に移籍。順調にダンジョン攻略実績やレベルを上げ、クラン内外での評判を高めていたようです。

 鷹宮さんに関しては、学生時代の評判についても悪いものは見当たりません。成績も上々で優等生ですね。


「実家はそこそこ裕福で、親族に怪しい人物も見当たらねえ。友だち関係は剣士ばっかりか。女関係は……まあ特別妙な点はなさそうだが、こんなことまでよく調べたな」

「元天剣のそれなりに有名な人ですから。過去はさておき、大事なのは現在です」


 私生活を暴くことは決して気分の良いことではありませんが、こうした調査は必要なことです。


「現在……そうですね。特に過去については、私やまゆがとやかく言えた立場ではないな。鷹宮についても大事なのは今ですね」

「ええ、これらの情報は鷹宮さんがどのような人物かを知るためのものに過ぎません」


 クランマスターの葵さんを始めとして、花園には前科のあるメンバーが複数います。

 もし仮に後ろ暗い経歴のある新メンバー候補がいたとして、花園は現在の立場や活動を重視する考えで、私としては心配に思う反面、花園らしいとも最近では思えてきました。


「鷹宮の野郎、28歳だったのか。その割には老けてやがるな」

「そうか? 元『天剣の星』の準幹部、レベル45……現在は所属先クランを探しているが、難航中か」


 銀子さんが鷹宮さんの現在の状況を読み上げてくれました。

 具体的な準幹部としての役回りは、主にモンスター討伐における攻略立案だったようです。


「彼は上級クラスの獲得が視野に入る高レベルハンターです。元トップクランの準幹部としての経歴も素晴らしいですが、あの天剣の悪評が響いていて、ハンターとしての活動に大きな支障が出ているようですね」

「あれだけの騒ぎを起こしたクランメンバーだぜ? ほとぼりが冷めるまでは、別のクランに所属は無理だろ」

「そうだな、天剣は犯罪や謀略への関与が暴かれたばかりだ。しかも注目の集まった剣聖杯の決勝で、葵に対して卑怯卑劣な真似をしたあげく敗北したのがこの鷹宮だ。評判を落として当然で、のうのうとハンターとしての活動などやれるわけがない」


 あの時のライブ配信は、1,000万人以上が視聴した記録的なものでした。

 まさに、ほとぼりが冷めるまでは白い目で見続けられるでしょう。


「その葵さんも逮捕されてしまいましたが、天剣の悪事と悪徳政治家の失墜によって、悪評どころか同情される状況になりました。特に鷹宮さんは、表舞台で葵さんと対戦したこともあって、相対的により悪いイメージを持たれているのだと思います」

「しかも葵はムショで歴史的な発見までしたからな。葵が株を上げれば上げるほど、敵だった鷹宮の株は下がる。まあ、自業自得だ」


 仕方のないことであり、花園のメンバーとしては同情する気にはなれません。

 ただし、調べれば調べるほど、鷹宮さんが犯罪に関与していないことは明らかになっています。


 剣聖杯では卑怯な行いをしましたが、そもそもクランの方針でなければあのような舞台は成り立ちません。結局は葵さんの引き立て役にしかならなかったと思えば、不運な人とも思えます。


「たしかに、奴のイメージは最悪だ……ほう、この情報は知らなかった。鷹宮は天剣の悪事発覚以前にクランを辞めているが、賠償金の負担をしていたのか。しかも自分から負担を申し出ている」

「ええ、そのため貯金や高価な装備のほとんどを失っているようです」

「辞めたばっかのクランだぜ? さすがに賠償から逃げるのは無理だろ。まあ自分から負担を買って出たなら、たいした根性だけどよ。普通に考えて、使い慣れた装備を失ったのはかなり痛いだろうな」


