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ROYAL BOUNTY  作者: アオキチ
三章 上層 王冠宮

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スートレス建国祭

 王冠宮の中は別世界だ。


 銀器の触れ合う音と弦楽の調べが天井の高い広間に満ちている。


 厨房と会場を何度も往復し料理を運ぶ。


 皿の上には見覚えのある食材と名前も知らない具材が並び、見知った動物に似た肉や果実もある。


 もしかすると俺のいた世界と同じ生き物がこの世界にもいるのかもしれない。


 フェスカは慣れない服に悪戦苦闘し他の給仕と何度も肩をぶつかり、すでに何人かに怪しまれている。


 料理を運ぶたび皿から一口ずつ頬張っていて卓に並ぶ頃には料理は決まってどこか欠けていた。


 シノが料理を運ぶ姿は本職の給仕と見分けがつかない。

 無駄のない動き伸びた背筋――そして口元には摘み食いした食べかすが残っている。


 後ろから肩を掴まれ物陰へ引き込まれ振り向きざまに口の中に何かを押し込まれた。


 ――なんだ!? 肉か? 噛んだ瞬間に旨味が広がり思わず目を見開いた。


 視線の先でフェスカが次の肉を手に待ち構えている。


「どうせ手付かずで最後は捨てちまうんだ。多少食ったて変わんねぇよ」


 この世界に来て初めて本当の美味を知った。

 味わう間もなくフェスカの手から肉をひったくり気づけば皿にまで手を伸ばしていた。


「全部食っちまえ。皿は裏口から捨てちまえば、ばれねぇから」


 ……朝から何も食べてないんだ。

 仕方ないよな、旨いし。


 厨房は忙しさと繊細な盛り付けに集中して誰一人こちらを見ない。


 間をすり抜け裏口に出る。

 皿を茂みに投げ捨て振り返った。


 裏口の隣で年老いた女性が木箱に腰かけていた。


 顔の輪郭には薄い鱗が残りこめかみから耳にかけて、半透明のひれが扇のように広がっている。


 灰青色の肌には深い皺が刻まれ重たげな瞼が静かに伏せられていた。


 給仕たちと同じ濃紺の制服をまとい、膝の上では使い込まれたヴァイオリンを細い指先が抱いている。


 不味い――見られた。


「……こんにちは」

「あぁ、こんにちは」


 気付いてなかったみたいだ。

 裏口の扉に手を掛ける。

 年老いた女性が重く息を吐いた。


 つい動きが止まり視線を向ける……反応がないので扉に掛けた手へ力を込める。


「あたしゃ、この仕事を終えたら路頭に迷うことになるだよ」


 ――動けない。


 魔法にかけられたみたいに扉を開けることができず戻る事が出来ない。


 「……一緒に演奏してる子たちも次男や三男でね。仕事がなくて貧乏楽団に身を寄せて――」


 タイミングを完全に奪われた。

 諦めて裏口の隣で話を聞き続ける。


 「……どうしたらいいもんかね」

 身の上話をすべて聞き終えた頃には、かなりの時間が経っていた。


 軽々しく相づちすら出来ず、言葉が見当たらない。


 考えず素直に言葉にした。


「俺も記憶なくしてこの世界に放り込まれたよ。理不尽で、絶望して、それでも前向いて生きてるんだ」 


 言葉にした途端、胸の中に溜まっていたものが少しずつほどけていく。

 もやが晴れるように気持ちが軽くなった。


「この先どうなるかは分からない。だけど、せめて最後くらい錦を飾ってみたらどうかな」


 老いた女性がゆっくりとこちらを見上げ重たげだった瞼がわずかに開く。


「不思議だねぇ、嘘を言ってる目には見えないよ」


 裏口の扉が開かれフェスカが顔を出す。

()()の時間だ」

 

 俺は老いた女性に片目を閉じて合図する……少しキザだったかな?



 会場の裏方に俺とフェスカ、シノが集まる。


 厨房から持ち出した果物をつまみながらシノが最後の計画を切り出した。

 周囲の給仕たちはこちらを完全に怪しんでいる。


「宮殿の照明は吊り下げ式、天井裏には各照明を支える吊り鎖がある」


「オレが合図でそれをぶった切る。照明を落として暗闇の中でシノが聖女を背中から刺す」


「俺はどうすればいいんだ?」


「本来()()()は、この計画が失敗した時の保険。国の要人を仲違いさせ、催しを瓦解させる役目」


 そういえばジェリコの姿がないな、アイツに限って持ち逃げはない……はず。


「お前一人でも十分だな!」 

 フェスカが笑う。

「会場をぶっ壊す、簡単だろ?」

 

「すべては同時に進行」

 シノは果物を口に放り込む。


「聖女が踊りの誘いを受け、手を取った瞬間が合図」


 シノが俺に残りの果物を口に押し込む。


 買いかぶり過ぎだ。

 そんな役目俺に務まるのか?

 


 俺たちは会場を覗く。

 各国の要人たちが集まっている。


 豪華な衣装より先に目を奪われるのはその立ち姿だ。

 背筋はまっすぐ伸びさかずきを持つ仕草にすら迷いがない。


 誰も声を荒げていない。


 その場に立っているだけで周囲の空気が変わり、自然と人が道を開け視線が集まっていた。


 弦を擦る音が静かに広間を満たす。


 裏口で見かけた老いた女性が舞台の片隅でヴァイオリンを奏でる。


 生きてきた世界そのものが違う。

 同じ世界で生きているとは思えない。


 会場のざわめきがゆっくりと静まり視線の先で大扉が開かれた。


 堂々と先頭を歩く民族衣裳を着た……子供? その後ろには自信に満ちた足取りで前を見据える男と大勢の従者が列を連ねていた。


「"皇国トレフォイル"の王子だな。」

 フェスカが補足する。

「後ろは近衛将の奴だ。相手にするなよ、格が違う。」


 次に現れたのが獅子の顔をした大男、気品と威厳が溢れている……なんで一人なんだ?


「あれは"連合国ロマナス"。群雄割拠ぐんゆうかっきょでまとまりのない国で唯一まともな奴だ」


 周りの目を気にする素振りがない。

 人を引き連れたくないのか?


 続けて現れたのは……見覚えがある。

 優雅に歩く姿に冷酷を縁取ったかお──ガリウか!? 何故ここにいるんだ!?


 隣には背に翼を備えた女性だ。


 白いドレスシャツの上にベストを重ね長く優雅なコートを羽織っている。


 二人の後ろでは軍服を着こなした鬼人たちが寸分の狂いもなく隊列を組んで進んでいた。


「"軍国ブラックフォージ"。嫌でも知ってるだろ?」


 監獄リンプインが脳裏にちらつき体が強張った次の瞬間。



 俺は視線の先に全てを持っていかれ息を飲んだ。


 気品を体現した騎士たち。

 鎧のぶつかる音すら乱れず聞こえる。


 左右に分かれ道を作る。


 真珠のように白い髪に整った顔立ち。

 純白のドレスに身を包んだ姿、背中から伸びる翼に目を奪われる。


 歩くたびに模様のついた羽根が微かに揺れて視線は自然と翼を追ってしまう。


 広間の空気が完全に彼女のものになった。


「"聖王国ヴァレンタイン"。今回の標的、聖女だ」


 胸元には聖女を飾り付ける装飾品が静かに輝いていた。


 『遺物アーティファクト

 そして今夜の標的。

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