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ROYAL BOUNTY  作者: アオキチ
リンプイン監獄

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3/16

魔法の適正

 ミラーラの話から、この世界の輪郭が少しだけ見えてきた。


 この世界では、各国が提示する依頼紙《賞金広告》を遂行し、賞金を得る。そんな『賞金稼ぎ』という自由業が生業として確立されている。


 だが、リンプイン監獄はただの牢獄ではない。


 世界中から捕らえられた賞金首の中でも、特に一芸に長けた者だけを選別し、国家への貢献という名目で搾取し、飼い殺すための施設だった。


 さらに、この世界には『魔法』が存在すると聞き、高鳴る鼓動が顔にまで連動する。興奮を冷静の仮面で押し込めた。


 夢物語みたいな話だ。


 だが現実なら――この清潔で気味の悪い地獄にも、希望が残っている。


 本当にそんな奇跡があるなら、今すぐこの手で試してみたい。


 俺はずっと喉の奥に仕舞い込んでいた、この世界で最も知りたかった問いを口にする。


「魔法って俺でも使えるんですか?」

「あら、試してみたい?」



 案内された訓練施設は殺伐としていた。それでいて充実しており、壁に並ぶ年季の入った対人用武器、弓術や射撃のスペース。


 その喧騒を避けるように一段高い石壇の上に、その秤は据えられていた。

 磨き上げられた重厚な魔導合金の台座、こちらを向く円形の盤面に淡い水晶球が嵌め込まれていた。


 水晶の奥底では、弱い光がゆっくり明滅している。

「お国柄なのよ。主に看守達が定期的に訓練のため使用しているわ」

「国柄?」


「そうよ、リンプイン監獄は軍国ブラックフォージの領土。優れた軍事力と統率力で構成された国ね。ただ中には野心家がいて、良くない噂もあるみたい」


 軍国、監獄、野心。

 俺が放り込まれたのは、思った以上に厄介な場所だ。


「……何でこんな身の危険がある場所に、俺がいるんだ?」


 指先の体温が、すっと引いていくような感覚があった。もし俺に、そんな連中が欲しがるようなちからが眠っていたとしたら。


「それより魔力測定器で測ってみましょう。異世界からの来訪者の魔力に興味あるわ」

 声に純粋な好奇心が混じる。


 俺は唾で喉を鳴らし、秤の前へと踏み出した。



「もし特別な力があるなら、この理不尽な世界をくつがえすため、俺をこの地獄へ放り込んだ何かを突き止めてやる」



 作法は至極単純だった。中央に鎮座する水晶へ、ただ掌をかざす。

 吸い寄せられるように右手を伸ばし、水晶に触れた。


 一瞬の間、四隅に刻まれた紋章が掌を起点として、赤、青、緑、琥珀――四色の光筋が盤面を這い、回路を駆け抜けた。


 そして。四色の光を飲み込むように、水晶の中心で白と黒の光が螺旋を描き、互いを喰らい合う、だが小さく明滅を繰り返す。


 四色の光が一つに溶け、やがて――この世界のどこにも存在しない、古代の色彩へと収束していく。隣に立つ研究者が小さく息を呑む。


 四色の残光、塗り潰されていく白と黒。その異様な光景が、震える瞳に好奇心を刻んでいる。


 ミラーラの驚きは、落ち着かない俺の胸に確かな、そして熱い期待を灯した。


「どうですか!?」


 思わず身を乗り出した俺に、視線を落としたまま答えた。

 その瞳に宿るのは俺じゃない。中身を標本みたいに観察している。存在感をなくし、体温や感情を感じさせないくらい静かだった。


「四属性すべてに適性がある、まるでお伽話の英雄譚だわ。さらに、文献でしか見たことがない第六属性まで……。けれど」


「けれど?」

「どれも光が弱すぎるの。濃く発光すれば、歴史を塗り替える魔術師になれたけど……この薄さじゃ、成長見込みもないわね」


 声は淡々としていたが、その瞳には古代の色彩が網膜に焼き付いていた。


「そんな……だって、色んな色が、色々と色取りどり、取り合って!」


 判然としない熱が、胸の奥を焦がす。その答えを出す前に、室内の空気はピリッと一瞬で氷結した。



 廊下から響く、重厚で統制された軍靴の響き。現れたのは、リンプイン監獄の規律そのものを体現する、鬼人の看守たちだった。


 強靭な体躯。額から突き出た、雄々しく権威を固めた鈍色にびいろの角。


 ただそこに立つだけで、その場の空気が重くなり、上手く呼吸できず、喉が詰まった。まさに鬼の名に相応しい。


 制服には一点の皺もなく、その鋭い眼光は、囚人という名の部品が正しく機能しているか値踏みし、ふるいにかけていた。


「お前ら。ここは遊び場ではない、他所へ行け」


 地鳴りのような声が、重苦しく室内に響く。

「……失礼しました。行きましょう」


 ミラーラは短く応じ、俺は測定器から手を放した。俺の手を強く引き逃げるように、その場を後にした。



「あいつが、異邦人か。華奢でとても強そうには見えんな」


 背後で重く、のしかかる声が聞こえた。だが、その声はすぐに困惑へと変わる。


「ん? おい、見てみろ。この機械とうとう壊れたか。」

 看守の視線が、魔力測定器に注がれる。


「四色の光筋が……消えんぞ。それどころか、中央の白黒がより濃くなってやがる」


 立ち去る俺たちの背に、消えるはずのない古代の色彩が、静かに、消えず、濃くなっている。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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