 ハンターとして、命を預ける装備品は特別でしょう。しかも鷹宮さんはトップクランの高レベルハンターですから、代わりのものを見つけることは簡単ではないはずです。


「これまでの立場を考えれば、どん底に近い状況ではないですか?」

「どん底……この情報によれば借金はなく、現在は麻布で実家暮らしですね。五体満足のようですし、衣食住にも困っていないのでは?」

「アタシらに言わせれば、どん底には程遠いな。天剣で未来のエースなんて言われてた時と比べてみりゃ、落差はあるだろうがよ」


 元は債権回収の仕事をしていた二人にしてみれば、私では想像も及ばないどん底というものがあるのでしょう。


「鷹宮さん自身がどう感じているかはわかりませんが、いずれにしても数か月前までの状況と比べれば落差は歴然だと思います。そして彼の気持ちや事情を考慮しなければ、花園にとっては使える人材です」


 花園にとって、どのような価値があるか。大事なことはそれだけです。


「利用価値はこの前の時も話したとおり、サブクランの指導と護衛、それにトップクランでの経験だよな? ほかにもなんかあるか?」

「主には情報だろうな。元トップクランの準幹部の立場で、我々にとって有益な情報をどの程度持っているかだ。あまり期待しないほうがいいのかもしれんが」

「それと前にも言ったがよ、鷹宮の野郎が葵に逆恨みしてるってことはねえのか? 剣聖杯の決勝で叩きのめされて、プライドはズタズタにされただろ。おまけにあれをきっかけに、天剣が崩壊したようなもんだしな」


 問題があるとすれば、そこでしょう。事前の調査では鷹宮さんの気持ちまでは推し量れていません。飲み屋などで愚痴をこぼすタイプなら、簡単に調べられたはずなのですが。


「やはり、まずは接触してみませんか? こちらの目的を明らかにした上で対話を要求し、最初から拒否されればそれまでということで」

「いくら利用価値があるにしても、こっちが頭を下げて頼む必要はねえからな」

「ええ、過去の経緯を踏まえれば花園のほうが立場は上です。高レベルハンターに対する敬意は必要ですが、ヘリ下る必要はありません。逆に厳しい現実を突きつけ、花園に対する全面的な協力、もっと言えば忠誠を要求してもよいと思います」


 真面目なところあるの鷹宮さんに対しては、遠慮せずに次々と要求を呑ませるくらいのほうが有効とも考えられます。いずれにしても、先方の態度次第ですね。


「雪乃もなかなか言うじゃねえか」

「鷹宮は所属できるクランを探している状況だ、こちらから持ち掛ければ話くらいは聞く気になるだろう。前にまどかも言っていたが、花園からの提案は考えようによっては鷹宮にとって渡りに船だ。世間の嫌われ者になった元天剣のメンバーにとって、これ以上のみそぎはない」


 まさに花園との関係を改善としたという実績は、彼らにとって有益と考えられます。

 あとは鷹宮さんを取り込むための、条件提示を考えましょうか。


「では次です。鷹宮さんを確実に取り込もうと考える場合に、ほかにどのような条件提示をしましょう?」

「落ちぶれてもプライドは高そうだからな。うちとの関係改善だけをエサにしても、さすがに食いつかねえか。貯金も装備もなくしたってんなら、やっぱ金か? いくら実家が太かろうが、てめえで稼いで好きに使える金は欲しいだろ」

「あのレベルのハンターなら高額報酬は必要かもしれんが、感情的には気に食わんな。私としては別のメリットを提示して、タダ働きさせてやりたいくらいだ」


 銀子さんには何か妙案があるようですね。


「おう、銀子。具体的にはどんなメリットだよ?」

「鷹宮がハンターへの復帰にこだわっているのは、上級クラスを目指しているからと情報にあるな? サブクランの指導や護衛では、上級クラスに至ることは無理だ。だとすれば、未来を提示してやればいい」


 未来、ですか。


「そうだな。たとえば、最初に提示する条件として、うちに協力する期間は2年か3年程度に区切る。それ以降はサブクランに残ろうが、別のクランに移籍しようが自由だ。契約満了で2年以上もうちに尽くせば、多少なりとも今の悪い評判は消せるだろう。鷹宮のほうから花園を裏切って辞めた、ということにもならないはずだ」


