見たくもない他人の探索映像
今日はずっと見つからなかった沖島ダンジョン第二階層、私の大発見の検証がやっと始まるらしい。
まったくもう、早くやっておくれよね。こっちは1日でも早くシャバに戻りたいのにさ、もう1週間も待ったよ。
「ういー、どら焼き食いてー」
そこらで売ってる安いのじゃなくて、神楽坂のめっちゃ美味いやつ。あれだよね、やっぱ。
差し入れで持ってきてもらうのはいいみたいだけど、自分で自由に買いに行きたいわ。
あとここのダンジョンはめっちゃ戦いにくいから、せっかくのダンジョンなのに全然楽しくない。別のダンジョンを探索したり、モンスターを倒したりもしたい。早くやりたいね。
お金も全然稼げないし、お友だちにも気軽に会えないし、もう最悪だよ。
こんなところとは、早くおさらばしたいわねー。
「永倉、こっちだ。すでに検証チームはダンジョンに入っている」
「ほいほいっと」
他人のしょぼいダンジョン配信なんか見てもね、つまんないんだよね。
呼ばれた部屋に入ると、何人かの刑務官たちがモニターを見ていた。私も一緒に見ないといけないんだね。
後ろの席に座りつつ見たけど、なんだよあれ。
ほぼ真っ暗な画面で、見えるのはライトに照らされた足元だけ。
マジかよ。無言で歩いてるだけだし、死ぬほどつまらん。こんなの、あと何分見ればいいんだよ。
てゆーか、ちんたら歩いてないで走れよ。全速力で突っ走れよ、まったくもう。
こんなのだったら、私がカメラ持って行ったほうが早くね?
発見した本人がやっても、インチキ映像だと思われちゃうのかね。
「ふわ~あ」
しっかし、よくもこんなつまらん映像を見ていられるもんだね。
寝るかな、寝ちまおうね……。
「――あった、階段だ!」
うおっ、うるせー。目が覚めちまったよ。
「本当にあったのか!」
「まさか、あんな所に……」
モニターにはライトで照らされた下り階段が映ってる。ちょうど階段を見つけたところっぽい。
でもね。そりゃあ、あるに決まってるわ。あったもんが消えるわけないし、ウソなんかついてないし。
「永倉、喜べ。確認が取れたぞ、第二階層への入り口だ」
部屋にいた刑務官たちが、なんでかちょっと嬉しそうな顔をしているね。そんなに階段の発見が嬉しかったのかな。
とにかく、認められたみたいでよかったわ。
「うん。あとは転送陣のチェックだっけ? ここまできたら、誰も疑わないよね。さすがにね」
「そうだな。検証チームの役目としては、まだ転送陣とモンスターの確認が残っているが問題ないだろう」
あ、そうなんだ。青鬼くんも見に行くんだね。
私のウルトラハードなモンスターとは、どんな感じで違うのかな。それは気になるね。
なんか、うだうだやっていたハンターたちが、やっと階段を下り始めた。未知の階層だもんね、緊張するよね。
でもやけにへっぴり腰で階段を下ってるね。めっちゃ怖気づいてるじゃん。
のろのろと死ぬほど遅い移動には、穏やかな私でもイライラしちゃったわよ。早く行けよ。
私の10倍くらいの時間をかけて第二階層に降り立った奴らが、さっそく転送陣を見つけてくれた。
「ほらほら、私が設置したやつだよ!」
よかったわ。これで出所確定!
「わかっている。最後にモンスターの確認だ。静かにしていろ」
「しかしこれは……画面越しに見ても、不気味な感じがしますね」
「たしかにな、異様な雰囲気だ。永倉はよく単独でこんな場所を探索できたな」
んー、どういうこと?
嫌な環境なのはそうだけど、探索はするよね?
ダンジョンハンターなんだからさ、未知の階層とか未知のモンスターとか、めっちゃ面白いじゃん。わくわくするのが当然じゃね?
