赤煉瓦の町で再開した仲間 Lv.2(五話)
神の国バシレイアと技術の街スタックタウンの戦争で最も恐れられたのは、メアリー・ホルスだと誰もが言う。しかし、この戦争で最も人の命を奪ったのは誰かと調べれば、別の名が上がるだろう。
バシレイア最強の兵士シルバー・ヴォルフ?
ファイアナド騎士団所属の、
サソリの外装、侵略のマト・ドール?
サソリの左腕、虎のオットー?
サソリの右腕、線の武器を扱うサンツ?
彼らのような戦士達か?
いいや、違う。
この戦争で最も多くの命を奪ったのは、ファイアナド騎士団、サソリの尻尾、暗殺者レサトだ。
彼女は闇に紛れ、確実に、そして、速やかにバシレイアの分隊長クラスの人材を仕留めて行った。
例え、最初の一撃を交わし、戦ったとしてもかすり傷を一度でもくらえば、彼女が仕込んだ毒により命を落としてしまう。
レサトはファイアナド騎士団の中でも恐れられていた。
キャリーもまた、オリパスやお母様とは別の苦手意識を覚えている。
偶然、オリパスと再開したキャリー。しかし、次の瞬間、目の前で彼はメアリーを信仰する少女にお腹を刺されてしまった。
かつての仲間である行商人のテトの助言により、暗殺者レサトが住んでいる家へと急ぎ向かっていた。
(森に入ったら道なりに進む、森に入ったら道なりに進む)
キャリーは、走り出す前にテトから教わった、道のりを何度も頭の中で繰り返していた。
(お願い、お願い! 死んじゃイヤ!)
オリパスを支える腕が段々冷たさを感じる。
腕が痺れて落としそうになる。
途中で落としたら、オリパスはタダじゃ済まないことをキャリーは、分かっていた。
祝福の力を持つものは他の人よりも丈夫な体になる。それは自分たちの能力で死なないようにするため。
オリパスには何の力もない、ただの人間だ。
落としたらどうなるかなんて、キャリーは想像すらしたくなかった。
森を道なりに進みながら、一番くらい脇道を探し始める。
違う。
違う。
違う。
通り過ぎる度にイライラする。
早くしなくてはと、騒ぎ立てる。
思いっきり走って、奥から探すか?
そうすれば、早く見つかるのではっと、思った。その時、他よりも暗くジメジメとした脇道を見つける。
(ここだ!)
キャリーは見つけた一瞬にして、体の向きを変えて迷わずに入っていく。
(お願い、お願い、早く辿り着かせて!)
暗い森の中を駆け抜けていく。
気を抜いたら湿った落ち葉に足を滑らせそうだった。
走り続けるキャリーに一筋の光が照らす。
思わず、目を見開いた。
森の中に建てられた小さな家。
周りには様々な花が咲き誇り、小さな楽園のようにも見える。
キャリーは急いで速度を落とし、止まった。
辺りを堪能している余裕がないキャリーは、そのまま真っ直ぐ走り小さな家の戸を叩いた。
「レサ姉、レサ姉! いるんでしょ? お願い助けて! オリパスが」
バンバンと戸を叩いているとキーッと音を立てて戸が開く。
中から現れたのはミルクティー色の髪を束、おさげで肩に垂らした髪。
白いシャツを見に纏い、首物にリボンのようなゆらゆらとしたハンカチを着けていて、裾は手に向かう程、ふんわりと膨らんで、手首でキュッと縮こまっている。
黒いコルセットの下からは、ズボンではなく、長くスーッと足のラインが想像できるような黒いスカートを履いていた。
キャリーは背中に背負うオリパスの危機を一瞬忘れるほど、目の前の女性に見入ってしまった。
「キャリー?」
声を聞いた瞬間、ハッとなる。
目の前に立っていたのはファイアナド騎士団、サソリの尻尾、暗殺者レサトだった。
昔と違う姿にキャリーは言葉を見失う。
今の彼女の衣装はオシャレで綺麗だった。でも、昔のレサトからは、想像もつかない無駄の多い服である。
レサトは困った顔を浮かべながらキャリーを見下ろしていた。
「あ、えっと……えーっと……」
言葉に詰まるキャリーだったが、今すぐに伝えたい大事なことを頑張って絞り出す。
「オリパスが、オリパスが!」
彼女の動揺する姿と背中でぐったりとしている青年の姿に何かを察する。
「入って」
彼女は端によって言った。