 あらかじめ期間を区切っておけば、鷹宮さんとしても受け入れやすくなりそうですね。


「なるほどな、悪くねえ。あと思いついたんだがよ、鷹宮が一人だけじゃ指導も護衛は厳しくねえか? 教えるのは下手くそかもしれねえしな。だったら鷹宮の推薦で一人か二人くらいに限って、一緒に雇ってやるのはどうだ? もちろん雪乃の審査に引っかかるような奴はダメだが」

「……元天剣で鷹宮と同じように困っている連中は多いだろう。たとえ一人だけでも助けられるなら、鷹宮にとっては好条件に思えるはずだ」


 警戒すべきはクランの乗っ取りですが、鷹宮さんとあと一人や二人程度なら大丈夫でしょうか。

 あとは契約内容を詰めておけば……花園としては問題ないと思えます。


「銀子さん、まゆさん、ありがとうございます。あとは鷹宮さんに接触を図ります。この時点で拒否されてしまえば、それまでですので」

「そうだな。もっとこまけえことは、その後でもいいんじゃねえか?」

「では雪乃さん、よろしくお願いします。交渉が決まれば、その際には我々も同行します」


 また忙しくなりそうですね。

 詩乃と綾乃にも協力してもらいましょう。



 ――数日後。


 護衛役に名乗り出てくれた銀子さんとまゆさんを伴って、鷹宮邸を訪れることになりました。


「本日はお時間をいただき、ありがとうございます。私は先にご連絡差し上げた『絶望の花園オルタナティブ』の源雪乃です」


 一人で応じる鷹宮さんは平静を装ってはいますが、ひどく緊張している様子です。

 緊張の理由としてはこの機会を大事に思っているからか、あるいは護衛役の二人から滲み出る迫力でしょうか。


 とにかく、こちらが遠慮する立場ではありません。

 すでに勧誘したい旨は伝えていることから、挨拶もそこそこに細かな条件を提示しました。



 ・期待する役割は、これから立ち上げるサブクランでの指導と護衛、花園への可能な限りの情報共有。

 ・報酬としては、装備品の提供、高レベルハンターではあり得ないほどの低い月給。

 ・同僚として働く人員の推薦枠。

 ・2年間の期間限定契約。

 ・福利厚生として、各種保険への加入、別途用意するクランハウスへの入居など。



 書面にまとめた条件を見つめる鷹宮さんは、深く考え込んでいるようです。


「……考えさせてもらえるだろうか。少しでいい、すぐに戻ります」


 どうやら席を外して考えたいようですね。あるいはご家族との相談でしょうか。


「もちろんです」


 応接室を退室した鷹宮さんを、私たちは無言のまましばらく待ちました。

 すると10分程度でしょうか、鷹宮さんがいくらか覇気のある表情で戻りました。


「この話、お受けします」


 書面に書かれた条件以外のメリットについて、きちんと理解しているようですね。

 ひとまず、上手くいったようです。


 深く頭を下げる鷹宮さんに、手を差し出しました。


「では早速、サブクランの立ち上げからご協力いただきましょうか」


 鷹宮さんがそっと私の手を握り返しました。力の入れ具合が紳士ですね。


「罪滅ぼしではないが、俺にできることは全てをやらせてもらう。これからよろしく頼む」


 現時点ではその言葉を信用しましょう。とにかくこれで契約は無事に成立です。

 花園が新しい飛躍の一歩を踏み出す場面と思えば、これほど嬉しいことはありません。


 さて、彼には馬車馬のような働きを期待しましょうか。

 もし少しでもサボるようなら……その時は葵さんに相談ですね。

 きっと何か面白い案を授けてくれそうな気がします。

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― 新着の感想 ―
日々の剣士修練の付き合いは条件には入ってないのかな? 裏側を知ってると、まあまあ高潔だけど、花園からは慎重になる人物ではあるか。 安月給もかわいそうな気もするが、家を維持するのに困らないだけでは渡して…
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