第1話 令嬢のローキック
豪華なパーティー会場。
第一王子アレンによる、公爵令嬢ソフィアへの「婚約破棄宣言」の真っ最中であった。
「思いつきの行動を繰り返す……お前との婚約など、もはや維持できん!」
しかし令嬢は、厳しい面責など一切耳に入っていなかった。
彼女の視線はただ一点。
アレンの金髪の頭の上に鎮座する、謎のスイッチ(赤い押しボタン)を見つけてしまったのだ。
(な、何ですのあれ!? 押したい……押したいですわ……!)
アレンにじりじりと接近し、スイッチを押そうとするソフィア。
「や、やめろ! このボタンは押すと危険だ!」
慌てて逃げる王子。
「問答無用でございます、アレン様!」
ドレスの裾を豪快に両手で掴み上げたソフィアは、猛然とダッシュを開始した。
ターゲットはただ一つ。
逃げ惑う王子の金の髪……その頭頂部に鎮座する、真っ赤な「スイッチ」である。
「近寄るな! ペリンチョ、こいつを止めろ!!」
「申し訳ございません殿下。お嬢様の『押したい』衝動は、国家の防衛システムすら突破いたします」
手帳を広げた執事のペリンチョは、流れるような手際でペンを走らせながら、冷徹に返答する。
「ハッ!!」
ソフィアの鋭い右ストレートが王子の顔面をかすめる。
王子は必死の身こなしでそれを紙一重で回避するが、それこそが令嬢の真の狙いだった。
上半身を大きく反らせて隙だらけになった王子の軸足、その膝裏を目がけて、ソフィアの容姿端麗な脚から容赦のないローキックが叩き込まれる!
ドゴォッ!!!
「ぐわっ!?」
重厚な打撃音が響き渡り、王子の体勢が完全に崩れた。
膝からガクリと床へ崩れ落ち、頭部が無防備にソフィアの目の前へ差し出される。
「かかったわね、殿下!」
「ま、待てソフィア! タンマ、話せば分かる、お願いだから――」
「問答無用よっ!」
躊躇という言葉を放棄したソフィアは、王子の頭頂部のボタンを全力で押し込んだ。
『カチッ』




