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第2話 心配ご無用!

『カチッ』


甲高い機械音が響いた瞬間、世界から一切の音が消え去った。

「押し……押してしまったわ……っ! 最高の押し心地……!」


 ソフィアが達成感に浸る横で、不自然な格好のまま「押すなああ」の表情でピタリと静止する王子……。

ワイングラスの雫も、風に揺れていたカーテンも……完全に時が停止してしまったのだ。


「……あら?」

ソフィアは首をかしげた。

世界中の時が止まり、静寂だけが支配する会場で、彼女はふと壁の大きな鏡に目をやった。


(……ん? 私の頭頂部にも、ちっちゃくて可愛いボタンがついてない?)

己の頭頂部に存在する謎のスイッチに、人生で初めて気づいたソフィア。


彼女は三秒ほど真剣な顔で鏡を見つめ……

「まあ、いっか!」

 

 一瞬で己のスイッチへの疑問を捨て去ったソフィアは、誰も動かない静寂の王宮をウキウキと散策し始めた。

……しかし、30分後。

「……暇ね」


 時が完全に止まった世界……風も吹かず、音もなく、誰も喋らない。

王子の顔に落書きをしてみたり、豪華なドレスを大臣に着せて遊んでみたりもしたが、あっけなく手詰まり感を迎えてしまった。


「うーん……どうしましょう。このままじゃ一生、誰ともお喋りできないですし」

困り果てたソフィアは、顎に指を当ててう~んと唸る。


 その時、ふと先ほど鏡で見つけた自分の頭頂部の小さなスイッチの存在を思い出した。

「そういえば……私のこれ押したら、時が動き出したりしないかしら?」


藁にもすがる思いで、ソフィアは己のつむじへ指先を伸ばした。

自分のボタンを押すのは、生まれて初めての経験である。


『ポチッ』


控えめな音が響く。

世界に光が包まれるか、あるいは爆発でも起きるかと身構えるソフィア。


……だが、何も起きない。時間は止まったままだ。

「……あら? 失敗かしら?」


そう呟きながら、なんとなく自分の頬に触れたソフィアは驚いた。

「っ……!? な、なにこれ……っ!!」


スベッ……スベスベスベッ……!

吸い付くような弾力!毛穴という概念すら消滅した、まさに究極のゆで卵肌!


「お肌が……めちゃくちゃすべすべになっているわ……!?」

自分の顔を撫で回しながら大興奮するソフィア。


しかし、冷静になると一つの事実に突き当たった。

「……私のスイッチ、能力の規模小さすぎないかしら……?」


世界を救うでも時を動かすでもなく、ただの「セルフ・エステ効果」。

あまりのショボさに呆然としていたその時……



『おお、哀れな乙女よ……!』


「きゃっ!?」

不意に頭上から光が降り注ぎ、神様が降臨した!


『王子のスイッチは【世界時間停止ボタン】じゃ。 あれを解除し、世界に時を取り戻すには……魔王の頭にある【時間停止解除ボタン】を押すしかない!』


「魔王の頭にボタンが!?」


 神様は仰々しくうなずくと、ソフィアの手に光り輝く一本の剣を握らせた。

『この「聖剣」を授けよう! さあ勇者よ、魔王城へ向かい、世界の時を動かすのじゃ!』


「ええっ!? でも私、魔王城の場所なんて知りませんし、徒歩で行くなんて面倒……」


『心配ご無用! 今日は特別に【神様スペシャルサービス・魔王の目の前へ直行便】を適用してやろう! ほれ、行ってこいっ!』


「ちょっと待って、心の準備が――」


神様が指を『パチン』と鳴らすと、ソフィアの姿はフッと消えた。


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