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ROYAL BOUNTY  作者: アオキチ
三章 上層 王冠宮

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思想と宮殿

 三人は給仕の服に着替えた。


 銃は目立つので置いていく。


 麻布のシャツに濃紺のベストを重ねる。

 胸元には銀糸で開放領都スートレスの紋章が縫い込まれてる。


 腰から下はゆとりのある黒のズボンで見た目に反して脚の動きを妨げない。


 足元を包む柔らかな短靴。

 軽くて動きやすい……確かに熱が籠る。


 フェスカが小型ノコギリを懐に仕舞い、木箱をどかし石床を剥がす。


「ここから下層まで行く」


 近寄って覗き込む……梯子だ。

 深い、下層まで直接行けるのか。


 梯子を下りていく。


 湿った空気と下層特有の空気が流れ込み命を賭けた依頼の記憶が脳裏をよぎった。



 残骸回廊に足を踏み入れフェスカとシノが周囲を見渡す。

 残骸の壁に立て掛けられた板に白い紋章が暗がりの中でぼんやり浮かんで見えた。


「これが目印」

「柱まで続いてんだよな」


 次の印を見つけるとシノが歩き出す。

 フェスカが指で招き後を追った。


 「あんな賞金稼ぎといるより、オレ達と一緒に開放領都スートレスを奪っちまおうぜ」


 開放領都を奪う? なにを言ってるんだ?


「フェスカ」

 シノが制止するように視線を差す。


「コイツなら大丈夫だ」

 フェスカは口の端を吊り上げた。


「オレ達は武装商会"コールド・デック"。開放領都スートレスの裏で暗躍する集団だ」


「武装商会なのか?」


 世界を賭ける連中と同じ卓についていたのか……契約場を通してないから怪しいとは思っていたが。


「革命家なんてキレイなもんじゃない。だが、ここを起点にして、各国に進出し、世界を掌握してやるのさ!」


 フェスカは得意気に手を掲げてシノの口から息が漏れる。


「私たちが夜会で平和を終わらせ戦争を引き起こす。コールド・デックが各国に武器を供給して資金を集める。物流の要になった所で旗揚げする」


「各国にオレたちが潜伏している。リンプイン監獄にもいたんだぜ? そいつら集めて世界の覇権をとっちまえば、犯罪者から偉業者だ!」


 国際問題どころの話じゃないぞ? 世界の根幹を揺るがす犯罪組織じゃないか。



 魔族と争った広場に出る。


 魔物の死体どころか戦いの痕跡すら残っていない。


「あの魔物は厄介だった。けど毒袋は使い道がある。回収させてもらった」


 シノは柱の穴に入っていく。


 中を覗くと螺旋階段があり滑らかな曲線が上へ続いている。


 芸術品みたいな造りだ。

 俺たちは階段を登り上層を目指す。


「リンプイン監獄を壊滅させて仲間を逃がした! 魔族を追い払って段取りを組んでくれた実績がある。ボスにはオレが話をつける!」


 フェスカは鼻息を荒くして肩に腕を回し、俺はその手を押し退ける。

 

 「俺はこの世界に来た理由を確かめなきゃいけない。失った記憶を取り戻すんだ」


 「記憶がない? アーティファクトが使われた?」


 シノの言葉に胸の奥が強くざわめいた。


 「どういう意味だ?」

 「アーティファクトは個人に影響を及ぼす物、国の資産で管理されてる。夜会で権威の誇示として集まる」


「なぜ俺に使われた、なにを知ってるんだ」


 シノは無機質な顔のまま階段を登っていく――フェスカが背を押す。


「聞きたければ力付く……ってのは今は辞めてくれ。夜会で確かめる機会があるんじゃねぇか?」


 餌を待つ家畜みたいだ、もどかしい。


「それに過去なんていいじゃねぇか。これからオレたちとのし上がって、新しい未来をつくろうぜ。ここが居心地よくなるからよ」


 ……それもいいのか? 新しく居場所を持つ、もし『俺が望んで来た』のだとしたら――あり得るのか? 


 シノが立ち止まり目印を押し退けると石壁が取り外されて外に出る。


 視界が開けた。


 白い石畳が沈みゆく夕陽を冷たく照り返し尖塔と庭園が茜色の空に突き刺さっていた。


 下層の不快な臭いは消えて代わりに花と香を含んだ風が静かに吹き抜ける。


「……こんなにも格差があるのか」

「金を持てば叶う夢」


 シノの言葉に重みがある。


 フェスカが宮殿を指差す。

「あそこが夜会の会場……えっと」


「"王冠宮"」

 シノがフェスカの言葉を繋いだ。


「最も高く、最も多くの富と権力が集まる場所」

「下層で流れた血、中層の労力が最後には王冠宮へ注ぎ込まれる――ってことだろ!」


 フェスカは満足げにシノを見る。

 シノは変わらず無機質な顔のまま、王冠宮へ歩いていく。


 王冠宮を見上げ息を呑む。

 今夜、この場所に足を踏み入れる。

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