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ROYAL BOUNTY  作者: アオキチ
一章 リンプイン監獄

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魔法の適正

 ミラーラの話から世界の輪郭が少しだけ見えてきた。


 この世界は各国が提示する、依頼紙(賞金公告)に記された内容を遂行し、賞金を得る。

 『賞金稼ぎ』という自由業が成立している。


 そしてリンプイン監獄はただの牢獄ではない。


 世界中から捕らえられた賞金首の中でも、特に一芸に長けた者だけを選別し、国家への貢献という名目で搾取する。


 飼い殺すための施設だ。


 さらにこの世界には、『魔法』が存在すると聞き、胸が高鳴った。

 熱を帯びた頬を隠すように、興奮を押し殺す。


 夢物語みたいな話だ。

 本当に魔法があるなら、この清潔で気味の悪い地獄に希望が残されている。


 でも本当にそんな奇跡があるのか?

 ……あるならこの手で試してみたい。


 俺はずっと喉の奥に仕舞い込んでいた、この世界で最も知りたかった問いを口にした。


「魔法って俺でも使えるんですか?」

「あら、試してみたい?」



 案内された訓練施設は殺風景だったが、設備は充実している。

 壁には年季の入った武器が並び、弓術や射撃のための区画まで備えられている。


 喧騒を避けるように一段高い石壇の上に、秤が据えられていた。


 磨き上げられた重厚な魔導合金の台座。

 こちらを向く円形の盤面に、淡い水晶球が嵌め込まれており、水晶の奥底では、弱い光がゆっくり明滅している。


「お国柄なのよ。主に看守達が定期的に訓練のため使用しているわ」

「国柄?」


「そうよ、リンプイン監獄は軍国ブラックフォージの領土。優れた軍事力と統率力で構成された国ね。ただ中には野心家がいて、良くない噂もあるみたい」


 軍国、監獄、野心。


 俺が放り込まれたのは、思った以上に厄介な場所だ……こんな身の危険がある場所に、何で俺がいるんだ?


 指先の体温が、すっと引いていく。


 俺に軍国が欲しがるようなちからが眠っていたとしたら――。


「それより魔力測定器で測ってみましょう。異世界からの来訪者の魔力に興味あるわ」


 声に純粋な好奇心が混じる。

 俺は、秤の前へと踏み出す。


「俺に特別な力があるなら、この理不尽な世界をくつがえしてやる! そして、この監獄へ放り込んだ何かを突き止めてやる!」


 中央に鎮座する水晶へ掌をかざす。

 吸い寄せられるように右手を伸ばし、水晶に触れた。


 一瞬の間。


 四隅に刻まれた紋章が掌を起点として、あかあおみどり琥珀こはく――四色の光筋が盤面を這い、回路を駆け抜けた。


 四色の光を飲み込むように水晶の中心で、白と黒の光が螺旋を描く。

 互いを喰らい合い小さく明滅を繰り返す。


 四色の光が一つに溶ける。


 色と色の境界が溶けていき、見たことのない光へと変わっていく。

 言葉にできない……何色とも呼べない光だ。


 隣に立つミラーラの顔付きは研究者のように物事を冷静に見る。

 そして小さく息を呑む。


 四色の残光、塗り潰されていく白と黒。

 異様な光景が、震える瞳に好奇心を刻んでいる。


 ミラーラの驚きは落ち着かない俺の胸に、熱い期待を灯した。


「どうですか!?」


 思わず身を乗り出した俺に、視線を落としたまま答えた。


 その瞳に宿るのは俺じゃない。

 中身を標本みたいに観察している。

 存在感をなくし、体温や感情がないくらい静かだ。


「四属性すべてに適性がある、まるでお伽話の英雄譚だわ。文献でしか見たことがない第六属性まで――けれど」


「けれど?」


「どれも光が弱すぎるの。濃く発光すれば、歴史を塗り替える魔術師になれたけど……この薄さじゃ成長見込みもないわ」


 声は淡々としていたが、その瞳には古代の色彩が網膜に焼き付いていた。


「そんな……だって、色んな色が、色々と色取りどり、取り合って!」


 判然としない熱が胸の奥を焦がす。

 その答えを出す前に、室内の空気はピリッと一瞬で凍りついた。


 廊下から響く、重厚で統制された軍靴が響く。

 姿を現したのは、リンプイン監獄の規律そのものを体現する──鬼人の看守たち。


 強靭な体躯に額から突き出た、雄々しく権威を固めた鈍色にびいろの角。


 そこに立つだけで、その場の空気が重くなり、上手く呼吸できず喉が詰まる。


 制服には一点の皺がない。

 鋭い眼光は、囚人という部品が正しく動くか値踏みしているみたいだ。


「お前ら、ここは遊び場ではない。他所へ行け」


 地鳴りのような声が、重苦しく室内に響く。

「……失礼しました。行きましょう」


 ミラーラは短く応じ、俺は測定器から手を放した。

 俺の手を強く引き、逃げるようにその場を後にした。


「あいつが、異邦人か。華奢でとても強そうには見えんな」


 背後で重く、のしかかる声が聞こえた……が、その声はすぐに困惑へと変わる。


「ん? おい、見てみろ。この機械とうとう壊れたか。」


 看守の視線が、魔力測定器に注がれる。


「四色の光筋が……消えんぞ。それどころか中央の白黒が、より濃くなってやがる」


 立ち去る俺たちの背後で古代の色彩だけが、静かに濃さを増していた。

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