中に入ると青白い空気に包まれる室内が広がっていた。
中央には大きなテーブル、奥の窓際に薬品などが置かれた作業台机が並んでいる。
左を見ると暖炉が部屋の中央にあり、その横に奥へと続く道があった。
ことことと煮込む音が聞こえてくる。
「キャリー、オリパスを私のベッドへ」
レサトの声にキャリーは頷く。
戸の横見る。
壁にへこんだ空間があった。
石レンガのアーチの下に白いシーツが敷かれている。
レサトは毛布を邪魔にならない場所にずらして、待っていた。
キャリーは、背負っていたオリパスをベッドに寝かしつける。
肩が軽くなる。でも、安心は出来ない。
一歩、二歩と後退りした。レサトに任せるしかない。
彼女はすかさず、オリパスに近づき、顔色と呼吸を伺う。
「まだ、息はあるみたいね……」
ホッと一息つく。
それが、安堵か失望かはキャリーには分からない。
レサトは次に彼の服を捲り傷口を観察する。
「果物ナイフとかで、刺されたのね」
「うん、よく分かったね」
キャリーは小さく頷いた。
「適当よ。傷口の小ささ的に他のものとは考えられないわ」
レサトは立ち上がり、早歩きで暖炉の奥にある部屋に入っていく。
戻ってきた彼女の手には、包帯と裁縫セットが握られていた。
「キャリー、机に置いてあるお酒、取ってちょうだい」
レサトは目で指しながら、指示を出す。
見ると机の上に一本の瓶が置かれている。
紅茶色に近い液体がたっぷり入っていた。
キャリーは言われた通り、取って瓶を手渡した。
「ありがと、悪いんだけど外で待っててくれる」
受け取りながらレサト言う。
傷口を縫って塞ぐため、集中したかったのだ。しかし、キャリーは心配で首を横に振る。
「うんん、見守ってる」
「出てって」
「やだ!」
オリパスが心配なキャリーは、断固拒否する。
「なら、騒がないでね」
困り顔を浮かべるレサトだったが、キャリーのわがままを許すことにした。
布にお酒を染み込ませる。
レサトは傷口に布を押し当てて血を拭き取った。
「グッ!」
オリパスが悶える。
「オリパス! 大丈夫か⁉︎」
彼の苦しむ声にキャリーは焦ってしまう。ハラハラとする彼女にレサトは一瞬、冷たい視線を送る。
キャリーはゾクッと悪寒が走り、身をこわばらせた。
レサトはキャリーに近づいて優しく抱きしめた。
「大丈夫よ。オリパスは私が助けるわ。だから……」
彼女はそのままキャリーを持ち上げる。
「わぁ! え、ねぇ、なに?」
聞いても答えてくれない。
下された時、キャリーは家の外に追い出されていた。
静かな森に空気の流れる音が静かに聞こえてくる。
レサトは微笑みながら言った。
「少し外で待っててね」
彼女の笑みには妙な覇気が込められていた。
うるさくして、怒らせてしまったのだとキャリーは気づく。
俯きながら謝った。
「ごめんなさい……」
「……」
レサトは何も言わず、顔に妙な影を落としながら扉を閉めるのだった。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
ファイアナド騎士団、サソリの尻尾、暗殺者レサト。
以前、少しだけ登場しましたね。
彼女の方が人を多く殺しているって少し変な感じしますね。
まあ、実際は誤差の様なものなんです。
レサトは確実に一人ずつ殺していきましたが、メアリーは一気に敵を倒して行ったのです。
なので、バシレイアの兵士ルーク(以前、キャリーと共に仕事をした男)の様に生き残った人がいました。彼らは、ガタガタとメアリーの恐ろしさをしっかり語ります。
こんな感じで、名が挙がっていきました……そう考えるとレサトさん、やばいのでは?
彼女を従えてるメアリー、あんたもすごいな……
後半、オリパスが治療を受けるシーン、針で縫うように書こうと思ったのですが、僕の想像力が豊かすぎて、気分が悪くなったので書くのを断念しました。無念!
滅茶苦茶痛いシーンより、地味痛の方が共感しやすい気がする……
いや、どっちも痛くて嫌だよ!
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