モニターの向こうの奴らだって、へっぴり腰でもわくわくしているはずだよ。
暗いモニターの中では、上に向かって光の弾みたいなのが打ち上がって、周囲を明るくしていた。
おー、すごいわ。私はいらないけど、あの道具は便利っぽいね。
それにしてもあいつら、やっぱへっぴり腰だわ。情けないね。
「ねえねえ、あのハンターたちってレベル低いの? へっぴり腰でのろのろ歩きやがってよー、走れよ!」
これだから他人のダンジョン配信なんて見たくないんだよ。あまりのしょぼさに、私ったらイライラしちまうわ。
うおー、まったく。こんなの私ならとっくに終わってるだろ。ちんたらしやがってよー。
「いや、そんなことはない。彼らは支援系の能力に優れたハンターで、リーダーの石井さんはレベル40を超えている。ほかのメンバーもレベル25以上の編成だ。彼らは新発見の階層をチームとして慎重に動いているだけだ。そう悪く言うものではない」
「そうですよ、永倉さん。あなたのような無茶は普通しません」
私だって別に無茶なんかしてないわ。
「出ました、モンスターのような存在が確認できます!」
うーん? ちょっと遠いからよくわからん。もっと近づいてくれないかね?
と思ったら、カメラに向かってどんどん近づいてくるわ。モンスターが走り出したみたいだ。
「な、なんだあれは。たしかに、たしかに永倉の話のとおりだ。だがあれは……」
「……化け物」
なんか急に空気がピリッとしたね。そこまで怖いかな。
「逃げないと! 退却の指示は出ているんですか!?」
え、え、なんだよ。刑務官の人たち、急にテンション上がってね?
てゆーか、さっきカメラに映った青鬼くん、私が倒したのと同じだった気がするね。私の『ウルトラハードモード』なモンスターだったよね? あ、ちゃんと見えた。
うん、映像が乱れまくってるけど、やっぱ私が倒した青鬼くんで間違いないわ。
見た目が同じでも、どこか違ったりするのかな。よくわからんね。
「カメラを捨てたか!」
「撮影している場合ではなさそうですからね」
画面が真っ暗になっちゃったよ。
「検証チームは逃げ出したようだ。無事に逃げきってくれればいいが」
「救援に向かいますか?」
「焦るな。青鬼の足はそれほど速くなかった。彼らなら逃げられるはずだ。転送陣は近いし、間もなく戻るだろう。しかし永倉、お前はあれを本当に倒したのか?」
もしかして、また疑われてんの?
「倒したって。超硬かったし、私くらい強くないとムリかもしれんけどさ。あ、それに魔石もゲットしてるわ。見せたよね?」
「それもそうか……まあこの期に及んで嘘をついているとは思わない。ただモニター越しとはいえ、あのモンスターを見て簡単に信じるわけにはいかなくなった」
うーん、そういうもんか。なかなかのモンスターだからね、仕方ないのかな。
「あ、だったら私がさ、サクッと倒してくるわ。それなら信じるよね? カメラも持って行って、自分で撮ってくるよ」
もう出所は決まってるけど、疑われたままなのは納得できないし。将来有望な新人ハンターの実力をね、ちょろっと見せてやるわ!
「さっきのあの化け物を、ソロでか?」
「私ったら前も倒してるし、普通にやれるって」
「待て、連絡が入った」
無線機? そんな感じの装置で刑務官がごにょごにょしゃべり始めた。
「……とにかく無事でよかった、了解」
「おー、逃げられたんだ」
「そういうことだ。永倉、あのモンスターを倒せるんだな?」
「大丈夫だよ、あんなの余裕だって」
本気でやればね、サクッとやっちまうわ。
「わかった。では準備しろ、その間にボディカメラを用意する」
「ほいほいっと。あ、でもその代わり超スピードで出所させてよ? もうだいぶ待ってんだからさ」
「上が判断することだから、現場の我々に約束はできない。それでもできる限りのことはすると約束しよう」
「それでいいよ。ほんじゃ、いってくるね」
よっしゃよっしゃ。
進化したスキルも使ってみたかったし、ちょうどいいわ。
転送陣で第二階層にはすぐ行けるし、楽なもんだね。




