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ROYAL BOUNTY  作者: アオキチ
三章 上層 王冠宮

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武骨と端麗

「待ってたぞ、来てくれて嬉しいぜ」


 フェスカの笑顔は曇りなく純粋だ。

 俺の肩に手を置く――残った片目を細めジェリコを一瞬、値踏みするように見た。


 「こっちはジェリコだ、一緒に仕事して住む場所の世話になってる」


 フェスカがジェリコの前に立つ。

「自己紹介が必要か?」

「悪いが必要ない、報酬の話を先にしてくれ」


 一瞬の出来事に視線が迷う。


 ジェリコの事情を説明するべきか? これから仕事を共にするのに印象が悪いし弁明が必要だよな?


「賞金稼ぎか」


 フェスカは部屋の隅に歩いていく。

 木箱をどかしてしゃがむ。


「仕事してくれりゃ何でもいいさ。選り好みしてる時間もねぇし」


 床を開きフェスカが首で促す。

 先に床下へ降りていく。


 地下だ……梯子が下へ続いている。


 フェスカの後を追う。


 梯子を降りると魔鉱石のランタンが壁に吊るされ、橙色の光が部屋を照らしている。

 地図を広げたテーブルに手を着いている人間……に近い存在がいる。


 黒く乱れた髪は肩口まで伸び寝癖のように無造作に跳ねていた。

 瞳は半ば伏せられ眠たげで気怠くしている。


 耳の周囲には小さな羽根が生えており人の姿にわずかな鳥の名残を残している。


「"シノ"、計画に必要な人員を連れてきたぞ。先に報酬の話だ」

「そう……金貨五枚の仕事、三:二」


 シノの肌は青白さを帯びて唇は薄く表情の変化に乏しい。

 何事にも深入りしない目をしている。


「それで構わん、前金で寄越せ」

 ジェリコが腕を組んで声を張った。


「ダメだ」

 フェスカが短く切り捨てる。


「持ち逃げされちゃ困るんだよ、仕事を完遂して報酬。分かるよな?」

「瞼の裏に狐を刻んでる。だが今は譲れない」


 見上げるフェスカと見下ろすジェリコが再び向かい合う。


 お互い視線を外さない。


 シノは関心すらなく変わらずテーブルの地図を見ている。

 

 会話が衝突から始まる。

 だから話が早いんだよな、そしてジェリコの事情もある、状況が悪化する前に切りだそう。


「フェスカの言い分が正しい。だけど本当に困ってるんだ、仕事はやり遂げる、頼む」


 呼吸の音と自分の鼓動しか聞こえない、額縁に飾られた絵画のように膠着する。



「前金でいい」

 シノが切り出した。


 眉間にしわを寄せフェスカが視線を向ける。


「他に人員がいない、予定より安上がり。()()の友達なら裏切らない」

「……もういい、分かったよ」


 フェスカは部屋の隅の木箱へ歩いていき、シノがテーブルの地図を指差した。


「月の下、上層で各国の友好の架け橋となる建国祭が開催される。しかし、それを面白くないと思う者がいる。」


 フェスカが振り向く。

「あぁ、ボスのことだよな」


 シノがフェスカへ視線を向け目を鋭くさせフェスカは慌てて木箱を漁る。


「私たちは建国祭に潜入する。そこで平和に亀裂を入れる事件を起こす」


「どこから潜入するんだ? "中央昇降リフト"は使えないだろ」


「前の晩、魔物の縄張りが退いた場所。柱を調べた」


 シノは地図をなぞる。


「そしたら上層まで直通で空洞になってんだぜ。しかもご丁寧に階段まで作られてたんだからよ」


 フェスカは小袋をジェリコの顔に投げ、布を足下へ転がした。

 ジェリコは袋を掴み、布を拾いあげ脇に抱える。


「詳しい話はそいつにしてくれ、後で合流する。オレたちはその縄張りの上位種と魔族を退けた。期待には応える」 

 ジェリコは梯子に手を掛け登っていく。



「やるじゃねぇか! 魔族にまで喧嘩売ったのかよ」

「リンプイン監獄を壊滅させた能力、期待してる」


 フェスカが木箱から布を取り出しテーブルに並べた……服か?


「給仕で潜入すんだよ、一目見た時から奉仕する体型だと思ったぜ」


 なんだよ奉仕する体型って。


 「今から私たちも着替える」

 今から着替える? この場所で?


 シノは男とも女ともつかない中性的な顔立ちに鋭さと儚さを同時に宿している。

 無駄な筋肉を削ぎ落とした長身。


 いいのか? 場所がないもんな。

 仕方ないよな、仕事なんだから。


「この服は熱が籠るから着たくねぇんだよな」

 フェスカが服を脱ぐと全身鱗が覆われ、傷跡が雄々しく語って鍛え抜かれている。


「凄いな、強そうでカッコイイぞ」

「そうだろ! 分かるじゃねぇか」


 フェスカが笑顔になり肩を叩く。

 シノがやり取りを眺める。

 こちらへ歩み寄り背を向ける。


 「私はシノ・フェム、夜鷹ヨタカの鳥人」


 背の翼を広げる。


 褐色と黒がまだらに混じり合う。

 木の皮や枯葉に溶け込むような羽色。


 派手さはないけど目を奪うような静かな存在感だ。


 「あぁ、潜入するのに目立たない最適な翼だな」



 シノは静かに翼を閉じる。


 テーブルの服を脇に抱える。

 梯子へ歩いていき登っていく。


「んだよアイツ。褒めてんだから、素直に喜べよな」


 もしかして俺は……何か大切なものを取り逃したのかもしれない。

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